魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 66

  • 2020.03.31 Tuesday
  • 17:37

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 世界壁は、ガラスのように透明で、虹のようにカラフルで、綿のようにやわらかく、石のようにかたく、氷のようにつめたくて、お日さまのようにあたたかい。
こんなことを言ってもたぶん想像がつかないとは思うけれど、まったくそのとおりで、何といって説明してもそれは本当でもありうそにもなる。
ようするに、なんと言えば正しい説明になるのか、よくわからないものだ。
かんたんに通りぬけられるようでもあり、永久に通りぬけられないようにも感じられる。
紙のようにうすいようでもあり、どこまでいっても終わらないほどぶ厚いようでもある。
正体が、まったくつかめない。というのが、いちばん正しい表現だろう。
私自身は、そんな世界壁を通り抜けることは今回がはじめてではなかった。
何度か、くぐり抜けた経験がある――といっても自分ひとりだったわけではなく、神さまといっしょだったり、ユエホワといっしょだったりしたので、おそらく彼らの力によってそれができたのだろう。
私以外の人びとは――父や母、祖母、そして祭司さまもふくめ――皆、今回がはじめてのようすで(まあそれが当たり前というか普通なのだけれど)、神の力によってひらかれた世界壁のすき間を通り抜けるとき、全員がため息をもらし、感動の声をあげ、きょろきょろとあたりを見回して、その不思議な風景を目にやきつけていた。
私は――何度もいうけどはじめてのことではなかったので、そこまでめずらしがったりおもしろがったり感動したりすることはなかった。
でも「何回か通ったことがある」と自慢することもはばかられたので、ひとまずおとなしく、皆について通り抜けるだけだった。
それでも世界壁はやはり不思議で、この先にどんな世界が待ち受けているのかも予想できず、少しこわく、不安もあり、どきどきするのはたしかだった。

 

 そして私たちは、そこに着いた。
地母神界だ。
アポピス類たちが得たというその世界は、とても広く、がらんどうで、遠くにいくつかの低い山が見えるほかには、海も、湖も、川も――それどころか小川や水たまりほどの池すらも、見当たらなかった。
そして、だれもいない。
「なに、ここ」私は思ったままそう言ったが、だれも答えもしなければ、笑いもしなかった。
たぶん皆いっせいに思っていたんだろう。「なに、ここ」と。
「アポピス類はどこにいるんだ?」だれかが言った。
「空気がずいぶん乾燥してるな」別のだれかも言った。
「寒いな」
「陽はさしてるのか」
「空は青い……いや、赤い……いや、黄色いのか」
「昼なのか夜なのか、わからないな」
「俺たちはここからどうすればいいんだろう」
皆はしだいにがやがやと言葉を口にしはじめた。
私は、ゆっくりと歩いてみた。一歩、二歩、三歩。
足元の砂はとてもさらさらしていて、踏みしめるたびに足が何センチか沈み込む。さく、さく、と心地よい音がする。
「動物も植物もいないわね」私のうしろで母がそう言った。
「うん。だれかも言っていたけど、アポピス類たちはどこにいるんだろう……地下にもぐっているのかな?」父も答えてそう言った。
「あっ」私はあることを思い出し、目を見ひらいて口をおさえた。
「ん?」
「どうしたの?」父と母がすぐに問いかける。
「――そういえば」私が思い出したのは、ここに来る前、聖堂の裁きの陣でフュロワ神が言っていたことばだった。でも。「――」私はそれをすぐに、口に出せなかった。
「どうしたの?」もう一度、今度は祖母が問う。
私は祖母の肩にかけられてている小さなバッグを見つめた。その口から、ほんのりとした小さな白い光が、姿をあらわしている。
ハピアンフェルだ。
ハピアンフェルのいるところで、こんなことを言ってしまってもいいんだろうか。彼女をひどく傷つけてしまうことになるのではないか……?
「だれかが何かを話していたの?」祖母がきく。「ユエホワ?」
「ううん」私はつい正直に首をふってしまった。「えと、……フュロワ神さま」
「まあ」
「おお」
「えっ」
「なんだって」父や母だけでなく、まわりにいる大人たちが次々に私をふり向き声をあげた。
「まあ。すばらしいわ、神さまとお話するなんて」祖母は首をふって感動していた。「神はなんとおっしゃっていたの?」
「――う」私は声をつまらせて下を向いた。どうしよう。
「妖精が、この世界の泉を枯らしたり果物を腐らせたりしてるって話だ」とつぜん私たちの頭の上から声が聞こえてきた。
「おお」
「まあ」
「なんだ」
「あっ」
「うわっ」皆はいっせいに上を見上げ、そして驚いた。「鬼魔だ!」
ざっ、とキャビッチスロワーたちがいっせいにキャビッチを肩に構える。
「待って」
「彼は敵ではないわ」
「投げないで皆」母と祖母と父が同時に叫ぶ。
なので、空中に浮かんでいた緑髪のムートゥー類は、誰からも攻撃を受けずにすんだ。
「ユエホワ」祖母が問いかける。「それは本当なの? 妖精がこの世界の泉を枯らしたと?」
「フュロワ神がそう言ってた」ユエホワは祖母をまっすぐに見て答えた。「嘘ではないと思う」
「ポピーも、それを聞いていたというの?」母が私に問う。「フュロワ神から?」
「――うん」私は正直、先にユエホワが話してくれてよかった、と思っていた……われながらずるいとは思うけど、本当のところ言いにくいことを言わずにすんでほっとしていた。「妖精たちが、アポピス類に攻撃をしかけているって」
「ハピアンフェル」祖母は肩から提げているバッグに向かって声をかけた。「あなたはそのことを、知っていた?」
小さな妖精は、ふわり、とバッグの口から飛び上がった。それから少しの間、人びとの頭より少し高いところまで上り、周囲の景色をぐるりとながめているようすだった。
「なんだ?」
「だれかいるの?」
「わからない」人びとがざわめきはじめる。
「しっ」祖母が唇に指をあてる。「一人の妖精がいるわ。彼女の話をききたいので、皆少しの間だまっていてちょうだい」
しん、としずかになる。
「ひどい」ハピアンフェルは消え入りそうな声で、それをふるわせながら話した。「こんなにまでやるなんで、思わなかったわ」
「まあ」祖母は小さな妖精を見上げながら答えた。「ではあなたも知らないことだったのね」
「話には聞いたことがあるわ」ハピアンフェルはぼう然としたように空中に浮かんだままで話した。「アポピス類たちのために、たくさんの光使いたちが命を落とした。だから闘って、自由を手に入れよう、アポピス類の支配から抜け出そう、という、若い水流しや火おこし、粉送りたちが徒党を組んでいることは知っていた……だけれど私のような年寄りには声もかからなったし、彼らが実際にはどんな活動をしているのかも、くわしくはわからなかった――私が前にここにいたときはもっと、木々もお花も、湖も、たくさんあったのに」
「まあ」祖母は首をふった。「妖精たちが闘いをしかけたというのね」
「妖精たちが?」
「闘いを?」ハピアンフェルの声が届かないところにいた人びとも、祖母の声に眉をよせた。「アポピス類に?」
「そう、つまり今この世界では、ヘビ型鬼魔からの束縛に逆らうべく小さな妖精たちが蜂起しているという憂うべき事態が起きているんだ」父が両腕を横に大きく広げ、大きな声で皆に説明しはじめた。「聞いたことがある者もいるだろう、その昔菜園界にすんでいた妖精たちは、アポピス類にさらわれ、捕われて奴隷のようにこき使われていた。それに対抗する勢力がいま、妖精の中に誕生している。束縛からの解放はたしかに望むべきことだが、それにより生き物たち、たとえ鬼魔といえどもこの世に生を受けた者たちの生活が不当におびやかされるということは、決してあってはならないはずだ」
「あんたは鬼魔の味方なのか?」だれかが父に質問した。
ざっ、と何人かの人がキャビッチをふたたび構える。
「やめて」母がすかさず父の前に出る。「この人は私の夫よ。鬼魔の味方なんかじゃないわ」
「ぼくは鬼魔分類学者だ」父が母のうしろで叫ぶ。「鬼魔について誰よりもよく知っているつもりだ」
「そもそもあんたたち、その鬼魔のために聖堂作ったり裁きの陣作ったりしにここへ来たんだろ」ユエホワが上空から言葉をはさむ。「全員、鬼魔の味方も同然じゃないか」
「我々はちがう」
「ただ祭司さまのいいつけにしたがっただけだ」
「神の思し召しだからだ」
「鬼魔のためなんかじゃない」
「あいつらが悪さをするのを防ぐためだ」人びとは口々にハンロンした。

 

「あなた方は言い争いをやめなければなりません」

 

 とつじょ、ユエホワよりもさらに上空から声が聞こえた。
皆はいっせいに息をのんで見上げた。
あたたかく、明るい光り包まれて、フュロワ神が穏やかに語りかけながら、ゆっくりと下りて来ていた。

 

葵 むらさきの著書

 

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魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 65

  • 2020.03.27 Friday
  • 10:08

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 翌日、私は父と母といっしょに――父はけっきょく、母の箒のうしろに乗っていくことになった――聖堂へと向かった。

 大工と、聖職者と、キャビッチスロワーを百人ずつ――フュロワ神のいいつけどおりに、たくさんの人びとが集まってきていた。

 もちろん全員が聖堂の庭に入れるわけもなく、その周囲の道の上、つまりキューナン通りに、集められた人びとはあふれかえっていた。

 それにしても、すごいなあと思う。

 たった一日――いや、半日で、みんななにもうたがうことなく、神の思し召しのままに、こうやって集まってきて、そしてこれから世界壁を抜け、こことはちがう異世界へ向かう気持ちでいるのだ。

 しかもそれは、アポピス類――鬼魔の世界だというのに!

