魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 25

  • 2019.06.18 Tuesday
  • 21:34

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 マハドゥ。

 その魔法の起源は古く、神がこの世にキャビッチという不思議な力を持つ野菜をお作りになり、それを人の手にゆだねたとき、最初に人びとにお授けになった魔法のひとつとされている。

 けれどその魔法を使える者はけっして多くはない。

 なぜなら、神はその魔法を行使するさいに唱えるべき呪文に、ある特別な“条件”をつけ加えたからだ。

 その条件とは――

 

「無理だよ」私は空気を求めて青空にぐっと顔を向け、思い切り息を吸って、はいて、また吸ってはいて、を、しばらくくりかえした。

「難しいよねえ」ヨンベが困った顔で笑いながら言う。「息つぎなしでこんな長い呪文唱えるなんて」

「――」私はまだ、はあはあと息をきらしながら、ただうなずいた。「無理だよ」それしか、言うことばがない。

 そう。

 この、マハドゥという魔法を呼びさます呪文というのは、べらぼうに長い。

 しかも、発音の難しい単語がいっぱいちりばめられている。

 そしてそれを、ある一定の時間内にすべて唱え終わらないといけない。

 決してまちがえずに。

 決してつっかえずに。

 決して息つぎをせず、一気に。

 もちろん、よけいな邪念をいっさい抱かず、清らかな心で。

 今回父が私たちに教えてくれるのは、いちばんみじかいバージョンの、初歩的な――父にいわせると“だれにでも無理なく使える”部類の、マハドゥなんだそうだ。

 つまりようするに、いちばん呪文が短いやつだ。

 それがあの例の、相手のかけてくる魔法をせき止めてしまう力を発生させる、呪文なのだ。

 私たちは今それを、今日中に使えるようになるために、覚えようと練習している。

 命をかけて。

「神さまはなんでこの呪文を唱える時間を、ツィックルの葉っぱが人の子どものひざの高さから地面に落ちるまでって決めたの?」私はもう、世界中の大人すべてにしかられてもいいという気持ちでそのことを口にした。「みじかすぎるよ」

 そう。

 いちばん短いこの呪文をとなえるための時間は、せいぜい数秒――地上約三十センチの高さからツィックルの葉っぱがひらひらひら、と地面に落ちていく間のその時間と、さだめられている。

「うん」ヨンベはますます困ったような笑顔でうなずいてくれた。「みじかいよね」

 ヨンベはやさしい。

 だって、彼女自身はもうとっくに、私の母に宣言したとおり、この呪文をそのみじかい間にきちんと最後までとなえられるように、なっているからだ。

 それでも決してえらそうに私を見おろして「あら、あなたまだできないの? ポ、ピ、イー?」なんてことはひとことも言わず、私のこぼす文句にうなずいてくれる。

 あのムートゥー類とは大ちがいだ。

 ふう、と私は息をつき、すう、と大きく吸いこんで、もういちどチャレンジした。ツィックルの小さな葉っぱを、ヨンベが私の膝のところから落としてくれる。

「マハドゥーラ、ラファドゥーマ、クァイ、スム、キル」そこで葉っぱは地面についた。「ああー、だめだ」私は空を見上げてぎゅっと目をとじた。

「でも、だいぶ長く唱えられるようになってきたよ」ヨンベは葉っぱをひろいながら、私を見上げて言った。「キルまでいけるもん。あと少しで、ぜんぶいけるよ」

「ありがとう」私は思わず笑顔になった。

 ヨンベといっしょにやるおかげで、この練習も私にとっては楽しいものになっていたのはたしかだ。

 あとはそう、本当にヨンベのいうとおり、最後まで呪文を唱えられるようにさえなれば……

「やったあ!」

 ときどき、校庭のあちこちからそんな歓声が聞こえてくる。

 もちろんそれは、マハドゥかまたはエアリイをマスターした生徒の発する喜びの声だ。

 マスターする子はつぎつぎに増えてゆき、マスターできない子はしだいに減ってゆく。

 私は、まだマスターできない方のままだ。

「もしかして、最後にあたし一人だけマスターできないまま残ったりして」ふとそんなことをつぶやいてみた。

「そんなことないよ」ヨンベがカンパツをいれずに大声で答える。「ぜったいできるよ、ぜったい。あたしがホショウする」

「ヨンベ」私はなんだか鼻の奥がつんっと痛くなってしまった。「うん。あたしがんばる」大きくうなずく。

「うん」ヨンベも大きくうなずいて、私の膝のところに葉っぱをセットする。

 すう、と息を吸う。

「マハドゥーラ、ラファドゥーマ、クァイ、スム、キルドゥ」葉っぱが地面に着いた。「あー」私は空を向いてぎゅっと目をとじた。

「おしい!」ヨンベも葉っぱをひろいながら、ぎゅっと目をとじた。

「なかなか苦労しているみたいだね」父が、微笑みながら様子を見にきてくれた。

「あとちょっとなんです」私が盛大に文句をいいはじめる前に、ヨンベが父に向かっていっしょうけんめい説明してくれた。「あと、ヌゥヤだけなんですけど」

「そうかあ」父はますます微笑んで深くうなずく。「じゃあ、ひとつだけコツを教えてあげよう」

「えっ、そんなのがあるの? もう、どうして最初に教えてくれなかったの」私は母が父に文句を言うときのように文句を――やっぱり言ってしまった。

「ははは」父が困り笑顔で笑う。「ほんとは、あんまり使わないほうがいいコツなんだよね。もしかしたらこれで唱えきっても魔法が発生しないかもしれないし」

「えっ」私とヨンベは目をまるくした。「どんなコツなの?」

「うん、あのね、ひとつの単語の、最後のひと文字を省略して、次の単語の最初の文字を唱えるんだ」父は説明した。「マハドゥーラファドゥークァスキルヌゥヤ、ってね」

「ええっ」私とヨンベはますます目を丸くした。「そんなんでいいの?」

「うーん、わからない」父は空に向いて目をぎゅっととじた。「でももちろん、心の中ではちゃんと最後の単語のところまで呪文を描くんだ。それでなんとか、いけるかもしれないし、いけないかもしれない」人さし指を立てて、ウインクしながら話す。

 なんだか、ずるいやり方だなあ。

 そう思ったけれども、私はとりあえず試してみることにした。

 ずるいかもだけど、それで魔法が使えたとしたら、ラッキーだもんね。

「ぷっ」

 一瞬、緑色の髪の者が横を向いて思わず吹き出す姿が幻で見えたけれど、無視した。

「やってみよう」ヨンベが葉っぱをセットする。

 すう、と私は息を吸った。

「マハドゥーラファドゥークァスキルヌゥヤ」

 ひらひら、ぱさ。

 言えた。

 唱え終わったあとで、葉っぱが地面に着いた。

 しゅるん、と音がして、私の手の上にずっと乗っていた小さなキャビッチが、消えた。

 魔法の力に変化した証拠だ。

 魔法が、発生したのだ。

「やったあ」ヨンベが両手を頭上に上げてさけぶ。

「やったあ」私もおなじようにして、ヨンベと手をぱちんと合わせる。

「おめでとう」父は目をますます細くしてよろこんでくれた。「ほかのみんなも、もう少しでできるようになるはずだ。そうしたらぼくも安心して、旅に出かけられるよ」

「あ」私は思い出して父を見た。「そうか、パパはこのあと、えーと、研究旅行に、行くんだよね」ほんとのことだよね。ほんとのこと。

「えっ、そうなんですか?」ヨンベも驚いた。

「うん、まあちょっとした、ね」父は眉を少しさげてハハハ、と笑った。

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-05-07)
コメント:ポピーは魔法学校に通う少女。その世界では、キャビッチという野菜を使って魔術を行う。ある日ポピーと親友ヨンベは、ちょっとした悪戯を思いついたが、そのせいでヨンベが恐るべき鬼魔(キーマ)にさらわれてしまった! 悲しんでいる暇はない、自分が助けに行かなくちゃ! かっこいい神様たち、そしてずる賢い鬼魔ユエホワと共に、ポピーの冒険が始まった――

