魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 16

  • 2019.04.17 Wednesday
  • 22:32

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「ああ、なんてことを」祖母は飛びながら首をふり、ユエホワに近づいた。

 ユエホワは大木の、地面から十メートル以上のぼったところにくくりつけられており、両手は彼の頭上にひろげられて、体とおなじように蔓で巻きつけられていた。

 頭はがっくりとうなだれていて、祖母の呼びかけにもまったく返事をしなかった。

「ユエホワ」祖母は箒で空中に浮かんだままなんども首をふりながらなんども呼び、「ああ、なんてことを」となんども繰り返した。

 私は、ユエホワが死んでいるのかと思ったけれど、それを口に出して言うことは、はばかられた。そんなことをしたら祖母が狂ったように悲鳴をあげるような気がしたからだ。

 それと同時に、キャビッチをぶつけてみたら、ユエホワが生きていれば目をさますのではないかとも思いついたけれど、やっぱりそれも口に出して言うことは、はばかられた。

「この木の蔓をなんとかしてはずさないといけないわ」祖母はユエホワをしばりつけている蔓を見ながら、大木のまわりを箒に乗ったままゆっくりと回った。「どうすればいいかしら」

「うーん」私も考えた。

 祖母も私もキャビッチスロワー、つまりキャビッチを投げて対象物にダメージをあたえるのがセンモンだ。

 だけど、今この蔓にキャビッチをぶつけたとしても、それをゆるめたりはずしたりすることには、たぶんなんの効果もないと思われた。

「やはり、これをした者にほどかせるしかないわね」祖母はやがて、ユエホワの正面に戻ってきてしずかにそう言った。

「え、それって、だれ?」私はたずねた。

「もちろん、ユエホワをこんなひどい目にあわせた極悪人よ」祖母は私にふり向き、きびしい表情で答えた。「さっきのツィックルカードを送ってきた、犯人」

「ああ……」私はうなずきながら、性悪鬼魔が極悪人につかまえられたということを頭でおさらいしていた。

 どっちが正しくてどっちが悪いのか、なんだか頭がこんがらかりそうだった。

「さあ、どこにかくれているの」とつぜん祖母が、森の木々に向かって大声をはりあげた。「私たちがお相手するわ。正々堂々と勝負なさい」

「え、ハンニン、近くにいるの?」私はきょろきょろとあたりを見まわしながら祖母にきいた。

 祖母は答えず、ゆっくりと木々を見上げ様子をうかがった。

 しばらくたったけれど、私たちの前にはだれも現れてこなかった。

「うう、ん……」

 そのかわり、木にしばりつけられていたユエホワが目をさましたようで小さな声をあげた。

「ユエホワ!」祖母は叫んでそのそばに行き、ユエホワの頬に手を当てた。「だいじょうぶ? どこも怪我はしていない?」

「ああ……」ユエホワは小さくうなずいたけれど、いつものずるそうな顔ではなく病気の人みたいにあおざめてうなだれていた。

「いったい、だれがこんなひどいことを」祖母はやはり首をふりながらそう言った。

 ユエホワも小さく首をふる。

「とにかくこの蔓をはずす方法をみつけるわ」祖母はあたりを見回して、それから私を見た。「ポピー」

「え」私は箒に乗ったまま目をまるくした。

「あなたなにか思いつかない? この蔓をはずすいい方法を」

「火で燃やしたらいいんじゃない?」私はさいしょに思いついたことをそのまま口にした。

「まあ、なんておそろしい」祖母は箒に乗ったまま両手で頬をおさえた。「そんなことしたら、ユエホワまでいっしょに燃えちゃうでしょう」

「あ、そうか」私は頭に手を当てて肩をすくめた。

「ぷっ」ユエホワが、小さくふき出す。

「え」

「あら」

 私と祖母がおどろいて彼を見ると、緑髪鬼魔はあいかわらず木にしばりつけられてうなだれていたけれど、小さく肩をふるわせていた。

「ばーか」小さく私をののしる。

「はあ?」私は眉をひそめた。「なによ、人がせっかく助けにきてやったのにばかって」

「これ、ポピー」祖母が私をたしなめる。

「でもおばあちゃん、こいつ」私は反論する。

「箒にさ」ユエホワがほんのすこしだけ顔を上げ、小さな声で言った。「この蔓くくりつけて……そのまま飛んではずしてくれたらいい」

「あ」私と祖母は目を見合わせ、

「まあ、すばらしいわ! 本当に賢いのね、あなたって子は」祖母は両手を打ち鳴らして感動し、

「えー、めんどくさい」私はいやそうに言った。

「ポピー」祖母は私の不平を聞くことなく、ユエホワをくくりつけている蔓を指さした。「あなたはユエホワの腕にまかれている蔓をはずしておあげなさい。私は体のほうをはずすわ」