 みんなは、なにひとつ恐れても心配してもいないようすで、にこやかに言葉をかわしあい、笑いあいながら、祭司さまの――神さまのお言葉を、待っているのだ。

「ああ、いたわ」母が私の前を箒で飛びながら、下の方に向けて腕をのばし指さした。

 なにがいたんだろう、と思いつつ私は少し体をかたむけて、母の指さした方向を見た。

 そこには、とっても楽しそうににこにこと笑いながら私たちに向かって大きく手をふる、祖母の姿があった。

「えっ、おばあちゃん?」私は箒で飛びながらすっとんきょうな声をあげた。「おばあちゃんも行くの?」

「そうよ」母が私にふり向いて答える。「ひさしぶりね、みんなでお出かけするの」

「いや」私は首をふった。お出かけ、とは違うと、思う。

「うふふ、来たわね」私たちが地面に降り立つと、祖母はますます楽しそうに笑いながら声をかけてきた。「準備はいい?」

「もちろんよ」母はツィックル箒を頭上にかかげながら明るく答えた。「私もひさしぶりに思いっきり投げられるから、楽しみだわ」

「おばあちゃんも、祭司さまから呼び出されたの?」私は祖母にきいた。

「ええ、そうよ。私と、それから」祖母は肩からななめにかけていた小さなバッグの口をあけた。

「私も、来ちゃった」中からふわりと飛び出したのは――よくよく見ないとわからないほどほのかな光に包まれた、ハピアンフェルだった。

「あ」私は目をまるくした。

「まあ」母も目をまるくし、

「おお」父も目をまるくした。

「うふふ、しいー、ね」祖母とハピアンフェルはにこにこしながら口に指をあてた。「こんなにたくさんの人がいちどに大さわぎになると、あぶないからね」

「ああ、ええ、でも」母は声をふるわせた。「すごい……すごいわ。はじめて見たわ」声をひそめる。「妖精さん」

「本当は、畑の野菜やお花の世話があるから無理だって、いちどことわったんだけれどね」祖母は肩をすくめた。「どうしても、って……まあ昔なじみのルドルフからのたってのお願いとあらばきかないわけにもいかなくて」

「ガーベランティはやさしいのよね」ハピアンフェルがふわふわと小さく飛びながらつづける。「畑の野菜やお花は、私がお世話をすればいいのだろうけれど、一人で残っていても心配で気がかりでしょうがないだろうから、いっしょについて来ちゃったの」

「そうなんだ」私はうなずいた。「じゃあ、畑のお世話はだれがやるの?」

「ツィックルよ」祖母はなにも迷わずに答えた。

「ツィックル?」私はおどろいた。

「ええ。ツィッカマハドゥルで」

「すごい」父が声をふるわせる。

「ツィッカマハドゥルで?」私はくりかえした。

「そう。川のお水を吸い上げてほかの植物たちにも分配して、肥料や薬がいるときは森の中の生きものや薬草なんかを適当に使うようにってね」

「えっ」私はまたおどろいた。「生きものって、ツィックルが動物をつかまえるの?」

「いいえ、排泄物よ。あと虫の死骸とか」ほほほ、と祖母は笑う。

「へえー……」私は、ツィックルの木が枝をのばしてそのようなことをしているところを想像しようとしたが、それはとてもむずかしかった。

「でも世界壁の外、ていうか他の世界の中からでも、魔法行使は維持できるの?」母が空を指さしながらきく。

「うーん、わからないわ。今までやったことがないから」祖母は首をかしげる。「もしだめなら、また一から土の作りなおしね」

「ごめんなさい」ハピアンフェルが飛び上がってあやまる。「私が無理をいって」

「なにをいっているの、ハピアンフェル」祖母は肩をすくめる。「畑の持ち主の私がそう決めたのだから、あなたにはなんの責任もないわ。大丈夫、畑をだめにするなんてしょっちゅうやっているのよ、私」ほほほ、と笑う。

「なにいばって言ってるの、もう」母が苦笑する。

 私と父は、あまり大きな声では笑えずにいた。

 こういうのって、ジゲンがちがう、っていうんだよね。

 

「皆のもの、よくぞここへ集ってくれた」祭司さまが聖堂の屋根の近くから、箒にまたがって皆に声をかけた。「今から向かうは、きのう説明したとおり地母神界。鬼魔アポピス類たちが新しくつくりあげた別世界じゃ」

 皆はしずかに耳をかたむけた。

「鬼魔の世界といっても恐れるにはおよばぬ。なんとなれば、われわれにはこのたび、菜園界のフュロワ神と、地母神界のラギリス神の加護が約束されておる」

 おお、と人びとは声をあげた。

「われわれは何も恐れることなく、聖堂を建て、神の崇め方を伝え、悪行には制裁が下されるということを伝えてゆこう。皆のもの、地母神界にて存分に力を果たされよ」

 おおお、とひときわ大きな声があがり、聖堂のまわりに集まった人びとはそれぞれの箒を片手ににぎりしめ頭上にかかげた。

「では参ろう」祭司さまはすうっと上空高く飛び上がった。「神がわれわれをお導きくださる。それにしたがうのだ」

「行こう」

「行きます」

「よし」

「おお」

 人びとはつぎつぎに、箒にまたがり飛び上がった。

 上空をめざし、全員が飛びはじめる。

「ユエホワはどこにいるのかな」母の箒の後ろで、父がきょろきょろとまわりを見回した。

 緑髪も、アポピス類魔法大生たちも姿が見えなかった。

 私は飛び上がりながら、本当にだいじょうぶなのかな、と、先の見えない旅立ちにたいして少し心配していた。

 祖母は母の箒の前を、とくに急ぐわけでもなくゆるゆると飛んでいく。

 ときどき振り返って、母と話をしては、ほほほ、と笑ったりもする。

 まるで、ピクニックに行くみたいだよなあ……だいじょうぶなのかな?

 

葵 むらさきの著書

 

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魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 64

  • 2020.03.17 Tuesday
  • 10:01

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 フュロワはにこにこしながら三人のアポピス類を地上に下ろしてあげたけれど、三人はおたがいにしがみつき合ってなかなかはなれずにいた。

「お前ら、この人が神さまだって知ってたか?」ユエホワがラギリス神を(本当に失礼なことに)指さしながらきくと、三人は無言で首を横にふった。

「えっ、知らないの?」私は目をまるくした。「なんで?」

「だって俺たち、ずっと人間界にいたから」ケイマンがぼそぼそと答える。「なにも知らないんだ……アポピス類のことも、地母神界のことも」

「ふうん」うなずいて答えたのはフュロワだった。「お前ら……目が赤くないから、か?」

 三人はだまっておたがいの顔を見合わせた。

「さいでございます」サイリュウが答える。「私どもはこの目のせいでつまはじきにされてまいりましてございましたので」

「アポピス類が鬼魔界からいなくなったのも知らなかったんだから笑えるよなまじで」ルーロが早口でつぶやいたが、もう彼の声が小声だとは思わなかった。

「…………」ラギリス神が(こっちは本当の小声で)なにか言った。

「ん?」フュロワがラギリスの口もとに耳を近づける。「あそう」それから私たちの方にむけて言う。「目の赤いアポピス類でも知らない者もいるっていってるぞ」

「本当に?」ケイマンが目をまるくする。

「…………」ラギリスがまたなにか言い、フュロワが耳を近づけた。

「ぜんぜんきこえねえな」ルーロがそういったので、私は思わず彼の顔をまじまじと見てしまった。

「この前道を歩いてたら」フュロワが説明した。「前から来た若いやつにどうしてかにらまれて、道をゆずったっていってる」

「えっ」全員が目をまるくした。

「あとその時持っていた食べ物と酒もよこせといわれて取り上げられたって」

「――」全員が息をのんだ。

「自分は神だからだまっていう通りにしたけど、そいつも神だと知っていたらそんなひどいことはたぶんしなかったんじゃないかと思うって……いやお前、それはちゃんと、裁きを受けさせろよ」フュロワは説明のとちゅうでふり向きラギリスに言った。

「…………」ラギリスがなにかを答えた。

「裁きの陣がないって?」フュロワがきき返す。

「おお」祭司さまが首をふりながら言った。「なんということじゃ。アポピス類たちは神をあがめ敬う方法を知らぬのか。なげかわしいことじゃ」

「あんた行ってやれよ」ユエホワがルドルフ祭司さまを見ていった。「裁きの陣作ってやってさ」

「ふざけないで」私は緑髪にむかって怒った。「鬼魔の世界になんか行けるわけないでしょ」

「聖堂も建てねばならぬな」ルドルフ祭司さまはなにかを考えはじめておいでのようだった。

「そうかあ」フュロワ神はまたあらためて腕組みをし、少しのあいだ空を見あげていた。

 みんなは神のおことばを待った。

「よし」フュロワはうなずいて腕をほどき、両手を胸の高さで上に向け、私たちの方へさし出した。「汝ら神の子よ、これから私がいうことを聞いて、そのとおりに行いなさい。まず人をたくきさん集めるように。大工と、聖職者と、キャビッチスロワーをそれぞれ百人ずつ。それらをこの聖堂の庭とそのまわりに集わせ、そこから空へ向け、箒で飛び上がらせるように。そうすれば私が世界壁を特別なやりかたで開き、その者たちを地母神界へといざなおう。地母神界に到着したならば、大工は聖堂を建て、聖職者はアポピス類たちに神をあがめ祭る方法を伝え、キャビッチスロワーたちは」