おディスいただきありがとうございまぁす

  • 2019.06.16 Sunday
  • 23:08

 そう。

 私は、自分で自分のことを、付き合いの良い方ではないがいつも大人しく本を読んでいて、穏やかで、でも話しかければいつも機嫌よく対応する、そこにいるだけで皆の心がホッと安心するような、真冬の太陽のような存在であるのだと、思っていた。

 のだが。

 

 今日、まあたまには聞くか、てな感じで後輩君の、主任(仮名)に対する愚痴を聞いたのである。

後「主任さん、面倒くさい仕事って僕かマルマルさん(仮名)にしか頼まないんですよ。でもマルマルさんは主任さんのパワハラが原因で最近体調崩して休みがちだから、最近はぼくばっかり集中攻撃なんすよ」

葵「あぁ〜、そうなの? それはひどいねえ」

後「そうなんすよ。葵さんとかカクカクさん(仮名)とか、何か言うとガーッと言い返してくる人には何も言わないで、ぼくらにばっかり言うんですよ」

葵「え?」

 

 白状すると、この後輩君の一言で私は、本当に心底、ビックリしたのだった。

 ガーッと言い返す?

 え、誰が?

 

 またし?

 

 いやいやいや、またまた。

 うむ、確かに私葵も、主任の態度がどうも昭和でパワハラで上からになりがちだよな、と見ることは、あった。

 けれど確かに、私なぞに物言う時にはなんか彼なりに下手に出て注意深く言葉を選ぶようなところも、見受けられた。

 そして能天気な私はそれを、私が彼と同期入社の者なので、何かストレートに言いづらいもんがあったりすんのかな、程度にしか、考えていなかったのだ。

 

 だなので。

 そんな、ガーッとなんやらするようなことではなかりけりだらうエエ君、と私はすぐに、内心せせら笑って聞き流したのであった。

 

 そしてそんな休憩明けの、午後の業務におきまして。

 明らかに連絡漏れと思われる案件が偶然見つかり、私は自席で「主任、いいですか」と手を挙げて呼びつけ、近くに来た主任に向かって、いや向かないままで、PCの画面をぴし、と指さしたまま、

「これ、申し送り欄になんにも書いてないですけど、先日の周知内容に照らせばコレがコウなってるのでコウしなければならない案件ですよね」

と、一気呵成に伝えた。

 主任は約三秒、無言でいた。

 私もPCを指さしたまま、一言の追加もなく、返答を待った。

「えーと、……コレがコウでコウで……確認します。ちょっと待って下さいね。確認します。すいません。ちょっと待って下さい」

 主任は同じことを二、三回繰り返しながら彼自身の席へワタワタと戻って行った。

 そして。

 

 んあ、これかよ。

 

と、私は思い到ったのだった。

 これとはつまり、「ガーッと言い返す」と指摘された件の、そういうイメージを抱かせてしまう要因となる、私葵の物腰、態度。

 そもそも主任に物訊くとき、自分が座ったままで相手呼びつけるし。

 目も見ないででかい声で一息に言い尽くすし。

 相手が返事もできずにかたまってても何のフォローもしないでただ回答待つのみだし。

 

 で、それに気づいてからというもの、なんといいますか、自分で自分に嫌悪を抱く抱く。

 嗚呼、なんで私はこんなに非親切で黒くて悪魔的なのだろうかと。

 ……と、つらつら書いてたら、嗚呼、思い出しました。

 確かに、ありました。

 主任より、こめんどくさい、予測ダメージ大業務の依頼を受けた時、私葵、こう、答えました。

 

「それ、私がやるの?」

 

 これってあれっすよね。私を誰だと思ってるの的な、ブリマどんな態度っすよね。

 わちゃー。

 あい。やってたわ。わたすやっとりますた。

 

 そう。

 私は、自分で自分のことを、付き合いの良い方ではないがいつも大人しく本を読んでいて、穏やかで、でも話しかければいつも機嫌よく対応する、そこにいるだけで皆の心がホッと安心するような、真冬の太陽のような存在であるのだとチャ〜〜チャ〜〜チャ〜〜〜(幕)

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-05-01)
コメント:「私」はその朝巨大なカエルに遭遇し、路上は命を賭した「だるまさんがころんだ」の戦場と化した──表題作ほか「さくらマーケット」「センチメンタル付属物」収録。女性主人公の、少しだけ不思議な日常世界を描いた短編集。

葵マガジン 2019年06月15日号

  • 2019.06.15 Saturday
  • 20:04

JUGEMテーマ:小説/詩

 

◇◆◇◆聡明鬼◆◇◆◇


 第52話 神の名(全100話)

 

「じゃあ、行くか」聡明鬼は言って立ち上がった。
「だ」スンキが慌てて見上げる。「大丈夫、なのですか」
「うーん」リューシュンは天井を見る。「まあ、どうにかなるだろう」
「−−」キオウは、眉根を寄せて俯きしばらく無言だったが、やがて意を決したように聡明鬼を見上げた。「俺も行こう」
「来なくていい」だがリューシュンは即座に断った。「スンキの傍にいろ」
「しかし」
「もしここに鬼どもがやってきたら、どうする」リューシュンは真顔で模糊鬼を諭した。「誰が守るんだ、お前の妻と子を」
「聡明鬼−−」
「まあ、奴らが来ても無理に闘うこともない」リューシュンは外に出ながら言った。「陽世の、お前が元いた山に行け。陰陽師とフラがいる。リョーマも」

 

 そうしてリューシュンは独り、森羅殿へと向かった。
どうにか、なる。
リューシュンは、まっすぐに前を向いて歩いた。
灰色の空と大地が、続いている。
なぜ、どうにかなるのか。
よくわからない。
自分が閻羅王に負けるはずはないという自信か。
自分には玉帝がついているという安心か。
スルグーンという、鬼差がそこにいるからか。
スルグーンがいるから−−?
歩きながら、自分の思いつきに不思議を感じる。
スルグーンが自分を助けるとでも思っているのか?
鬼差のスルグーンには、まだ遭ったこともないのだ。
三年前から陰鎮鷲椶乃敢垢鬚笋辰討い襪箸いΔ、土地爺になってからこっち、満月の夜に開かれる森羅殿の宴の席でその鬼差を見たことはなかった−−無論、土地爺たちの宴であるから鬼差に遭えぬとしても妙ではないのだが。
もしかしたら、向こうは自分を見知っているのかも知れない。
閻羅王に盾突く鬼の出来損ないとして。
そして、自分もスルグーンを見れば、何か思い出すのかも知れない。

 

 チイ

 

 あの怪物の甲高い声が聞こえる。
そんな気がする。
リューシュンは、歩きながら笑みを浮べている自分に気づいた。
何が、可笑しいのだろう。
それとも、何が嬉しいのだろう。
森羅殿が、見えてきた。
リューシュンは真っ直ぐにそれを見ながら進んだ。
歩を緩めることも、心逸って駆け出すこともなく、それまでと同じ速さで歩いた。
生死簿の事を聞かれたら、実際自分は直に手を触れていないのだから、盗んでなどいないと言えばいいだろう。
森羅殿に近づくにつれ、中でざわつく鬼どもの声が耳に届き始めた。
−−何の騒ぎだ?
リューシュンは口をすぼませ、入り口に立った。
すぐには、気づく者もなかった。
鬼どもは全員、殿内の奥−−一番奥に座している閻羅王を見ている。
閻羅王は少し離れた隣に座る鬼差を見て何か話し、それから正面を見て自分の前に立つ者−−痩せて蓬髪の者−−に何か話し、そして、リューシュンに気づき顔を上げた。
リューシュンは特に挨拶もなく、腕組みして立っていた。
「だ」座っていた鬼差の一足が、大きな声を挙げた。
リューシュンはそちらを見た。
だが声を挙げた鬼差は自らの口を手で抑え、ただ眼をまん丸に見開きそれを左右にきょときょと動かしていた。
−−あれ、ケイキョか?
リューシュンはすぐに気づいた。
「旦那」と、呼ぼうとしたのを慌てて抑えたのだろう。
だが呼ぶと鼬にとって甚だ都合が悪くなるであろうことを推察し、リューシュンはまた正面を見た。
閻羅王の、少し離れた隣に座る鬼差。
−−あいつが……スルグーン、か。
「そ」
「聡明鬼」
「聡明鬼だ」
「聡明鬼が来た」
鬼どもがわあわあと騒ぎ出す。
その中でリューシュンは、遥か向こうに座している鬼差を見、その鬼差も閻羅王からリューシュンの方へと顔を向け、二足の鬼は互いを見た。
そしてスルグーンは、リューシュンを見たまま座から立ち上がった。
「初めて見るか、あの鬼を」閻羅王が訊く。
「い」スルグーンは眼をリューシュンから離せない。「いえ……夢、で」
「うむ」閻羅王は頷く。「やはりお前の夢に出てきた鬼は、聡明鬼に間違いないのだな」
−−だとすると、俺とこいつは−−
スルグーンは思った。
だとすると、俺とこいつは夢よりもずっと前に、遭っていたということになる。
それは−−
上天で……?
だがスルグーンにはっきりとそういった記憶はなかった。
目の前遥か向こうに立っている鬼、その名すらも浮かんでこない。
そう、現実においては今初めて会ったばかりとしか、思えないのだ。
「あれっ」リューシュンが声を挙げた。
スルグーンははっと身を固まらせた。
「お前」だがリューシュンはスルグーンではなく他の者を見ていた。「テンニじゃないか」
テンニを見る。
閻羅王の正面に立っていたその元降妖師とやらは今、こちらに背を向けて聡明鬼を見遣っていた。
だが呼びかけに応えることはせず、じっと聡明鬼を睨みつけているようだ。
「そうか、処刑されたんだな」リューシュンは頷きながら言った。
−−だ、旦那!
ケイキョは冷や汗を大量に掻いた。
−−そんな、ずけずけと言っちまっちゃあ、まずいでやすぜ。
しかし鼬の心配したように、テンニが怒りの形相で聡明鬼に飛び掛るような展開とはならなかった。
テンニはふん、と鼻を鳴らし、忌々しげな顔を聡明鬼に向けているだけだ。
−−ああ、そうか……丸腰だから、でやすね。
鼬は納得した。
今のテンニには、打鬼棒がない。
朱砂もだ。
今聡明鬼と闘うとしたら、素手でやり合わなくてはならない。
降妖師は技量や力量の差から、飛び掛るようなことはせずにいるのだ。
−−薬漬けではあったが、やはり馬鹿ではなかったでやすね。
とりあえず、鼬はほっと鬼の胸を撫で下ろした。
「よく来たな、聡明鬼」閻羅王はゆっくりと、座から立ち上がった。
殿内が、たちまち静まり返る。
いよいよ−−ついに、閻羅王から聡明鬼に向けて裁きが下されるのだと、鬼どもは思っていた。
−−だ、旦那!
ケイキョは何とかして聡明鬼を連れ逃げ出す方法を考えようとした。
自分の背に、あの筋骨逞しい鬼の体を乗せて走れるだろうか−−無理に決まっている。
ああ、ここにリョーマがいてくれたら!
「今日はスルグーンって奴に会いに来た」リューシュンはすたすたと歩き出した。
場内の鬼どもがひっと息を呑む。
「スルグーンに」閻羅王は繰り返した。「お前の旧友に、じゃな」
「それが、よくわからないんだ」リューシュンは大股で歩き続けながら肩をすくめた。「おい、スルグーン」呼ぶ。

 

 おい、スルグーン

 

「−−」スルグーンは固まったように立ちすくんだまま、近づいてくる鬼を見続けた。
−−何だ……今の、声は?
今の声、とは、実際に自分を呼んだ、目の前の土地爺の声のことではない。
スルグーンの頭の中で、まるで木霊のように聡明鬼の声に被さって聞えた、別の声だ。
かつて、自分をそう呼んだ、誰か別の者の、声−−言霊?
ぴたりと、聡明鬼が自分のまん前に立ち止まった。
スルグーンは元より微動だにせず鬼を見続けている。
聡明鬼もまたじっとスルグーンを見、それから少し首を傾げ、腕を組み、眉を寄せた。
「やっぱり、会ったことはない、よな?」
そう訊く。
「−−」スルグーンは少しの間黙っていたが、「ない」と首を振り答えた。
「けどお前、洞窟の中にいただろう?」鬼が訊く。
「え?」スルグーンは驚いて訊き返した。
「海から続く洞窟の中で、お前と同じ名前の−−生き物、がいた」リューシュンは言葉を選び答えた。
「鳥か」閻羅王が言葉を挟んだ。
「いや」リューシュンは閻羅王を見て首を振った。「鳥……じゃあないと思う、が……翼と嘴は、あった」
「それで何故鳥ではないのじゃ」閻羅王がまた訊く。
「体が栗鼠で、顔が猫で、耳が兎だったからだ」リューシュンが答える。
「ふむ」閻羅王は頷き、
「化け物だ」鬼たちは騒いだ。
「それこそがガルダ、鳥の神の姿ということか」閻羅王は自らに語りかけるような声で言った。
「鳥の、神?」リューシュンが、訊く。
「鳥の、神?」鬼差どもが続けて訊く。
−−鳥の、神……
スルグーンだけは、夢の中で自分を神と呼んだ鳥たちの姿を思い起こしており何も訊かなかった。
「そうじゃ」閻羅王は頷き、すっくと座から立ち上がった。
焔のような眸で聡明鬼を見下ろす。
「そしてナーガ、龍の神、それがお前じゃ」
びしり、とその邪悪な指がリューシュンを指した。
「−−俺が?」リューシュンは茫然と訊き返した。

 

          ◇◆◇

 

「スンキ」聡明鬼が森羅殿へと向かった後、キオウは妻に問いかけた。「リューシュン……というのが、聡明鬼の名なのか」
「あ」妻は目を見開き口を抑えた。「やっぱり、聞えていたのね」
「聞えた」キオウは少し笑った。「けど俺はその名に、覚えがある」
「どういうこと?」
「うん……龍馬について調べていた時に知った、伝説なんだが」
「伝説?」
「ああ。かつて上天で玉帝に飼われていた龍馬が、龍駿、と呼ばれていたという」
「−−」スンキは沈黙して夫を見つめた。
「龍駿は玉帝に寵愛されていたが、自分の棲家として与えられていた青龍塔を焔で焼き尽くし、上天から追い払われたという」
「−−まさか」スンキは眼を丸くしたまま夫に言った。「あなた、それがリューシュン様だと……言うの?」
「−−」キオウは首を振った。「俺もまさかとは思うが……あいつと陰陽師はともに、スルグーンのことを話していた」
「スルグー、ン?」
「俺が知っているのは鬼差のスルグーンだが、あいつらが知っていたのは洞窟の中で見た、鳥と他の獣を混ぜたような怪物のスルグーンだった」
「怪物?」スンキは眉をしかめた。
「そしてリューシュンは、スルグーンをかつて見たことがあるような話をしていた」
「……どこで?」
「上天で龍駿は、青龍塔を焼き尽くしたといっただろう」
「ええ」
「その時、龍駿にそうさせた者がいたんだ。元は龍駿と敵対していた者だが、玉帝への謀反を起こし、龍駿をけしかけその焔で青龍塔を燃やさせた」
「−−誰、が」
「当然その者は玉帝の怒りに触れ、上天から追放された、龍駿とともに。その者とは−−ガルダ」
「ガルダ?」
「鳥の神だ」
「−−」
「龍駿とは龍の神ナーガのことだと聞いた。そしてガルダは、もしかしたら」
「−−」
「スルグーン、という名を持っていたのかも、知れない」
キオウは立ち上がった。
「推測でしかないが、俺はこの話を陰陽師に伝えておいた方がいいと思う。すまないが、もう一度だけ陽世に行って来る」
「あなた」スンキは夫を見上げた。「私も、一緒に連れて行ってください」
「お前も?」キオウは驚いた。「しかし、体が−−」
「大丈夫です」スンキはにこりと笑った。「病気ではないんですもの」