 しん、としずかになった。

 みんなは神の次のおことばを待った。

「悪さするやつをとっつかまえて裁きの準備ができるまでしばっとくように」

「おお」ルドルフ祭司さまだけが返事をした。「神よ。あなたの偉大なるお考えに敬服し、感謝いたします」

「ええー」私はそっと、自分にできうるかぎりの小声でおどろきをあらわした。

 

          ◇◆◇

 

「お帰り、ポピー」家に帰ると、母は顔いっぱいの笑顔で――だけどなぜか、どこか悲しそうな顔で、私を抱きしめた。「おばあちゃんから聞いたわ。大変だったのねえ」

「あ、ううん、だいじょうぶ」私は安心させるように笑った。

「無事でよかった」父も真剣な顔でそう言い、母とかわって私を抱きしめた。「よくがんばったね」

「ん、おばあちゃんがやっつけてくれたから。アポピス類を」私は笑顔で答えた。

「そう、アポピス類だよね」父はがばっと私の肩をつかんで引きはなしたかと思うと、さらに真剣な顔で話した。「地母神界へ、行かなきゃいけないんだ」

「あらでも」母がつづけた。「あなたには声はかからなかったでしょ。私は聖堂の方から呼び出されたけれど」

「いやでも」父はにこりともせず真剣な顔のままで母に向かい言った。「こんな事態になったのなら、鬼魔分類学者であるぼくが手をこまねいている場合ではないよ。ぜひとも一緒に行かせてもらわなきゃ」

「でもあなた、行ってどうするの?」母もうなずかない。「大工でもないし、聖職者でもないし、キャビッチスロワーでも、そもそも箒にも乗れないし」

「それは」父は当然のように言葉を返そうとしたようすだったが、それはつまった。「――ニイ類、とか」

「無理でしょ」「無理だよ」母と私が同時に言った。「他の人たちがびっくりしてパニックになると思う」

「しかしこれは歴史に残る大事件だ」父は手を振り回した。「ぼくが記録に残さなければ、いったい誰がやるというんだ。ユエホワに頼もう。彼にラクナドン類を呼んでもらって、今度こそその背中に乗って旅立つんだ、ぼくも」

「今度こそ?」母が眉をひそめてきき返した。

「あいや、その、今こそ、だ。今こそ」父は、前に鬼魔界へ母にだまって旅立とうとしたことをうっかりばらしてしまいかけたのだが、必死でごまかした。「そうだそういえば、ユエホワは今どこにいるんだい?」大急ぎで私にきく。

「聖堂だよ」私は正直に答えた。「魔法大生のアポピス類の人たちといっしょに」

「そうか」父はぱっと笑顔になった。「心強いな。鬼魔と祭司さまとが心をひとつにして世界を越え協力し合うとは。これは本当に歴史に残る偉大なできごとだ」

 はあ、と母はため息をついた。「わかったわ。私ができるだけあなたといっしょにいるようにするわ。とにかく今日はもう寝ましょう。明日のお昼には聖堂に行くから、家の中のことも片づけておかないといけないし。忙しくなりそうだわ」

「だいじょうぶ」私は微笑んだ。「あたしがちゃんと家のことやっとくから。気をつけてね」

 父と母がそろって私を見た。

 私も微笑みながら二人を見返した。

「あら」母が眉を上げた。「あなたも行くのよ、ポピー」

「え」私はかたまった。

「うん」父もうなずいた。「祭司さまからはそのように聞いているよ」

「え」私は一歩あとずさった。「なんで」

 父と母は顔を見合わせた。「神の思し召しだから、って仰ってたけど」

「え」私はさらに一歩後ずさった。

 フュロワの優しく微笑む顔が浮かんだ。

 なぜ、世界のすべては私を鬼魔の世界へつれていこうとするんだろう。

 それを考えながら私はベッドに入り、なかなか寝つけずにいた。

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-05-11)
コメント:ある日ポピーと彼女のライバル(?)である鬼魔(キーマ)のユエホワの前に、とつぜん白い光とともに一人のお姫さまが現れた。その人の名は、サルシャ姫──泡粒界という世界の王女だったのだ。サルシャ姫のいた世界は今、侵略者に乗っ取られ、大地も海も人々も瀕死の状態にあった。もしこのまま泡粒界がなくなったら、とんでもないことになる──ポピーは、泡粒界を救うべく立ち上がる決意をした。

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 63

  • 2020.03.10 Tuesday
  • 21:39

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「えっ」私は目をまん丸く見ひらいた。「地母神界にも神さまがいるの?」

「うん。いるよ」フュロワはなにも迷わずまっすぐにうなずいた。「といっても“神”と呼ばれるようになったのはつい最近のことだけどね」

「どういうことだ?」ユエホワが眉をひそめてきいた。「それまでは神じゃなかったってことか?」

「そう」フュロワはまたうなずいた。「鬼魔だったよ」

「ええーっ」私は山火事を発見したときのように大声でさけんだ。

「鬼魔って……アポピス類か?」ユエホワがかすれた声できく。

「うん」フュロワはまたまたうなずいた。「我々の許しを得て、神の仲間になり世界を与えられたんだよ」

「ええーっ」私はさっきよりは小さくなったけど変わらずおどろきマンサイの声で再度さけんだ。

「なんで許すんだよ」ユエホワは両手を肩の上に持ち上げたあと、ぶんっと下に強くふり下ろした。「なんで神にすんだよ鬼魔を」

「なにかご不満でも?」フュロワはわざといじわるする時のような表情で首をかしげた。「我々が神を選ぶ際に、お前の許可を取らなきゃいけない掟はないけど」

「うむ。まことにフュロワ神おおせの通りじゃ」ルドルフ祭司さまがこっくりと深くうなずく。「鬼魔が神々に認められるということは、まれにではあるが昔から話に聞くことじゃ」

「あ……そういえば」私も思い出した。以前学校の先生に、鬼魔が神さまになることもありうると教えてもらったのだ。「じゃあ、地母神界っていうのは本当にアポピス類たちだけの世界なの?」

「今はね」フュロワは私にやさしく微笑みかけた。「この先もしかしたら、他の生き物――あるいは鬼魔たちが、すみつくことになるかも知れないけど」

「でも、ほんとうにどうして、そのアポピス類を神さまにしたんですか?」私は質問してしまってから心の中ではっと思った。私もユエホワのときみたいに、冷たく答えられるのでは――

「それはね」だけどフュロワは、とてもやさしく微笑みつづけて私に答えてくれたのだ。「そのアポビス類……つまりこのラギリスが、鬼魔同士の争いをやめさせたい、平和な世界を築きたいと、一心に強く願い努力している姿を、我々が見ていたからさ」

「鬼魔同士の争い?」

「平和な世界?」

「おお」

 私とユエホワと祭司さまは同時にそれぞれに思うことをさけんだ。

「そう」フュロワはにっこりと笑ってうなずき、もういちどうしろをふり向いて

「くわしくは、彼本人から聞くといい。ラギリス、話してやって」と、長い黒髪の背の高い男の人――元アポピス類の地母神界ラギリス神を、私たちの方へ押し出した。

「――」ラギリス神は、たしかに赤い目を持ち、アポピス類とおなじ顔だちをしていた。だけどその表情はとてもおだやかで、まつ毛が長く、肌も白くてなめらかで、とてもきれいな人だった。

 私は一瞬、女の人――いや、女神さまなのかな? と思ってしまった。でもフュロワはたしかに「彼」といってたしなあ……

 そのラギリスの、つややかな唇がひらく。

「…………」

 聞こえなかった。

 私とユエホワと祭司さまは、思わず首を前につき出した。

「…………」

 やっぱり聞こえなかった。いや、

「…………つ、…………す」

 何個かの文字だけは、聞こえた。

 でも、何を言っているのかまるでわからなかった。

「…………と」

 ラギリス神の口もとをみると、その唇はたしかに上下に動いているので、おそらく、たぶん、この神さまは今まさに語っているのだろうと思われた。

「聞こえないだろ?」フュロワがにこにこしながら言う。

「聞こえねえよ」私とルドルフ祭司さまがはっきりいえないでいることを、ユエホワはずけずけとのたまった。

「はははは」けれどフュロワ神は楽しそうに笑う。「俺たちも最初はそういったんだけどな、どうしてもこいつ、これ以上大きな声が出せないらしいから、まあこんなもんだと思ってやって」

「いや」ユエホワは手を横にふった。「地母神界の状況はどうなってるのかって話だよ」

「地母神界はな」フュロワは腕組みをして、ふう、と息をついた。「大変な状況だよ」

「だから、どう」

「妖精たちがさ」フュロワはまた息をついた。「暴れ回ってる」

「えっ」

「なに」

「おお」

 私とユエホワと祭司さまは同時におどろきの声をあげた。

「そう」フュロワ神は、まじめな顔になって話をつづけた。

「…………」その横でラギリスもまだ話しつづけていたが、ますますそれは聞こえなくなった。

「アポピス類は小さな妖精たちを集めて、地母神界に連れて行ったんだが」フュロワの声だけが私たちに届いた。「その妖精たちの中でこのところ、アポピス類に対して不満をもち、闘いをしかけようとしている者たちがいるようなんだ」

「えっ」

「妖精たちが?」

「おお」

「そう、妖精たちにも人間とおなじように、優しい性格の者もいれば好戦的な者もいるから、すべての妖精たちが悪さをしているわけではないんだが……嵐を巻き起こしたり氷を降らせたり、果実を腐らせたり泉の水を枯らしたりして、アポピス類たちの生活をおびやかす連中がぞくぞくと増えてきているんだよ」