 

 そうして鬼の夫婦は天心地胆から陰陽界へと出た。
風の音の中を、しばらく歩く。
スンキはふと、夫の衣の袖を手でつまんだ。「あなた」
「ん」キオウは歩きながら振り向く。
「やはり、陰陽師さまには、リューシュンさまの名を明かすのはお止しになってください」
「どうして?」
「前にリューシュンさまが、名を呼ぶとつながるから、自分の名を他の者の前で呼ぶなと、私たち使用人に言いつけたことがあったんです」
「ああ……それで」
妻がさきほど、自宅で聡明鬼と話している時つい「リューシュン様」と呼び、慌てていたことを模糊鬼は思い出した。
「リューシュンさまはたぶん、陰陽師さまにもまだ名を明かしていないはずです。リューシュンさまご自身がそうしたいとお思いになる時まで、どうか……名を教えるのは、お止しになっておいて下さい」スンキは袖口を手でつまんだまま夫を見上げた。
「−−」キオウも歩きながら妻を見下ろした。「わかったよ。スンキ」頷く。
「ありがとう」妻はにこりと笑った。

 

◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-04-02)
コメント:幼稚園ママは忙しい。家事に用事、子供の世話、PTAの役員会議、そして鳴りやむことを知らない電話……表題作ほか「吸血鬼・明」「地階の異界でオフ会を」収録。

人は何故失敗するのか

  • 2019.06.14 Friday
  • 23:25

 それは、成功ばっかりしてると“魔”がつくからだ。

 ほらよく、完璧なものには魔がつきやすいつって、お寺の屋根瓦を一部崩して造ったりするじゃないですか。 よく、か?

 あれですよ。

 その失敗がなかったら、今日の自分は完璧だった。そんな時。

 

「あ、やべー、お前これ、失敗しとけ」

 

と言って、ご先祖様が失敗を持って来てくれるのだ。

 なのでそんな時には、

 

「ああ、はーいサンキュー」

 

と片手を挙げて感謝のひとつでもしとけばよいのだ。

 HP枯渇寸前の、あをざめて疲れきった暗〜い顔で。

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-06-12)
コメント:あなたの隣にいる人は、本当に人間ですか――? ロボットスナイパー・K川の元に舞い込んだ、存外な依頼。表題作ほか3作品収録のSF短編集。

『汝の隣人を愛せよ、以下の条件で』Amazon Kindle版

  • 2019.06.13 Thursday
  • 18:35
評価:
(2019-06-12)
コメント:あなたの隣にいる人は、本当に人間ですか――? ロボットスナイパー・K川の元に舞い込んだ、存外な依頼。表題作ほか3作品収録のSF短編集。

JUGEMテーマ:小説全般

 

 SF短編を4作品収録。うち3作はロボットのお話です。

 さらにうち1作品は、かつての「電撃大賞」の最終6作品に選んで頂いたお話です。って書くとほんと、過去の栄光(か?)に浸る縁側でお茶とお饅頭を楽しむおばあちゃんみたいであれなんですが。でもどのお話かは秘密ふふ。昔の話だしね。そう平成時代の。

 

【目次】

 汝の隣人を愛せよ、以下の条件で

 アイエス

 やさしく手をつなごう

 王様ロボット

 

 以下『王様ロボット』より一部抜粋

================================

 みんな、本当は気づいていたんだ。だけどみんな、それを口にすることをはばかっていた。
 そう──
 人が本当に欲しかったのは「召使ロボット」じゃない。
「王様ロボット」だったんだ。
 王様ロボット──つまりそれは、何事も自分で責任をもって判断することのできない人間に対し、指令を下すようプログラムされたロボットだった。

 アインシュタインという人が科学の世界に革命を起こしてから二〇〇年が経った頃、ロボット工学者たちはとうとうそれを発明し世に送り出した。
 リーダーロボット。
 いわゆるヒューマノイドに仕上げられたそれは、ゆったりと歩き、胸を張り、腕を持ち上げて皆に手を振った。あまつさえ、彼は「ダイオードのごとき」微笑みを明るく投げかけることさえできた。

 最初は試験的に小さな自治体の中で、リーダーロボットは稼動された。ロボットは人々に指示を与え、町の運営をきりもりし、町会費を集めて公共の施設やゴミの処理など、次から次へとたまっていた問題を片付けていった。
 その町ではもう誰も、二度と人間の町長を据えもどそうとはいわなかった。
 そしてその町のやり方を真似してリーダーロボットを導入する自治体が、一つ、また一つと増えていった。
 ある程度の数の「リーダーロボット町」が生まれると、各町はお互いにコミュニケーションを取りたがるようになった。内心では、自分のところの「ロボット町長」がどれだけ優れているか、他の町の連中に見せびらかしてやりたいという欲望もあっただろう。基本のプログラムは同一なんだけど、そこからいかに「イイもの」をくっつけていったか、という点での自慢大会だ。
 かくして「町」はくっついて「市」になり、そこには「市長ロボット」が誕生した。
 さらに「市」は「州」になって「州知事ロボット」が。
 そして必然として、こんどは「州」が寄り集まって「国」になろうか、という話が飛び出したのだった。

「倫理」という言葉をふりかざす学者たちも、もちろんいた。
 倫理はエーテルのように、リーダーロボットの動きを制御し掌握しようとした。
 だけど今回は、ES細胞の時ほどはっきりした抑制効果は現れなかった。
 リーダーロボット推進派は真っ向から抗弁した。
 人間がロボットに操られる?
 ばかな!
 大昔のSFマンガじゃあるまいし。
 我々はただ、どの行政案件を最優先して処理すべきか、それをコンピュータに演算してもらおうとしているだけだ。
 最終的に決断する権利を持つのは、もちろん人間、我々市民たちなのだ。

 そう、じっさい今の時代、電子の働きに疑いを差し挟んで生きるなど、老若男女問わず不可能なことなのだ。
 育った環境がどうであれ、情報の伝達手段に関する好みがどうであれ、人は、次世代デバイスと手を繋いで歩くしかなかった。
 耳から入ったさまざまな周波数の音波が収束して聴覚野を目指すがごとく、すべての道は「王様ロボット歓迎」という垂れ幕の下に続いていたのだ。

 

     ◇◆◇

 

 そんなわけで。

「国民の皆さん、おはようございます」パソコンのスピーカから、今日も王様ロボットのあいさつが流れてきた。
 彼の声をどんなものにするかという問題は、世の人々の知らない水面下でけっこうゴタゴタとあったらしかった。
 世界に広がる宗教団体の最高指導者が、自分の声を使ってほしいと手を回したり、そうかと思えば最大資本主義国の首領がいやオレの声を、と横槍を入れたり、はたまた世界の貨幣の半分方をひとりじめしているIT企業の会長が「差し入れ」をちらつかせながらシリコンスマイルを口の端に広げてみせたり、したようだ。
 結局誰の声が採用されたんだろう?
 時々ふと気にはなるけど、でも世界の人々の主な関心はそんなところにはなかった。
「きょうは、健康曜日です。皆さんがいつまでも元気で長生きできますよう、健康によいことを進んで実践いたしましょう」
 王様ロボットは、今日の『生きる指針』をくだした。
「具体的にどのような行いを実践するかは、各自治体のリーダーロボットがすでに計画済みです。皆さんはその方針に従い、また各自で工夫をこらして、どうぞご自分の健康促進、健康維持に邁進努力してください」
 健康曜日、そうだったっけか──
 ぼくはようやくベッドの上で身を起こし、大きく伸びをした。今日も明るく、いい天気のようだ。
 恋人のリイはまだしっかりと目を閉じてノンレム睡眠の中にいる。
「ええ、皆さん、今朝のおめざめはいかがでしょうか」王様ロボットにかわって、ぼくたちの市のリーダーロボット、カチヤマ2号が画面に現れた。
 この名称は単純に、カチヤマ産業株式会社が造った二体めのロボットだからという理由で呼ばれている、ニックネームにも及ばない「呼び名」だった。確か住民投票で何とかいう名前になったはずだけど、ぼくは覚えていないし、ほとんどの住民は「カチヤマ2号」で安定しているようだ。
 カチヤマ2号は、王様ロボットのはつらつとした表情に比べると、どうも風采の上がらない外見をしていた。
「あいつ、絶対肝臓が悪いんだぜ」ぼくらは仲間内で、よくそんな冗談を言い合っていた。
 いや本当に、なんだか頬のこけたような、青黒い顔をしているのだ。シリコンに黒雲母でも混じっているのだろうか。
「わがトウホウシティにおきましては本日、住民健康促進のためのウォークラリーを開催いたしたいと思います。住民の皆様にはお誘い合わせの上多数のご参加をいただきますようよろしくお願いいたします」
 ぼくはぷっと吹き出した。なんて腰の低い言い方なんだろう。それでもリーダーかよ?
「よろしくお願いいたします」じゃなくて「参加しろな、お前ら」ぐらい、言えばいいのに。
「いく?」突然ベッドの枕元附近から声がした。振り向くと、リイがうっすらと目を開けていた。
「ああ、おはよ」ぼくはごろんと上体を倒し、彼女にキスをした。「ウォークラリー?」
「うん」リイはまだ眠たそうだった。
「うーん、どうしようかなあ……どうする?」ぼくはあんまり気乗りしない声で逆に訊ねた。「行く?」
「参加したら、なんかもらえるんだっけ?」リイはまた逆に訊き返してきた。
「え、そんな話あったっけ?」またまた逆にぼくは訊き返した。
「なおウォークラリーに参加いただきゴールまで完歩なさった皆様には、トウホウシティより素晴らしい景品をご用意しております」折よくカチヤマ2号が画面内でそう云った。
「だからその景品ってのが何かっていってんのよう、カチオカ」リイは眉をしかめてベッド埋め込みパソコンの方へ寝返りを打った。
「カチヤマだよ」ぼくは苦笑した。「まあ帰りにどっかで飯でも食ってくることにして、一応出かけよっか」そう提案するとリイはたちまちにこっと笑ってうなずいた。
 女の子ってのは結局「お外でごはん」てのが、好きなんだよな。

 

     ◇◆◇

 

 街の中央広場が、ウォークラリーのスタート地点とされていた。色とりどりの風船に囲まれた横断幕と、ステージ上で華々しくファンファーレを奏でるブラスバンド。花火が上がる。屋台まで出ている。すごいお祭り騒ぎだ。予算が、大分つぎ込まれている。
「あー」リイが鼻にかかった声を挙げた。何、と訊かなくても、彼女が次に何を云うかぼくにはわかった。「ショーイィ、りんご飴買ってえ」
 あ、そっちか。タイ焼きかと思った。と苦笑しながら、ぼくはリイに飴を一本持たせてやった。
「あっ」とたんに、中年のおばさんに見咎められる。「あんたたち、ウォークラリーに参加するんでしょ。何持ってんの。そんなもの持って、健康促進なんてできるわけないでしょう。参加できないわよ、そんな食べ物とか持ってたら」
「えー、別にいいじゃないですかあ」リイは口を尖らせて反発した。「そんなルール、あるんですか?」
「あるわよ、あんた、市長さんに聞いてごらんなさい」おばさんはむきになって目を吊り上げた。「市長さん、ちょっと市長さん」
「はい、はい。皆さん、おはようございます」カチヤマ2号が上下グレーのジャージ姿でなめらかに手足を運びつつやって来た。「本日はまことに良い天気で、本当によかったですね。まさにウォークラリー日和といえますよね」
「そんなことはどうでもいいのよ」おばさんは話の途中から割り込んでリイのことを告発し始めた。「この娘さんが、ウォークラリーに出るのにりんご飴なんか持っていくっていうのよ。こんなの、ルール違反ですよねえ」
「──」カチヤマ2号は突然沈黙した。周りの騒音をすべてシャットアウトしたなら、彼の内部でコンピュータチップがしぃぃぃ……と微かな作動音を立てているのが聞き取れたことだろう。沈黙は3秒にわたった。
「ちょっと、市長さん」
「りんご飴を持ってウォークラリーに参加してはならないという明確な規定は定められておりません」カチヤマ2号はデータ検索を終え結論した。
「でも健康促進のためのラリーなのに、りんご飴はよくないんじゃありませんか?」おばさんは頬をすっかり赤くして食い下がった。
「──」市長はまた沈黙した。
「それに、態度としてもあんまり真面目とはいえないし、褒められたもんじゃあないですよねえ」
「りんごに含まれる栄養素は人間の身体にとって大変好ましいものです」
「何いってんのよ。それとこれとは関係ないでしょう」
「ウォークラリーに臨むに当たっては、市民の皆様にも健康促進・維持という自覚をしっかりと持っていただき積極的な参加をしていただきたいと願う次第であります」
「ああもうッ」おばさんは、ぶちっと音をたてんばかりに切れた。
「それとこれ、のそれ及びこれが示す内容に関する推論は次のように立てられます」
「もういいですッ」おばさんはぷんぷん怒って立ち去った。
 その間にリイのりんご飴はあらかた食い尽くされており、問題は彼女の胃酸によって消化された。

「本日はまことに良い天気で、本当によかったですね。まさにウォークラリー日和といえますよね」カチヤマ2号はその後ステージ上で市民の皆に挨拶を述べたが、さっきおばさんに向かっていったのと同じ科白だった。
 リーダーとはいえ、市長とはいえ、しょせんはロボットだ……まあ、生身の人間がリーダーをやっていた時代だって、似たような感じだった、という年寄りもいるけれど。お定まりの、おためごかしの、その場しのぎの言葉ばかりを並べてた、とか……
 それはともかく、ウォークラリーは気持ちよかった。海沿いの道路が歩行者専用とされ、市民は心地よい潮風を胸いっぱいに吸い込みながら汗を流して歩き続けた。飲み物やなんかは結局自由に取っていいってことになった。飽くまで「楽しく健康に」が目的であって、別に市民の性根や精神力を根底から鍛えなおすイベントというわけじゃあないからだ。皆、お茶やジュースのボトルを手に、少し早足めの散歩という感じでゴールを目指していった。
 ぼくもリイも健脚には割と自信がある方なので、いい調子でどんどん進んでいった。
 けれど途中で、カチヤマ2号がぼくらを追い抜いていった。
「調子はどうですか?」カチヤマ2号はパリパリ音を立てそうな笑顔で声をかけてきた。「あまり無理をなさらないよう、ご自分のペースで歩いてくださいね」
「ええ、どうも」ぼくは会釈を返した。
「ねえ、市長さん」リイが、ぼくの左腕の陰からひょいと顔を覗かせてカチヤマ2号に話しかけた。「このイベント、誰が考えついたの?」
「──」カチヤマ2号は約2秒演算しなければならなかった。「今回のウォークラリーは、市民の皆様からのご要望に基づき、市の健康推進委員会で話し合って実行に踏み切りました」
「市長さんは、どう思った?」リイのインタビューは続いた。「延々歩くだけの大会なんて、面白くねえなとかって、思わなかったの? もっとこう、スタイリッシュでお洒落なスポーツイベントだって、ないわけじゃないのに」
「──」カチヤマ2号は、今度は4秒も演算した。リイは彼の"構造"に理解があるので、さっきのりんご飴襲撃おばさんのように質問を雨あられと浴びせかけたりはしなかった。「私は、ただ皆様のご要望に誠心誠意お答えして、ベストの方策を選択するだけですからねえ」殊勝な答えが返ってきた。
「ふうん」リイはひょいと首を引っ込めた。
「どうも、脚をお止めして」ぼくはカチヤマ2号に、もう行っていいよ、と暗に勧めた──正確には彼の脚を「止めた」わけじゃないんだけどね。
「ああ、それじゃあ、ご健闘をお祈りしていますよ。がんばってください」カチヤマ2号は音量をぐいっと上げて最後にそう云い、スピードを上げて去っていった。
「ね」リイが、その後姿を見送りながらぼくに訊ねた。「どう思う?」
「え?」ぼくは左手を見た。「何が?」
「あのカチタカ」リイは目を細めた。「リーダーとして、どう?」
「カチヤマ、だよ」ぼくは苦笑した。「どう、って……」
「みんなさあ」リイはぷいっと海の方へ顔を向けた。太陽の光が水面に踊って、波は穏やか、とても美しい景色だ。「あれでいいと、思ってんのかしらね」
「え?」
「ああいう感じのリーダーで、人間は満足してんのかしら」
「──」ぼくは、リイの真意を測りかねた。「まあとりあえず、賄賂を受け取って不公平な政治を行ったりはしないわけだから、いいんじゃないの? 議会での決議とかも、どんどんスピードアップしていってるしさ」
「──そうね」リイは小さく答えた。
 何か心配なことでも? と訊こうとした時、「あっ、ゴールよ!」とリイが叫んで前方を指差した。
 なので結局その話はそこまでで終わり、ぼくたちは景品──ああ、タオルだった! しかも深緑色で、市の名称とイベントの名称が白い字でくっきりと印刷されている。なんてこった──を貰い、近くのレストランで軽く一杯飲んでから帰った。