「妖精たちが?」

「なんてことだ」

「おお」

 私たちはただおどろくほかなかった。

 いまのいままで私たちは、妖精たちというのはアポピス類に「飼われて」いる、つまりしいたげられている状態で、いっこくもはやく助けてあげなければならないものだと思っていたのだ。そう、だからそのために今ここにこうして、神さまのお力をおかりするために来たのだ。

 それなのに。

「どうして」私はぼう然とそう言うしかできなかった。「どうすればいいの」

「さっき、お前がアポピス類にさらわれそうだと言っていたよな、ユエホワ」フュロワは緑髪を見て言った。「もしかしたらあいつら、妖精に対する対抗策をお前に考えてほしくて連れて行こうとしてるのかも知れないな」

「…………て、…………く」フュロワの横でラギリスが、うなずきながら何かを言った。何個かの文字が聞こえたので、たぶん少し声を高めたんだろうと思う。

「ハピアンフェルは」私はつぶやいた。「そのことを、知っていたの、かな……」頭がどくんどくんと音をたてているようだった。

「――」ユエホワは、なにも言わなかった。

「あのう」そのとき、小さな声が上の方から聞こえてきた。

 全員が見あげると、三人のアポピス類の魔法大生たちが空中にうかんだままの状態で情なさそうな顔をして私たちを見おろしていた。

「そろそろ、下におろしてもらってもいいですか」ケイマンが震える声でそう言った。

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-05-07)
コメント:ポピーは魔法学校に通う少女。その世界では、キャビッチという野菜を使って魔術を行う。ある日ポピーと親友ヨンベは、ちょっとした悪戯を思いついたが、そのせいでヨンベが恐るべき鬼魔(キーマ)にさらわれてしまった! 悲しんでいる暇はない、自分が助けに行かなくちゃ! かっこいい神様たち、そしてずる賢い鬼魔ユエホワと共に、ポピーの冒険が始まった――

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 62

  • 2020.03.10 Tuesday
  • 21:34

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「俺ここで待ってるから」ユエホワは肩をすくめて言った。「神たちにこっちに来るよう言ってくれよ」

「なにいってんの」私はまた頭にきて緑髪鬼魔をびしっと指さした。「なんで神さまがあんたのために歩かなきゃならないの」

「歩けとはいってない、ひょーって飛んでくりゃいいだろが」ふくろう型はまた肩をすくめた。「神なんだから」

「そういうことじゃなくて」私は首をふった。

「ポピー」祭司さまがおだやかに私を呼んだ。

「はい」私は返事をして祭司さまを見た。

「まずはそのキャビッチをしまいなさい」祭司さまは私の手の上にある黄緑色のキャビッチを指さしておおせになった。

 あれっ。

 いつのまに私はキャビッチを持ってたんだろう?

「――はい」私は狐につままれたような気分に包まれながら、言われた通りキャビッチをリュックへもどした。

「さてそしてユエホワ」祭司さまは性悪ムートゥー類を見ておことばをつづけた。「お前はおそらく、裁きの陣へ近づくとなにか痛い目にあうということを恐れているのだろうな」

「――さあ」緑髪はすっとぼけたようにそっぽを向いた。

「そう恐れることはない」祭司さまは深くうなずいた。「お前はなにも恐れる必要はない」なぜかくり返す。「神がお前を待っておる」

「そうだよ。行こうぜユエホワ」ケイマンがうながす。

「さいでございますよ、せっかくおこしいただいているのですからまいりましょうぜひ」サイリュウもうながす。

「すげえよな神たちに直接会ってものがいえるんだぜ。こんなチャンスめったにねえぞ早く行こうぜ」ルーロも興奮していつもの早口が二倍ぐらい早くなってうながす。

「じゃあ、お前らのうしろについていくよ」ユエホワは観念したどろぼうのように上目づかいでそう告げた。「先に行ってくれ」

「よし。ぜったいついて来いよ」ケイマンが笑顔になって歩き出す。

「さいでございますよ。ぜったい」サイリュウも歩き出す。

「逃げるなよ。ぜったい」ルーロも早足で歩き出す。

「ほほほ」祭司さまはゆったりとお笑いになりながら歩き出す。

 私は、ユエホワが本当についてくるかどうかふり向いてたしかめながら歩き出した。

 ユエホワも、むすっとした顔でしぶしぶ歩き出した。

 そうして私たちは、裁きの陣のところまで来た。

 裁きの陣は部屋の中ではなく、中庭につくられている。

 中庭の中央に、大人の人の頭ぐらいの大きさの石がぐるりと円形――直径が四、五メートルぐらいある――に置かれてあり、その円の中に、白い粉で魔法陣が描かれてあるのだ。

 その陣の中にいたのは、私にとってとてもなつかしい人――いや、神さまだった。

 フュロワだ。

 私たちの住む菜園界の、神。

 菜園界の、どこか遠くにある森の中に、ひそやかに住んでいる、神。

 そう、ユエホワにはじめて出会った時――それは私にとってはいまわしい思い出だけども、この神さまにもはじめて会ったのだ。

 私の父よりは少し若く見えるけれど、ユエホワなんかよりはずっと大人で、優しく落ちついた感じの人――いや、神さまだ。

 その神はいま、ルドルフ祭司さまがいった通り裁きの陣の中に立っていた。

 やさしく、ほほえみながら。

 そしてその唇がゆっくりと開き、フュロワ神は言った――「お前ら、なにたくらんでやがるんだ。ちょっと粛清してやるからこっち来い」手まねきする。

 先頭に立っていた三人のアポピス類たちは、絶句して立ちすくんだ。

 それは私もおなじだった。

 あれ?

 こんなだっけ?

 神さま……フュロワ神……って……

「ほらな」うしろで小さく、ユエホワがつぶやく。

「聞こえないのか。早く来いって」フュロワがそういうと、先頭に立っていた三人のアポピス類たちの体がふわりと空中にうかんだ。

「うわっ」

「あれえ」

「おおっなんだこれ」三人はびっくりした声でさけんだ。

 それは私もおなじだった。

「あれ」フュロワ神はつづけていった。「ポピーじゃないか」

「あ」私はうかび上がった三人からフュロワへ視線をおろした。「こ、こんにちは」

「やあ、ひさしぶりだね」フュロワは目をほそめてにっこりと笑った。「元気にしてるかい?」

「は、はい」私は大きくうなずいた。

「あれ、こいつらってポピーの知り合いなのかな?」フュロワは自分が浮かび上がらせた三人のアポピス類を下から見上げながら私にきいた。「友だち?」

「あ、ええとあの、私の学校に魔法を教えに来てくれた人たちで」私は上を見上げたり三人を指でさしたりしていっしょうけんめいに答えた。

「へえ、こいつらがそんな殊勝なことをするのか」フュロワは楽しそうに笑い、それからさらに「あれっ」といって目をまるくした。

「ども」私のうしろにいたユエホワが、ルーロよりもはるかに小さな声でつぶやくようにあいさつした。

「ユエホワー」フュロワの目が、きらりと光った。「やっぱりおまえか」

「なんだよやっぱりって」ユエホワは口をとがらせて文句をいった。

「聖堂の裁きの陣に鬼魔がこぞって押しかけてくるなんて、おかしいと思ったんだよ」言いながらフュロワはまた手まねきした。「どうせまたお前がなんかくだらんいたずらを思いついて、何も知らない若い鬼魔をだましてつれてきたんだろ。こっち来いおまえも粛清してやるから」

「おお」ルドルフ祭司さまがためいきまじりに言った。「なんという洞察力か。さすが神のお力は偉大なるものじゃ」

「ふざけんなよ」ユエホワは怒った声で言った。「くだらんいたずらでも、だましてつれてきたんでもねえ。俺はな」そこではた、と私を見る。「おいポピー、お前からいってやってくれよ、このおっさんたちに」

「おい」フュロワは目をほそめた。「神にむかっておっさんとはなにごとだ」

「おお」ルドルフ祭司さまは手に持つ杖を持ち上げて額に当てた。「なんという大それた罪深きことを」

「そうだポピー、君のすばらしいキャビッチスローをまた見せてほしいな」フュロワはまた私にむかってにっこりとほほえみかけた。「ちょっとこの不届き千万な性悪鬼魔に向けて、投げてみてもらえるかな」

「あ」私はいそいでリュックをたたきキャビッチを取り出した。

「やめろって!」ユエホワが大声でさけぶ。「おい、何のためにこんなろくでもねえ裁きの陣とかまで来たんだよ! ちゃんとわかるように説明してやってくれって! 地母神界のことを!」

「ん?」そこでフュロワははた、とユエホワを見た。「地母神界?」

「ああ、そうだよ」ユエホワは大急ぎでうなずいた。「俺、そこのやつらにさらわれそうになって、今もねらわれてんだ」

「そこのやつらって」フュロワは目をまるくした。「アポピス類?」

「ああ」ユエホワはまたうなずいた。「同じ赤き目を持つ者とかなんとかわけのわかんねえこといいやがってあいつら」

「へえ」フュロワはうなずき、それから後ろをふりむいて「そうなの?」ときいた。

「え」

「なに」

「おお」私とユエホワと祭司さまはおどろいた。

 裁きの陣の上にはそれまでフュロワだけが立っているように見えていたが、彼がふりむいて声をかけたとたん、彼の背後に別の人影――いや、神の影が、音もなくふわりとあらわれたのだ。

 それは、私も見たことのない、真っ黒な長い髪を持つ、背の高い男の人――いや、神だった。

「こいつは、ラギリス」フュロワはもういちど私たちの方を見て、たった今姿をあらわした神さまの紹介をした。「その地母神界の、神だよ」

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-05-11)
コメント:ある日ポピーと彼女のライバル(?)である鬼魔(キーマ)のユエホワの前に、とつぜん白い光とともに一人のお姫さまが現れた。その人の名は、サルシャ姫──泡粒界という世界の王女だったのだ。サルシャ姫のいた世界は今、侵略者に乗っ取られ、大地も海も人々も瀕死の状態にあった。もしこのまま泡粒界がなくなったら、とんでもないことになる──ポピーは、泡粒界を救うべく立ち上がる決意をした。

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 61

  • 2020.03.10 Tuesday
  • 21:27

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 アポピス類の三人は、人間と見た目は変わらないから、昼日中でも堂々と歩いて通りキューナン通りを抜け、聖堂の門をめざした。

 問題はユエホワで、いくら姿形は人間と同じでも、緑色の髪と赤い目、金色の爪で、ひと目で鬼魔だとわかってしまう。

 なのでこんな明るい日中には通りを歩けない。

「だからってなんであたしとならんで飛ぶの?」私は眉をひそめ箒にまたがりながらきいた。

「おばあさまのいいつけだろ」ユエホワは私の横を自力で飛びながら答えた。「俺をよくよく守るようにって。だから俺がお前とならんでんじゃない、これはお前が俺の横にならんでくっついてきてる状況だ」

「はあ?」私は箒で跳びながら顔をおもいきりしかめた。「鬼魔語? ぜんぜん意味わかんないけど」

「お、見えてきた」ユエホワはすいっと私の前にとび出した。「聖堂だ。さあてと、呪いのじいさんはいるかな」そんなことをいいながら、するするするっと高度をさげてゆき、尖塔の上に止まる。

 つづいて屋根の上にたどりつき聖堂のようすを見おろすと、今ちょうどケイマンたちが門のところで聖堂のお姉さんたちに話をしている最中だった。

 声はきこえないけど「すいません魔法大学の者です、呪いについてお話をうかがいたいのですが」とかって言っているのにちがいない。

「うし、行くぞ」となりでユエホワがそう言ったかと思うと、壁づたいにするするするっと、直立姿勢のまま下へ飛びおりはじめた。

「うわ、ちょっと」私もあわてて箒にまたがったままおりてゆき、お姉さんたちが気づかないうちに聖堂入り口からしのびこむことができた。

 とはいっても、たぶん聖堂のお姉さんたちは町の人たちとちがって、ユエホワを見ても、また魔法大生がじつは鬼魔だってことがわかったとしても、あんまりおどろいたりさけんだりしないと思う。

 なにしろここは聖堂で、神様にちゃんと守られているし、ルドルフ祭司さまもいるし。

 悪意のある鬼魔など、近づくことすらできないはずだから。

 そこに入ってゆけるのは、攻撃する意志のない、無害な鬼魔だという証拠だ。

「ユエホワ、ずっとここにいればいいじゃん?」私は箒を片手に持ち、聖堂の廊下をすすみながらムートゥー類に提案した。「ここならアポピス類にさらわれることもないだろうし」

「やなこった」ユエホワは即答した。「ルドルフじいさんと日がな一日いっしょになんていられるかよ。息がつまる」

「でも人間界の勉強がいっぱいできるんじゃないの? しずかで本読むにもいいし」

「いや」ユエホワは歩きながら首をふった。「ぜったいそんなヒマなんかねえ」

「なんで? おそうじとかやらされるから?」

「いや」また首をふる。「ここにいたらさ、気軽に神々が遊びにくるだろ。あいつらヒマだから」

「えっ」私はびっくりした。「神さまがくるの? ここに? この聖堂に?」歩きながら声を高める。

「そりゃそうだよ」ユエホワは口をとがらせる。「そのための聖堂だろ」

「えっ、そうなんだ」私はますますびっくりした。「なんで知ってんの? 神さまによく会うの?」

「たまにな……ゆだんしてると、たまーにつかまっちまう」

「へえー……会って話とかするの?」私は、はじめてユエホワに会ったときのことを思い出しながらきいた。なんだかなつかしい光景がうかんできた。

「俺はしたくねえけど、向こうが勝手にな……あ」話のとちゅうでユエホワは立ち止まった。

「ん?」私も立ち止まる。

 ルドルフ祭司さまのいる祈りの陣の部屋までは、あと少し歩かないといけない。

 どうしたんだろう?

「あいつらに、頼んでみる方法もあるな」ユエホワは宙を見ながらつぶやいた。

「あいつら?」私はきき返した。「って……まさか、神さまのこと?」

「そう」ユエホワは私を見た。「あいつらは世界壁を越えて存在してるだろ。地母神界の情報も持ってるだろうし、古いつき合いの俺が狙われてると知ったら、きっと助けに応じてくれる」

「えーっ」私は眉をひそめた。「まさか」

「なにいってんだよ」ユエホワは肩をいからせた。「俺のこと馬鹿にしてんじゃねえぞ」

「ほほう」とつぜん、ルドルフ祭司さまの声が話に入ってきた。「お前は神たちと深い親交を持つ者のようじゃのう」

「祭司さま」

「――」

 私とユエホワは、いつのまにか祈りの陣の部屋から出て私たちに近づいてきていたルドルフ祭司さまを見た。本当に音もなく、風のようにふわっと近づいてきていた。

「世界壁の外へ行こうとしているのかの」祭司さまは、いつものことながらすべてお見通しのようだった。「そのために神々の力添えを頼もうと、そういうことかの」

「――まあ、だいたいそんなところだ」ユエホワは、なんだかむすっと不満そうな顔で答えた。「あとついでにじいさん、あんたにも手伝ってほしいんだけど」

「ちょっと」私はがまんできずにユエホワをびしっと指さした。「さっきから、ほんと失礼よ、あんたたち。祭司さまのことを呪いの祭司とか、神さまたちのことをあいつらとか、今だってついでにとか、失礼にもほどがあると思う」

「ほほほ、ポピーよ」祭司さまは肩をゆすって笑った。「それだけ悪態をついておきながら、この聖堂はなぜかこの者を迎え入れておる。安心するがよい、この者に真実の悪意はないということじゃ」

「――はい」私はうつむいて答えたけれど、もう少しでこの聖堂の中でキャビッチを取り出してユエホワにぶち当てるところだった。

 そんなことをしなくてすんで、本当によかったと思う――なにしろしかられるから。

「さすれば、神たちの来訪を待つこととしよう。こちらへ来るがよい」祭司さまはそういって、祈りの陣の部屋とは別の方向へ、廊下を歩き出した。

 私もすぐにその後について歩き出した。

「――」だけどユエホワは無言で、その場に突っ立ったまま動こうとしない。

「どうしたの」私はふりむき声をかけた。「早くおいでよ」

「――こっちって」ユエホワは、ものすごくいやそうな顔でいやそうな声で言った。「裁きの陣のある方向じゃん」

「さよう」祭司さまは元気よく答えた。「神たちが、裁きの陣にて待っておる」

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-05-07)
コメント:ポピーは魔法学校に通う少女。その世界では、キャビッチという野菜を使って魔術を行う。ある日ポピーと親友ヨンベは、ちょっとした悪戯を思いついたが、そのせいでヨンベが恐るべき鬼魔(キーマ)にさらわれてしまった! 悲しんでいる暇はない、自分が助けに行かなくちゃ! かっこいい神様たち、そしてずる賢い鬼魔ユエホワと共に、ポピーの冒険が始まった――

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 60

  • 2020.02.19 Wednesday
  • 17:13

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「地母神界、というのだそうよ」祖母は、肩越しに私たちをふり向いて話した。「アポピス類たちがつくろうとしているのは、国ではなく、菜園界や泡粒界、それに鬼魔界とならぶ、世界そのものだと」

「ええっ」

「世界?」

「なんといいますことでございましょう」

「すげえな」私たちはびっくりして叫んだ。

「そう、そしてその世界に、ユエホワを連れて行きたいと、そういっていたわ」

「俺を――」ユエホワが眉をひそめてつぶやいた。

「ええ」祖母はうなずいた。「同じ赤き目を持つ者として、と」

 全員が、黙った。

 私はそっと、アポピス類の魔法大生の三人の方を見た。

 三人とも、足元を見おろしてこおりついたようにたちすくんでいた。

 

 翌朝、私と鬼魔たちは祖母に別れをつげて丸太の家を出た。

 今日、学校は休みだ。天気もいい。

 アポピス類の三人は、いっしょにすんでいるこの町での彼らの家に帰るといい、ユエホワはどうするか、歩きながら考えるといった。

 私は祖母から、よくよくユエホワを守るように、と言いつけられて、家に帰ることにしたのだった。

 キャビッチ畑の近くを通り過ぎるとき、皆は言葉もなく顔を横にむけて畑のようすを見ながら歩いた。

 畑はとくに変わりなく、朝の太陽の光をあびて、キャビッチもほかの野菜もおだやかにそこに存在していた。

「ふしぎな感じだな」最初に言葉を口にしたのは、ケイマンだった。「信じられないような……夢を見てたような感じだ」

「さいでございますね、本当に」サイリュウも歩きながらうなずく。「月夜の光が見せた、幻の世界でございましたかのような」

「キャビッチを投げるスピードが尋常じゃねえ」ユエホワが歩きながらうつむき首をふる。「あんなの、太刀打ちできるはずがない」

「ああ。あんなスロー今まで見たこともないし話に聞いたこともない」ルーロも早口で呟いた。

 私はだまって歩いていたけれど、頭の中ではゆうべの、夢でも幻でもない現実の祖母のキャビッチスローを思い出していた――とはいっても。

 あれは、キャビッチスロー、だったのだろうか?