 

     ◇◆◇

 

「ショーイ、大変よ!」リイの声で目が醒めた。ぼんやりした視界に、ベッドの上で上半身を硬直させ呆然とパソコンを見ているリイの後姿が映った。右手をぼくの体の上に置き、呆然としたまま揺すっている。
「んー」ぼくは夢に引きずられた声で答えた。「今日は早起きだね、リイ」
「それどころじゃないわ」リイは振り向いた。目を、飛び出しそうなほど見開いている。「王様が、殺されたって!」
「はあ?」ぼくも瞬時に飛び起きていた。

 王様が、殺された──それはつまり、王様ロボットの完全破壊が行われたということだ。

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続きは本編でどうぞ! 他の作品の試し読みもできます。

 

葵 むらさきの著書

 

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どっちが凄い?

  • 2019.06.13 Thursday
  • 00:09

「命知らず」と「恐いもの知らず」とでは、どっちの方が偉いのか。あるいは優れているのか。あるいは、お馬鹿さんなのか。

 ……というようなことを、夜の夜中にふと思いついた。

 米津玄師を聴きながら。へへ毎晩のことですが。

 

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評価:
(2019-05-18)
コメント:ショア惑星王国の王室に、一人の姫が誕生した。その瞬間、王室内に暗雲が立ち込めた。何故なら生まれた赤ん坊の髪が、紫の色をしていたからだ。呪われた遺伝子を持つ者として赤子の父親であるハルに死罪が言い渡される。ハルを運ぶ航宙船の前に、宇宙海賊の船が立ちはだかる。長編スペースオペラ、第一話。

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 24

  • 2019.06.12 Wednesday
  • 09:03

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「じゃあまず、心をとぎすませて、頭の中に魔法陣を思い描いてください」父がつづけてみんなに指示をした。

 みんなは言われたとおりにし始め――私も――、全員目をとじた。

「その魔法陣の中に、今手にしている二つのキャビッチをかざすつもりで、両手を前に差しのべて」父がゆっくりと、静かな声で、次の指示をする。

 みんなは言われたとおりにした。全員目をとじたままだ。

「では、呪文を唱えます」父は静かに言ったあと、声を張って唱えはじめた。「マハドゥーラ、ラファドゥーマ、クァイ、スム、キルドゥ、ヌゥヤ」

 うわ。

 私は目をとじたまま、眉をぎゅっとしかめた。

 たぶん、みんなもそうしたと思う。

 むずかしい呪文だなあ!

 こんなの、いざというときにすらすら出て来るだろうか?

「無理だろ」

 なぜか、ユエホワの声がそう言っているのが空耳できこえた。

「マハドゥーラ」それでも私たちはがんばってそれを唱えはじめた。「ラファ」私についていえば、そこまでがゲンカイだった、ごめんなさい。

「ラファドゥーマ、クァイ」まで言えた子ももちろんいた。「えっと」でもその子もとちゅうでそんなことを言ってしまったため、呪文はかき消された。

「わーわかんないよお」結局、最後まで唱えきれた者はひとりもいなかった。

「ああ、ごめん」父はたいそう申し訳なさそうに片目を強くとじた。「じゃあもういちど、少しずつ、練習していきましょう」

「それよりも、投げた方が早いんじゃない?」母がさえぎって言った。

 私は目をとじたまま、思わず大きくうなずいていた。

「みんな、エアリイは知っているかしら。知ってる人?」母は自分の手を上げてきいたけれど、あまりたくさんの手は上がらなかった。

 私は、これも祖母に教えてもらったことがあるので、手を上げた。

「そうね」母は手をおろした。「姿が見えないくらい小さい妖精が相手だから、このエアリイという、キャビッチを小さな球に変えてたくさんの数に分散させて飛ばす魔法が効くと思うの。マハドゥよりはシンプルな呪文だから、さっそくやってみましょう」母は右手にキャビッチを乗せ、肩の高さに持ち上げた。

「でも」一人の女子生徒があらためて手を上げた。「妖精に、キャビッチをぶつけるんですか?」

「なんだか、かわいそう」別の女子生徒も悲しそうな声で言った。

「うん、ちょっとねー」

「小さい生き物にキャビッチをぶつけたら、どうなるの?」

「ぺっちゃんこになっちゃうんじゃないのかなあ」

「ええーっ」

「むりー」

「かわいそうー」

「あのねえ、みんな」母は腰に手を当てて言った。「そんなこといってたら、誘拐されちゃうわよ、あのキー」

「フリージア」父があわててキャビッチを持ったままの手を母に向けぶんぶんと振った。

「あ」母は口を手で押さえた。「まあでもとにかく、エアリイの呪文を言うから、つづけてね」すぐに手を離して、右手のキャビッチを肩の高さに持ち上げる。

 みんなは、同じように右手または左手を上げた。

「キャビッチ」母は声を張り上げた。「エアリイ、セプト、ザウル」

 すると母の手の上のキャビッチが、たくさんの爪ぐらいの小さな球に一瞬で分かれ、母の手の上に浮かび上がった。

 うわあー、とみんなはキャビッチを構えたまま歓声を上げた。

「おぼえた? エアリイ、セプト、ザウルよ。ではみんなで」母は、手をみんなに差し伸べた。

「エアリイ、セプト、ザウル」みんなは声を揃えていっせいに唱えた。

 私もだ。

 私の手の上でキャビッチが、ぱん、とたくさんの小さな球に分かれ、空中に浮かんだ。

「うわー」

「やった」

「よし」

「あれえ」

「分かれないよ」

「なんでー?」

「うーん」

 みんなはというと、ちゃんと小さな球に分かれた人もいれば、二個か三個ぐらいにしか分かれていない人もいれば、まったく分かれずもとの一個のキャビッチのままの人もいた。

 そう。

 このエアリイという魔法も、じつはけっこう……というかかなり、むずかしい魔法なのだ。

 私も最初は、まったく分かれてくれなかった。

 けれどいつもの祖母の教え方「百回やってできなかったら、何か方法を考えましょう」にしたがってくり返し、たしか、七十八回目にやっと、十個ぐらいに、ぱん、と分かれたのだ。突然。