 だって祖母は、キャビッチそのものには指一本触れることもなかったのだ。

 最初の一撃めだけは、直接持っていたものを投げたようだけど、私はそれを見ていなかった。

 それを見ていたのはユエホワだけだ。

 でも、そのユエホワも「見えなかった」と言っていた。

 そのスローは、私に教えるときとはまったく違うやり方のものなんだ。

 まあそれはそうだろう。

 見えなかったら、投げ方を教えてることにならないもんね。

 今まで私が見ていた祖母のキャビッチスローは、いったい祖母の本当の力の何分の一――いや、何十分の一、もしかしたら何百分の一、なんだろうか。

「それもだけど……『地母神界』てのがさ」ケイマンは歩きながら腕組みをした。「なんなんだよ」

「アポピス類だけが棲む世界、ってことなのか」ルーロが眉をひそめる。「いったいどうやってつくったんだ、そんな世界」

「さいでございますね」サイリュウもうなずく。「国、ではなく世界、でございますですからね」

「俺思うんだけど」ユエホワが、考えながら歩き、その考えを口にした。「一から世界をつくるなんて無理だよ絶対。だから、もしかしたら他の、今すでに存在してる世界のどこかに、やつら一族ですみついてるとかじゃないのかな」

「シンリャクってやつ?」私は歩きながらユエホワにきいた。

「その可能性もあるし、もしかしたらだれもすんでない、無人の世界を見つけたのかも知れないしな」ユエホワは引きつづき考えながら歩き、その考えを答えた。

「無人の世界なんてあるの?」私は歩きながら目をまるくした。

「どこかにはあるらしいって話は、きいたことあるぞ」ユエホワはあいかわらず考えながら歩き、答えた。

「さいでございますね」サイリュウが歩きながらうなずく。「たしかにきいたことはこざいますです」

「なるほど、だれもすんでない世界なら、地母神界とか好きな名前つけたってかまわないだろうからな」ケイマンも歩きながらうなずく。

「子供がおもちゃ見つけたようなもんだよな」ルーロがせせら笑いながら毒づく。

「妖精たちも、いっしょに行ってるのかな、その世界に」私はつぶやいた。

 他の皆は少しの間だまってしまったが、やがてユエホワが「そうだろうな」と答えた。「地母神界で、やつらに“飼われて”るんだろう」

「助けに、いくの?」私はきいた。

 だれも、答えなかった。

 私も、答えられなかった。

 助けにいくって、誰が?

 ユエホワが?

 魔法大生が?

 祖母が?

 ハピアンフェルが?

 それとも――いや。……。……。……。

「お前が?」ユエホワがきき返した。

 私は、答えなかった。

「おお」

「さすがでございますです」

「勇敢なヒーローだ」アポピス類たちがはやしたてた。

 私は、いっさい何もいわなかった。

 さっさと帰ろう。

 きっと母も父も、祖母からのツィックル便を受け取って私の帰りを待っているだろう。

 こんなところでもたもたしている場合じゃない。

 私は歩く足をはやめた。

「けどそうなると、こっちも軍勢をととのえて攻め込む必要があるよな」性悪鬼魔の声がななめうしろから聞こえてきたけど、私はふりむかなかった。

「そうだよな」

「でございますけれども、どなたにお願いをいたせばよろしいのでしょうか」

「あの呪いの祭司にでも頼むか」

「呪いの祭司? って、ルドルフ祭司さまのこと?」私は思わず足を止めてふりむいた。

 四人の鬼魔たちは、横一列にならんでいっせいにうなずき、にやりと笑った。

 

葵 むらさきの著書

 

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(2019-05-07)
コメント:ある日ポピーと彼女のライバル(?)である鬼魔(キーマ)のユエホワの前に、とつぜん白い光とともに一人のお姫さまが現れた。その人の名は、サルシャ姫──泡粒界という世界の王女だったのだ。サルシャ姫のいた世界は今、侵略者に乗っ取られ、大地も海も人々も瀕死の状態にあった。もしこのまま泡粒界がなくなったら、とんでもないことになる──ポピーは、泡粒界を救うべく立ち上がる決意をした。

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 59

  • 2020.02.11 Tuesday
  • 06:17

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 私たちは、畑から十メートルぐらいはなれたところに立つミイノモイオレンジの木の陰から、そっとのぞいた。

 月明かりが畑を照らしている。

 祖母は畑のはしっこに、私たちに背を向ける位置で立ち、右手に一個キャビッチを持って、斜め上を見上げていた。

 見上げている先には、祖母の言っていたとおり五人の人が――いや、人の形をした鬼魔が、空中に浮かんでいた。

 全員、マントを身につけている。

 アポピス類だ。

 

「どういうことだ?」

 

 空中に浮かぶアポピス類の一人が、祖母を見おろしながらそうきいた。

「言ったとおりよ」祖母が答える。「あなたたちのつくろうとしている世界に、どうしてもユエホワを連れて行きたいというのならば、王様として迎えなさいといっているの」

「ふざけるな」質問したのとは別のアポピス類がどなる。「おとなしくユエホワをこっちへよこせ」

 私とケイマンとサイリュウとルーロはいっせいにユエホワを見た。

 ユエホワがはっと目を見ひらく。

 

 どかっ

 

 そのとき、はでな音が聞こえた。

 キャビッチがぶつかる音だ。

 私とケイマンとサイリュウとルーロはいっせいに畑を見た。

 浮かんでいるアポピス類の一人――というか一匹が、どさっと地面の上に落ちた。

「う、わ」ユエホワが声をつまらせる。

「なに」

「どうした」

「なにがございましたでしたか」

「キャビッチスローか」みんながいっせいにきく。

「見えなかった」ユエホワが声にもならずにささやき返す。「でも、投げたんだと……思う」

 見えなかった?

 暗くて?

 いや、そうじゃない。

 速すぎて――だ。

 たしかに、祖母の右手にはもうキャビッチがなくなっていた。

 私たちがユエホワを見たその瞬間に、祖母がそれを投げたのだ。

「これが答えよ」静かな声で、祖母が言った。「まだなにか?」

「く」アポピス類たちは、落っこちた仲間をくやしげに見おろしたあとまた祖母をにらみつけ「ディガム」「ゼアム」と口々にさけんだ。

 祖母が、氷の像のようにぴたりと動かなくなった。

「まずい」ユエホワがあせったような声で言う。

「これは」ケイマンがつづけて言う。

「魔法封じですね」サイリュウも言う。

「動きを封じるやつだ」ルーロも言う。

 私はなにも言わず、というかなにも考えず、キャビッチをストレートで投げていた。

 それは残った四匹の、私たちからみて右から二番めのアポピス類の鼻面に当たった。

 

 ぼこっ

 

「ぐっ」キャビッチを食らったやつは三メートルぐらい後ろへふき飛んだが、地面に落っこちるまではいかなかった。

「やった」ケイマンがこぶしを握って言う。

「すばらしいでございます」サイリュウが感動の声で言う。

「コントロールいいな」ルーロがつぶやくように言う。

 ユエホワはなにも言わない。

 私もなにも言わず、そして唇をきゅっとかみしめた。

 音が、ずいぶんとちがう。

 私が投げたのと、さっき祖母か投げたのと。

 音の重さ、つまりキャビッチの攻撃力が、何十倍――もしかしたら何百倍も、差がある感じだ。

 

「やっぱり来ちゃったのね」

 

 祖母が、私たちに背を向けたままで言った。

「え」私たちはその背中を見た。

「頼むわよ、ポピー」祖母はくるっとふりむき、月明かりの下でにこっと笑ったかと思うとつぎの瞬間にはもういちど前を向きながら右手を下からスプーン投げの形に振り上げた。

 

 どかっ

 

 またしてもさっきと同様の重い音が響いて、左から二番目のアポピス類がぽーんと投げ上げられるかのように上空へ飛んでゆき、そのあとどさっと地面に落っこちた。

「え」

「今のは」

「投げたのか」

「速い」私の後ろにいる鬼魔たちはまたかすれ声でささやき合う。

 私も、祖母が投げたキャビッチは見えなかった――いや、その前に、祖母はキャビッチを、手に持っていなかったんじゃなかったか?

「なぜ効かない」残ったマントのアポピス類が叫ぶ。「あの小娘の時とおなじだ」

 あの小娘――って、もしかして私のこと?

 そうか。

 もちろん祖母も、防御魔法のマハドゥをあらかじめ自分にかけておいたのだ。

「効いたわよ」けれど祖母は首を振った。「ただ解いただけ」

「なに」アポピス類がびっくりした。

 私たちもびっくりした。

 いや、確かにやつらが呪文をとなえたとき、一瞬祖母は氷の像のように固まったのを私も見たんだった。

「解いただと。いったいどうやって」アポピス類が叫んだその言葉は、そのまま私が心の中で思っていたものだった。

「あなた今、自分がどこにいるのかわかっているの?」祖母は両腕を広げてゆっくりと横に回し、まわりのキャビッチ畑をしめした。「ここは私の手の上もおなじよ」

「う」アポピス類たちはあらためて自分たちの足の下に広がる畑を見おろし、見回し、声をうしなった。

「まあ、あなたたちにも急いでユエホワを連れて行きたいという事情があったのだろうけれど、それにしても無謀な作戦だったわね。いきなり私の家を強襲しにくるだなんて」話しながら祖母がゆっくりとその両手を上にもち上げると、土の上にいたキャビッチたちがそれにつられるようにゆっくり、空中にうかび上がった。

「うわ」

「おお」

「ええっ」

「すげえ」私たちも目を見ひらいてその光景に目をうばわれた。

 いったい、何個――いや、何十個、うかび上がったんだろう。

 畑じゅうに、浮かぶキャビッチの姿がはるか遠くまで見えていた。

「せいぜい選択の間違いをくやむことね。もうおそいけど」祖母はそう言ってから、両手を下にふりおろした。

 空中に浮かぶキャビッチが、いっせいにマント姿のアポピス類たちに向かって飛び始めた。

 それらのスピードは圧倒されるほどに速く、残り三匹のアポピス類たちによけるすきをいっさい与えず、四方八方から容赦なくつぎつぎにぶつかった。

「うわあああ」

「ひいいい」

「わああああ」悲鳴をあげながら、アポピス類たちは下に落ちることも逃げることもできず、キャビッチの攻撃を受けつづけた。

「うわあ」

「痛そう」

「すげえ」

「こええ」私たちもその光景をまのあたりにして身をふるわせた。

 おまけにその攻撃は、祖母が空中に持ち上げたキャビッチすべてが使われているわけではなく――その、ほんの一部のものだけが、アポピス類に向かっていったのだ。

 つまりキャビッチはまだまだ、彼らの周りにたくさん、ありあまるほど存在しているのだ。

 やがてアポピス類たちは悲鳴すらあげなくなった。

 そしてキャビッチの攻撃も、終わった。

 アポピス類たちはそろって地面にどさっと落ちた。

「世界壁の外に、お迎えが来ているようね」祖母は、月が照らす夜空を見上げて言った。「ここで寝かせておくのも邪魔になるから、連れ帰ってもらいましょう」

 そうしてもういちど、両手を高くさし上げると、空中に浮かんでいた残りのキャビッチたちが、今度はすべて動き出し、畑の上にのびているアポピス類たちを手分けしてかこんだ。

 

 しゅるん

 

 いっせいに、鬼魔の体にとりついたキャビッチたちが消える音がした。

 すると五匹のアポピス類たちの体は、気をうしなったままふわりと持ち上げられ、そのまま夜空のかなたへ音もなくもち運ばれていった。

 見えない、キャビッチたちの力で。

「世界壁の、外」ユエホワが、ささやくような小声で言う。「そんなとこまで、魔法が続くのか」

 

葵 むらさきの著書

 

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(2019-05-11)
コメント:ある日ポピーと彼女のライバル(?)である鬼魔(キーマ)のユエホワの前に、とつぜん白い光とともに一人のお姫さまが現れた。その人の名は、サルシャ姫──泡粒界という世界の王女だったのだ。サルシャ姫のいた世界は今、侵略者に乗っ取られ、大地も海も人々も瀕死の状態にあった。もしこのまま泡粒界がなくなったら、とんでもないことになる──ポピーは、泡粒界を救うべく立ち上がる決意をした。

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 58

  • 2020.02.05 Wednesday
  • 11:01

「来たわ」ハピアンフェルが告げた。「アポピス類よ」

 私たちははっと窓の方を見た。

 なにかが光っているわけではない。

「四匹……いえ、五匹はいるわね」祖母が唇にひとさしゆびを当てて気配をさぐる。「畑の上空まで来た」

「姿は、消してるの?」私は祖母にきいた。

「わからないわ……でもおそらくはそうでしょうね。まずはピトゥイをかけておきましょう」祖母はそう言い、右手をひらいて肩の上にまで持ち上げ、それからきゅっとその手をにぎりしめた。「ポピー」私を呼ぶ。

「はい」

「マハドゥをかけておきなさい」祖母はうなずきながらいう。「防御魔法を」

「はい」私はリュックからキャビッチを取り出し、右手に乗せた。「マハドゥーラファドゥークァスキルヌウヤ」唱えると、キャビッチはしゅるん、と消えた。

 さっき、ユエホワにうながされておさらいしておいてよかった、と思った。あれをしていなかったらたぶん、今みたいにすらすらっと呪文は出てこなかっただろう。

 

「出て来い、穢れた人間のおんぼろ魔女」

 

 突然そう怒鳴る声が聞こえた。

 祖母のキャビッチ畑の方からだ。

 はあ、と祖母が大きくため息をついた。「なんて下品な呼び方をするのかしら。まったく」

「光使いたちは森の中へ逃げていったわ」ハピンフェルが報告した。「いまアポピス類たちは、姿をあらわしているはずよ」

「わかったわ」祖母がうなずく。「じゃあ、ひさしぶりに投げてくるわ」テラスのガラス戸を、いきおい良く開けはなつ。

「おばあちゃん」思わず呼びとめる。

「ポピー、ここで皆を守っていて」祖母は背を向けたまま私にいった。「万一あのおんぼろ鬼魔が攻めてきたら、遠慮せず投げつくしなさい」

「はい」私はうなずいた。

「気をつけて、ガーベランティ」ハピアンフェルも声をはり上げる。

「ユエホワ、俺たちどうすれば」ケイマンがあせったような声でいう。

「――」ムートゥー類は、出て行く祖母の背中をじっと見ていた。「まずは、様子を見よう」つぶやくようにいう。

 本当をいうと――いや、いうまでもなく、私も祖母といっしょに戦いたかった。祖母といっしょに、キャビッチでおんぼろアポピス類をやっつけたかった。

 きっと、あっという間にその戦いは終わるのだろうけれど――ピトゥイで姿が見えるようになっている今こそ、今度こそ、リューイとエアリイの同時がけを思いっきりあびせてやりたかった。

「ガーベラさんがやつらを引きつけてる間に、やつらの死角へ回りこんで攻撃するのもいいんじゃねえか」ルーロが早口で作戦を提示する。

「いや、その死角にたどりつく前にこっちがやられるリスクの方が高いだろ」ユエホワは首をふる。

「ていうか、ガーベラさん一人でだいじょうぶなのか」ケイマンが心配そうにいう。「アポピス類五匹を相手になんて」

 自分と同類の鬼魔を“匹”で数えるのも、私にはふしぎな感じがした。

 この人たち、本当にアポピス類なのかな?

 まさか、本当は人間なんてこと、ないよね?

 うん、人間だったらそもそもユエホワと小さいころから友だちだったなんてこと、ありえないもんね。

「――」ユエホワは少しだけ考えこんだ。「……見て、みたいよな」小さくつぶやく。

「ああ」ケイマンも。

「さいでございますね」サイリュウも。

「クドゥールグ様を倒した伝説のキャビッチスローをな」ルーロも。

「お前は見たことあるのか? ポピー」ユエホワが私にきく。

「なにを?」私はききかえす。

「だから、お前のばあちゃんが鬼魔と戦うところをだよ」ユエホワが口をとがらせる。

「うーん」私は自分の記憶をたどり「ううん、ない」と首をふった。

 そういえば、そうだ。

 母が戦うところは見たことあるんだけど。

 祖母のほうは、私にお手本としてキャビッチを投げて見せてくれるところしか、見たことがなかった。

「――」ユエホワはしばらく私をじっと見ていたが「行くか」とまた小さくつぶやいた。

「どこへ?」私はきいた。

「お前のばあちゃんの畑へだよ」ユエホワは眉をしかめる。「伝説の魔女の戦いを見に」

「えー、でも」私は反対をとなえた。「じゃまになるし、危ないよ」

「でも見たいだろ、お前も」

「うん、見たいはずだよ」

「さいでございますですよ」

「実の孫でも見たことがないんだな」鬼魔たちはすっかり見にいく気満々だ。

「えー、でも」私はさらに反対した。

 まあ、たしかに祖母が鬼魔をどう退治するのか、見てみたい気はする。

 私が投げるのよりずっと早いんだろうし、同時がけや成分魔法や、もしかしたらまだ私が一度も見たことのない知らない技とかも出してくれるのかもしれないし。

 けど私はそれよりも、もしこの鬼魔たちをつれてのこのこ畑へ出ていったら、ぜったいに私だけが祖母にしかられる、というカクシンがあったのだ。

 だから、行きたくなかった。

 私が怒られるもん!

「やめといた方がいいよ」なので、反対した。

「大丈夫だって」ユエホワが、なぜか自信たっぷりにいう。「なにしろポピーが守ってくれるもんな、俺たちのことは。ぜったい敵の攻撃なんかくらったりしねえよ」

「えー」私は顔をしかめた。「なにそれー」ぜったい何かたくらんでるな、こいつ。

「大丈夫大丈夫」鬼魔たちは私のいうことなどまるで聞く耳もたず、テラスのガラス戸へ向かった。

 そういえばそのガラス戸は、祖母が開け放ったままになっていたのだ。

「ちょっとちょっと」あわてて呼びとめるあいだにも、四人の鬼魔たちはぞろぞろとテラスへ出て行ってしまった。

 なので私も急いで彼らの後をおいかけ、外に出た。

 テラスからすぐには、畑は見えない。

 でもとくに何の物音――キャビッチがぶつかる音や鬼魔の叫び声なんかも、聞こえてこない。

 いったい、どうなってるんだろう?