 今ここで、きちんと分けさせることができた人たちもおそらく、学校以外のところで、先生以外の人にすでにエアリイを教わった経験者なんだろうと思う。

 逆に、今日はじめてエアリイという魔法の存在を知った人たちは、当然ながら、分けさせることなんてできっこないのだ。

「うーん」母はみんなの様子を見回して、「そうね、じゃあ分かれなかった人はもう一回、やってみましょう」と言い、こんどは左手のキャビッチを肩の高さに上げて「エアリイ、セプト、ザウル」と唱えた。

「エアリイ、セプト、ザウル」分かれなかった人たちも再度、さっきよりもさらにシンケンな表情で唱えた。

 けれどそれでも、母以外の誰のキャビッチもスムーズに分かれることはなかった。

「がんばれ」母は励ました。「もう一回。エアリイ、セプト、ザウル」

「エアリイはなあ」父が首をかしげる。「ぼくにさえ、いまだにうまくいかないほどだからなあ」

「ええー」再度挑戦しようとしていた生徒たちは、がっかりしたような声をいっせいにあげてキャビッチをおろしてしまった。「じゃあぼくたちなんて、もっと無理だよ」

「もーう」母は父に文句を言った。「そんなこと言うからー。あなたはもともとキャビッチ投げが得意じゃないんだから、できなくって当たり前なのよ」

「う」父は背中を思い切りどやしつけられたときのような痛そうな顔をして言葉をうしなった。

「あ、あたしも投げるの苦手です」ヨンベが恐る恐る手を上げて告白した。

「私もです」

「おれもー」

 そして次々に手が上がる。

「そうねえ」マーガレット校長先生も頬に手を当ててうなずいた。「フリージア、やはりこの子たちにはまだエアリイは難しいのだと思うわ」

「そうですかねえ」母はまだギモンを持っているように首をかしげる。

「あっでも、そのかわりマハドゥの呪文はきっと、おぼえます」ヨンベはつづけて、シンケンな表情でそう宣言した。「あたしはたぶん、そっちの方が向いてると思うから」

「あ、私も」

「ぼくもです」

「じゃあ、おれもー」

「おお」父が感動して両手のひらの上のキャビッチをこつんとぶつけ合わせた。たぶん、キャビッチが乗っていなかったら両手を胸の前で組み合わせるつもりだったんだろうと思う。

「わかりました」マーガレット校長先生が、右手を大きく頭上に差し上げて声を張り上げた。「では本日、みなさんはマハドゥかエアリイ、どちらかの魔法を必ず習得するようにしてください。本日の授業はそれのみとします。教師の皆さんも確実に、できれば両方とも、使えるようにしておいてください」

 おおー、とか、はーい、とか、やったー、とかいろんな声が全員から上がった。

「ポピーはどうする?」ヨンベがきく。「やっぱり、エアリイの方にする?」

「あー、うん、そうする」私は少し空を見てからうなずいた。「やっぱり投げるほうが、やりやすいかなって思うし」

「うん。じゃあ、がんばろうね」ヨンベはにっこり笑って、父のいる方へ駈けていった。

 私もはりきって、母のいるところへ走り、左手に残っているキャビッチを持ち上げて準備した――のだけれど。

「あらポピー、あなたはもうエアリイ使えるでしょ」

と、母に言われたのだ。

「え」私はキャビッチを持ち上げたままかたまった。

「マハドゥを覚えなさい」母は、父の方を指さして指示した。「がんばってね」

「――うう」私はいやだとも言えず、キャビッチをおろして母に背を向けるしかなかった。

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-05-07)
コメント:ポピーは魔法学校に通う少女。その世界では、キャビッチという野菜を使って魔術を行う。ある日ポピーと親友ヨンベは、ちょっとした悪戯を思いついたが、そのせいでヨンベが恐るべき鬼魔(キーマ)にさらわれてしまった! 悲しんでいる暇はない、自分が助けに行かなくちゃ! かっこいい神様たち、そしてずる賢い鬼魔ユエホワと共に、ポピーの冒険が始まった――

葵マガジン 2019年06月08日号

  • 2019.06.09 Sunday
  • 12:08

JUGEMテーマ:小説/詩

 

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葵マガジン 2019年06月08日号
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◇◆◇◆聡明鬼◆◇◆◇

 

 第51話 揃い踏み(全100話)

 

「降妖師」閻羅王はその鬼魂の生前の生業を読み上げた。「−−」そのまま、しばらく黙って生死簿を見下ろす。
森羅殿の大気は、鬼たちの震える体により微かな風の音を奏でた。
じろり、と閻羅王の紅き眼が持ち上げられ、大気は再び固く凍りついた。
「貴様、鬼退治をしておったのか、陽世で」
鬼退治−−?
鬼どもは驚きの声を、だがやはり風のごとき囁きとして洩らさずにいられなかった。
「いかにも」鬼魂は頷き、一歩森羅殿の中に足を踏み入れた。「儂は降妖師、テンニだ」
「鬼を退治していた者ならば、上天へ行くはずではなかったのか」鬼差たちは今度はそのような疑問を口々に囁いた。「なぜ、陰鎮鷲椶悄」
「珍しいことではなかろう」テンニは臆することもなく顎を上げ胸を張った。「降妖師だろうが陰陽師だろうが、地獄に墜ちる者は墜ちる」
−−また、開き直ったことでやすねえ。
ケイキョは苦笑が洩れぬよう、顎を引き顔と心を引き締めた。
「ふん」閻羅王は面白くなさそうに鼻を鳴らし、再び生死簿を見下ろした。「ムイを、やっておったのか」
「そうだ」テンニはにやりと笑った。「それだけで、ここに来るには十分だろう」
「−−なるほどのう」閻羅王は記された降妖師テンニの来し方に一通り目を通した後、大きく頷いた。「人間の女を殺したか−−聡明鬼の手を使って」
「聡明鬼の?」
「聡明鬼が」
「人間の女を?」
鬼どもは一斉に、驚きの声を挙げた。
「ああ」テンニは髪の下からぎらりと眼を光らせた。「聡明鬼は自らの手で、自分に仕えていた女を殺しやがった」
−−あんたの、術にかかって。
ケイキョは心の中で付け足した。
「その、女の名は」閻羅王が訊く。
「確か、スンキ、とか呼ばれていたな」テンニは眼を上方に向け応える。
「スンキ」閻羅王は生死簿を繰り、ほどなくその名を見つけ出した。「陰鎮鷲椶法⇒茲討るのか」声に少しばかりの驚きがこもる。
「変か」テンニは眼を細める。
「その女は、生前に悪行を重ねておったというのか」閻羅王は訊ねながら首を振る。
スンキ、その名が生死簿に記された時、それは閻羅王の手許にはなく陰陽師の棲家の中にあったのだ。
閻羅王の知らぬところで、陰鎮鷲椶房け入れられるべき鬼魂の名が記された−−それは閻羅王にとって、否地獄の在り方すべてにとって、屈辱であり恥辱であり有り得べからざる誤謬であった。
「いや」閻羅王の心の中まで察することもなくテンニはまた応えた。「模糊鬼の妻になったのさ。その女」
「−−模糊鬼、の」閻羅王はあんぐりと顎を落とした。
しん、と殿内が静まり返る。
そこにいた鬼差たちの大半は、それを知っていた。
模糊鬼が人間の女を妻とし、その女が鬼魂となって陰鎮鷲椶暴擦濟呂瓠△修靴凸聾匍瓦了劼鮨範兇辰討い襪函
だが誰も、閻羅王にそれを告げずにいた。
そうする習慣がなかった。
何故なら閻羅王は常に生死簿から誰よりも早くそういった情報を得ており、鬼差ごときに注進される必要などなかったのだ。
然るに今回だけは、閻羅王が鬼差どもに遥か遅れてその事実を知ることになった。
それは生死簿がなかったため、それは生死簿が盗まれたため−−
ケイキョは、飛び上がって叫び声を挙げずにいるのに必死だった。
すぐに、なんとかして今すぐにここから逃げ出さねば、精霊とはいえ寿命が半分に縮まってしまうに違いない。
その生死簿を盗んだ犯人が今ここにいると、閻羅王に知れたら−−考えただけで気絶しそうだった。