 私たちは不審に思いながら、テラスから下り畑の方へ向かいはじめた。

「薬持ってきてるな?」向かいながらユエホワが確かめる。

「うん」私はポケットの上から小瓶のあるのを確認してうなずく。「そういえばさ、ユエホワ」

「ん」歩きながらユエホワが私を見る。

「さっきの、シルキワスの回避方法って、いつ知ったの?」私も歩きながらきく。

「いつ、って」ユエホワは歩きながら考える。「こないだ鬼魔界へ戻ったとき」

「じゃあ、うちのパパの書庫に忍びこんでたときにはもう知ってたってこと?」

「忍びこんでたって人聞き悪いな」口をとがらせる。「まあ……知ってたけど」

「そんなら、なんで回避しなかったの? あたしがユエホワにシルキワス投げたとき」

「へ」緑髪鬼魔は歩きながらとぼけたように私を見た。「あれ……なんでかな」歩きながら、考える。「まあ、お前が本気で投げてくるわけないしな、俺に」

「なんで」

「兄ちゃんだから」

「変なの」私は歩きながら肩をそびやかした。

「何がだよ」ユエホワはまた口をとがらせる。

 

「では地母神界の王として、私はユエホワを推薦するわ」

 

 そのとき、祖母が誰かにそう話す声がきこえ、私たちは全員、ぼう然と立ちすくんだ。

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-05-07)
コメント:ポピーは魔法学校に通う少女。その世界では、キャビッチという野菜を使って魔術を行う。ある日ポピーと親友ヨンベは、ちょっとした悪戯を思いついたが、そのせいでヨンベが恐るべき鬼魔(キーマ)にさらわれてしまった! 悲しんでいる暇はない、自分が助けに行かなくちゃ! かっこいい神様たち、そしてずる賢い鬼魔ユエホワと共に、ポピーの冒険が始まった――

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 57

  • 2020.01.30 Thursday
  • 23:05

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 そして夜になった。

 祖母は、いつもと同じように過していればいい、といったけれど、やっぱり皆そうもいかなくて――私もふくめて――なんとなく、リビングから出て行けずにいた。

 ソファにすわる者、床の上に直接すわる者、窓辺にたたずむ者、皆それぞれに、不安そうな顔でだまりこくっている中、祖母はとくに不安げでもなく、刺繍をしていた――そう、私と母の服の刺繍だ。

「美しいでございますですね」祖母の手もとを見てそっとそういったのは、サイリュウだった。「どなたのお召し物でございますのでしょうか」

「うふふ」祖母はうれしそうに笑う。「これはポピーのドレスよ」

「おお」サイリュウと、ケイマンとルーロも私を見た。「きっとすばらしくお似合いになることでございましょうでしょう」

「ありがとう、サイリュウ」祖母はにっこりと笑い、他の二人にも笑顔でうなずいた。

 ユエホワは窓際から、ほんの一瞬だけちらりとこちらを見たが、すぐにまた窓の外に目を向けた。

「そういうのって魔法でやれねえのか」ルーロが誰にきくともなく小声ですばやくつぶやく。

「まあ」祖母は目をまるくした。「そんなこと、考えたこともなかったわ。でもそうね、ツィッカマハドゥルを使えば、できなくもないと思うわ。でも」そこまでいうと祖母は、糸をはさみでぱちん、と切り、私の服(になる予定のもの)を両手で持ち上げ、刺繍のできばえをたしかめはじめた。「それをやって、もし私がやるより上手にできたとしたら、私たぶんひどく傷ついちゃうわ。だからやらない」ほほほほ、と楽しそうに笑う。

 あははは、と他の皆――私もふくめて――も笑う。

 けれど窓際に立つユエホワは、こんどはふりむきもせず、笑っているようすでもなかった。

 私は、さりげなく、すこしずつ窓際へ近づき、

「なに見てんの?」

と、ふくろう型鬼魔にきいた。

 ユエホワは、ちらりと横目で私を見たけど、とくに何も答えなかった。そのかわり、

「あれ、おぼえてるか?」

と、逆にききかえしてきた。

「あれ?」私はききかえしかえした。

「マハドゥ」ユエホワは窓の外を見たままこたえた。

「マハドゥ?」私はまたしてもききかえした。

「学校でやったんだろ。親父さんから教わって」

「ああ」私はやっと、それを思い出した。「えーと、うーんと」記憶をさぐる。「マハドゥーラファドゥー、……」すぐにつづきが出て来ない。

 ユエホワは目を細めて横目で私をじっと見ている。

「クァスキル、ヌウ、……ヤ」

「本当か?」ユエホワがすかさずきく。「それでまちがいないか?」

「う」私はすぐにうなずくことができずにいた。「ん……たぶん」

「まあ、それは」祖母がだしぬけに声をかけてきたので、私とユエホワは同時にふりむいた。「マハドゥの初歩段階の呪文の省略形ね。すごいわ」ためいきまじりに、首をふりながらいう。「実践で使ってみたの?」

「あ、うん」私は正直にこたえた。「一回うちにアポピス類がきた時、使った」

「まあ、そうだったの」祖母は肩をひょいと持ち上げおろした。「それは知らなかったわ、無事でよかった。でも、それとピトゥイ、あとシルキワスにエアリィ、これだけの材料があれば、組み合わせ次第で向かうところ敵なしの攻防がくみたてられそうだわ」ろうそくの、ほの暗いともしびの中でも、祖母の瞳が不敵に輝くのがわかった。

「あんまり心配そうではなさそうですよね」ケイマンがルーロのような小声でつぶやく。

 たしかに、母がこのこと――私が一人で留守番をしていたとき、うちにアポピス類がやって来たことを知った時ほど、祖母はショックを受けてはいないように見えた。

 それはでも、私の身が心配じゃないということでは、まったくない。

 祖母は、私がキャビッチで鬼魔を倒すことを、疑ってなどいないのだ。

 もしかしたら、私自身よりもずっと。

 ――よろこんでいいことなのか悲しむべきことなのかは、よくわからないけれども。

「あ、じゃあ俺、ひとつ提案がある」ユエホワがそういい、皆が座っている方へ近づいていった。「こっち来い」ふりむいて私を呼ぶ。

「頼もしい参謀さんだわ」祖母はますます楽しそうに、わくわくした声でいった。「どんな提案かしら」

「あの」ユエホワはすこしだけ照れ臭そうにうつむき、話しだした。「シルキワス、なんだけど――もしかしたらあいつら、回避方法を身につけてるかも知れない」

「回避方法?」

「まあ」私と祖母が同時におどろきの声をあげた。

「シルキワス?」

「なんか聞いたことあるようなないような名前だな」

「古くからある投げ技のひとつでございますですね」アポピス類たちも同時にたしかめようとする声をあげた。「投げたキャビッチが相手の前でいったん消えまして、背後から当たってくるという」

「ああ」ユエホワがうなずく。「いろいろ調べて考えてみたんだけど……投げつけられたキャビッチが目の前で消えた直後に体を横や斜めに向けてたら、回避できるはずなんだ」

「えっ」私はまたしてもおどろき、

「まあ、さすがだわ」祖母は感心した。「年配のムートゥー類なら知っているはずの、シルキワス回避方法ね」ユエホワと顔を見合わせ、うなずき合う。

 鬼魔界で、先輩たちに聞きまわって仕入れた情報なのだろう。

「消える瞬間に横を向くってこと?」ケイマンがきく。

「ああ。シルキワスをかけられたキャビッチは消える瞬間に、そのまま飛んだ場合に自分がぶつかるはずの相手の体の点から、まっすぐ向こうに抜け出た場合の出口の点がどこになるかを記憶して、転移後その点めがけて攻撃する。けど出て来た瞬間にその点の位置が思ってた直線上からずれてると、どこに当たればいいか判断つかなくて、落っこちるか、もしくはあさっての方向にずれて飛んでっちまう」

「ですがシルキワスは消えるのと同時に背後から現れますから、とても間に合うとは思えませんでございますけれども」

「そう、だから相当機敏に動ける者でないと不可能だ。けどもし、その瞬間に姿を消されたらどうする?」ユエホワは人さし指を立てて質問した。

「あ」

「まあ」

「おお」

「うわ」

「ふうん」全員がおどろいたような顔になった。

「とてもじゃないけど、投げてキャビッチが消えて出て来るまでの間にピトゥイを発動させるなんて、無理だろ」

「そうね、確かに」祖母は右手をにぎりこんで口を押さえ、しばらく考えこんだ。「あらかじめピトゥイで光使いたちを離しておいたとしても、別働隊が用意されているかも知れないし」

「だから方法としては、ピトゥイ専任を一人決めておいて、相手が姿を消すたびに即効で発動させるってのもある」ユエホワが考えをいう。

「なるほど」ケイマンが腕組みをしてうなずく。

「けどそのピトゥイ係が攻め込まれたらどうするよ?」ルーロが早口で質問する。

「ピトゥイ係の護衛係をそばにつけておきますとよろしいのではないでございましょうか」サイリュウが意見をのべる。

「その護衛係をねらって姿を消したやつが攻めてきたらどうするよ?」

「ポピーがもらって帰った薬を使えば、いちどに複数のアポピス類の光使いを離すことができるわ」祖母がいう。「それをするならば、ポピーがピトゥイの専任になるけれど」

「えーっ」私は不満を口にした。「あたし、投げる方がいい」

「じゃあ俺たちがあの薬を使って」ケイマンがいいかける。

「え?」ユエホワが片眉をしかめる。「お前らがあの薬を使って、なんだって?」

 他のアポピス類たちは、目をそらして何もいわずにいた。

 よく見ていなかったけれど、たぶん彼らがあの薬を使っても、ピトゥイは発動できなかったのだろう。

 もしかしたら、魔法さえ起きなかったのかも知れない。

 

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評価:
(2019-05-11)
コメント:ある日ポピーと彼女のライバル(?)である鬼魔(キーマ)のユエホワの前に、とつぜん白い光とともに一人のお姫さまが現れた。その人の名は、サルシャ姫──泡粒界という世界の王女だったのだ。サルシャ姫のいた世界は今、侵略者に乗っ取られ、大地も海も人々も瀕死の状態にあった。もしこのまま泡粒界がなくなったら、とんでもないことになる──ポピーは、泡粒界を救うべく立ち上がる決意をした。

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