 

「俺はあんたを知っている」

 

 鬼差が声を挙げた。
全員がそちらを向く。
それは閻羅王から少し離れた隣、スルグーンだった。
彼はテンニを指差していた。
テンニは口を引き結び、じろりと鬼差を睨みつけた。「誰だ、貴様は」
「スルグーンだ」鬼差は手を下ろした。「あんたは、俺の夢に出てきた」
「夢?」元降妖師の鬼魂は口元を歪めた。
「そう、あんたは、聡明鬼と闘っていた」 
「−−」テンニはそっぽを向き、スルグーンの話にまったく興味がないとでも言いたそうに気だるげにため息をついた。
「聡明鬼はあんたと間違えて、人間の女の心臓に手刀を突き刺したんだ」
「その話はもういい」テンニは怒鳴った。「さんざん裁きの場で聞かされてもううんざりだわ。その挙句儂はここに来ておるのだ。今更そんな話を蒸し返して貴様に何の得がある。どういうつもりじゃ」
「なるほどのう」閻羅王は繰り返しそう言った。「テンニよ、貴様は聡明鬼に、負けたのじゃな」
「何−−」テンニは閻羅王を睨みつけた。
「それであればさぞかし、聡明鬼に対する恨みはお前を苛んでおることじゃろうな」
「当たり前だ」吐き捨てるように言う。
「聡明鬼に恨みを持つお前と、そして玉帝に恨みを持つスルグーン」閻羅王は腕組みをした。「人間どもが陽世で言いおるところの『役者が揃った』とは、まさにこのことかも知れんの」
「何だと」テンニはスルグーンを見、スルグーンもテンニを見た。

 

◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇

 

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評価:
(2019-05-18)
コメント:ショア惑星王国の王室に、一人の姫が誕生した。その瞬間、王室内に暗雲が立ち込めた。何故なら生まれた赤ん坊の髪が、紫の色をしていたからだ。呪われた遺伝子を持つ者として赤子の父親であるハルに死罪が言い渡される。ハルを運ぶ航宙船の前に、宇宙海賊の船が立ちはだかる。長編スペースオペラ、第一話。

水という字で生きる

  • 2019.06.08 Saturday
  • 07:22

 私は「人」という文字が嫌いだ。

 なんでかというと、下が両方ハライになっているから。トメてないからだ。

 そんな、足元がフラフラで心許ない状態で、何が「お互いに支え合う」だ。

 ちゃんちゃらおかちゃらぱいぽーぱいだ。むう昭和

 

 私は「水」で、生ぎたいッ!!! ←ニコロビン的に読んでね

 

 足元はぐっと踏ん張ってのちしょわッとはねくり返って、そんで前から何が来てもはらい、いなし、流すと。

 にゃ〜かっこエエではないか。

 楽そうだし楽しそうだし。ぷぷぷ。

 

 まあそうカンタンではなかろうけれども。

 

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評価:
(2019-04-10)
コメント:生態観察のため連れ去られた地球人たちに与えられた「食べ物」は、機能性重視の味気ないものだった。彼らは立ち上がった。「まっとうな」食物を求めて――やがてその欲求は、惑星の運命を文字通り、大きく揺さぶった――

チートのメカニズム

  • 2019.06.06 Thursday
  • 22:39

 ほへへ。

 久しぶりのおビールを飲みつつ、書いておりまつるよ。

 現WEB連載『魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女』を。

 や〜この時がやっぱ一番楽しいっすねえ。

 てれてれ〜んと、主人公ポピーやら、ポピー父やら、ポピー母やら、ポピー親友やら、ポピー教師やら、ポピー天敵やらが脳内で好き勝手暴れまくるさまを、つらつらと観察日記ばりにルポルタージュ的に書きつらねる。この作業。

 てか名前はよ! 登場人物らたちの!

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 毎週火曜日に、ま〜あっちこっちの小説投稿サイトに投げさしてもらっているものですが、極秘ウラ話ごにょごにょをさらさしていただきますと、この魔法少女ファンタジーですね、意外に、いっがっいっに、男性からのアクセスそしてブックマーク感謝! が、率高いのでげすよ。

 いやほんと。

 年代はあんまりわからないですがでも葵むらさき作品なんで恐らくは、三十代以降の皆様だろうと思われます。

 あでも、この魔法少女ファンタジーはあれですよ、もうピュアさ加減最高レヴェルで書いておるものでありますから。

 そう、決してけして、エ□要素なんざあかけらもみじんたりともちらつきゃしない。

 あ。

 だからなのか?

 もしかしたら。

 この、葵むらさきのくせに大丈夫なのだろうかコノヒトといわれかねぬ程の純粋ピュアらさ加減のところが、男性に受ける要素となっているのだろうか。

 今後の研究にゆだねるところである。誰が研究すんのか。マウスか。ハツカネヅミか。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 でですね、このシリーズの「1」と「2」をAmazon Kindleにアップした際にも思ったことであるのですが、まあ本作品に限らず、昔とくらべて私葵の小説の進み具合、話展開スピードが、非常にゆっくりになってきているなあ、と最近思うのですね。

『魔法野菜キャビッチ』の「1」と「2」、400字詰原稿用紙に換算すると恐らく100枚いってるか否か、という程度の長さ(短さ?)だと思うのです。

 これは多分、まあ昔は、ひとまずは出版社主催のコンテスト向けとして書いていたからでありますね。文字制限、枚数制限にのっとり、この長さにしていたと。

 あるいは「2」などは携帯小説として書いたものだったので、やはりあまり悠長な話は書けない。展開スピーディにして読みやすく、視神経への負担少なくしようトカ云ふ目論みの元書いたものだったので、読みやすく短く。わかりやすく。てな感じに、仕上がっているのであります。

 

 それに比べ「3」。現連載中のお話は、もう枚数制限もなければ、締め切りもなければ、プロット提出の必要もなければ、アアア自由なこと例えようもなし! といふ環境下において好きなよ〜〜〜に書き殴っておるものですから、そらー枚数は稼ぎますわなあ。

 展開、マイ、ペエエエェェェェス! と。

 もう思いついたことかたっぱしからこじつけるわ入れ込むわ割り込ますわ。

 妖精さんがどうのこうのって話なんだがその妖精って奴ぁいったいいつ出てくるんでい! というね。

 そう、さすがにもうそろそろ妖精出現の巻にもっていきたいなとは思ってるんですが、その前に、またしてもチョト思いついてしもうたファクタがありまして。エエ。

 

 そう、「2」のときも、キャビッチの持つ能力やそのしくみについてあれこれ書いたものでしたが、「3」はそれ以上に、もうガンガン、キャビッチの使い方あれこれ、基本そして応用、その成り立ちとしくみと効能と、さらにその回避方法とさらにさらに回避方法への対策と――てなところをですね!

 もう自由気ままに、思いつく端から、織り交ぜさせていただいております!

 そう、チートのメカニズムってやつをですね!

 

 みゃ〜これが楽しいのだわ!

 

 そんな感じの作品なんで、シリーズ三作目はたぶん、今までの二倍も三倍も、へたしたら十倍ぐらいは長〜くなっちまうかもですにゃ〜。

 そして無論のこと、お読みいただく皆様にも、楽しいと思っていただきたいと、何よりもそのことを心に据え置きつつ、ビール呑みつつ、書きすすめて参ります。

 どうぞご期待くださいませ。

 

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評価:
(2019-05-07)
コメント:ポピーは魔法学校に通う少女。その世界では、キャビッチという野菜を使って魔術を行う。ある日ポピーと親友ヨンベは、ちょっとした悪戯を思いついたが、そのせいでヨンベが恐るべき鬼魔(キーマ)にさらわれてしまった! 悲しんでいる暇はない、自分が助けに行かなくちゃ! かっこいい神様たち、そしてずる賢い鬼魔ユエホワと共に、ポピーの冒険が始まった――

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