 私は口をとがらせながら、ユエホワの腕のまわりをゆっくり飛んで、蔓のはしっこをさがした。

 やがて、やっとそれはそれは見つかったけれど、そのはしっこは巻きついている蔓のなかにぎゅうっと押しこまれていて、私の力でそこから引っぱり出すのはトウテイフカノウに思われた。

「あー、おばあちゃん、この蔓のはしっこ引っぱり出せないよ。どうする?」私は祖母にうったえた。

「こうするのよ」祖母は私に向かってうなずきかけ、それから「ツィックル」と箒を呼び、右手の指をパチンと弾き鳴らした。

 すると祖母の乗っている箒がすうっと蔓に近づき、こつん、と柄の先を蔓にくっつけた。

 

 きゅるきゅるきゅる

 きしきしきし

 

 そのとたん、蔓が音をたてはじめたのだ。

 私はびっくりして祖母のとなりに移動した。

 木の蔓はしばらくきゅるきゅるいっていたが、その後ゆっくりと、ぶるぶるふるえながらそのはしっこが、まるで見えないなにかに引きずり出されるように、巻きついたところから持ちあげられ姿をみせた。

「うわ」私は目を丸くしてさけんだ。

「ふう」祖母は大きく息をついた。「使いなれないからけっこう疲れるわ。やっぱり後は、こうね」その言葉が終るか終わらない内に、祖母のツィックル箒は姿をあらわした蔓のはしっこに柄の先をこつんと当てた。

「ポピー、下がっていて」祖母は言った。「危ないから」

「えっ、はい」私はあわてて箒で飛び下がった。

 すると祖母は、ものすごいスピードで大木のまわりをぐるぐると飛びはじめた――箒の先に蔓をくっつけたままで。

 みるみる蔓は巻きとられてゆき、ユエホワの体が少しずつ下にさがってきはじめた。

「ポピー」祖母が飛ぶのをいったん止めてまた言った。「ユエホワを、箒に乗せてあげて」

「え、私の箒に?」私はびっくりした。

 それはそうだ。

 そもそもユエホワは自分で空を飛べるから、もちろん私の箒に乗せてやることなんてこれまでいちどもなかったのだ。

 なので、祖母にそう言われたことは私にとって、すごく妙なことに思えた。

「そうよ。腕のほうの蔓をはずすあいだ、宙ぶらりんにならないようユエホワの体をささえていてあげて」

「――はい」私は警戒しながらムートゥー類鬼魔に近づいた。

 まあ、性悪鬼魔といえども今の姿では悪さをすることもできないだろうし。

 いざとなったら祖母もいるわけだし。

 私は自分にそう言いきかせて、ユエホワのひざの裏へ箒をさしこむようにもってきて、しばりつけられた形のまま箒にすわらせてやった。

「――がと」ユエホワが、ものすごく小さくそう言った。

「え?」よく聞こえなかったので私はきき返したが、もうそれきりユエホワはだまったままでいた。

 祖母はというと、ふたたびぐるぐるとすごいスピードで木のまわり――つまり箒に乗っている私たちのまわりを飛びはじめ、ユエホワの体の蔓の本数はみるみるへってゆき、ついにすべての蔓がとりのぞかれた。

 

 

評価:
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(2019-04-02)
コメント:幼稚園ママは忙しい。家事に用事、子供の世話、PTAの役員会議、そして鳴りやむことを知らない電話……表題作ほか「吸血鬼・明」「地階の異界でオフ会を」収録

無料キャンペーン実施中!

  • 2019.04.16 Tuesday
  • 21:08
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(2019-04-02)
コメント:幼稚園ママは忙しい。家事に用事、子供の世話、PTAの役員会議、そして鳴りやむことを知らない電話……表題作ほか「吸血鬼・明」「地階の異界でオフ会を」同時収録。

  短編3作品収録しました『でんわ Amazon Kindle版』、4月18日〜4月23日まで無料キャンペーンを実施致します。

 是非是非お楽しみ下さい!

Amazon Kidle版『喰らえ、取り敢えず』発売

  • 2019.04.11 Thursday
  • 22:25
評価:
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(2019-04-10)
コメント:生態観察のため連れ去られた地球人たちに与えられた「食べ物」は、機能性重視の味気ないものだった。彼らは立ち上がった。「まっとうな」食物を求めて――やがてその欲求は、惑星の運命を文字通り、大きく揺さぶった――

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 

 はい。へへへ。

 パブーからの移行第三弾がこれです。『喰らえ、取り敢えず』。

 まあこれも、何年前っすかね。何十年前っすかね。あの頃は平成ヒトケタ時代だったかな。

 まだSNSとかブログとかあんまり浸透していなかった頃で、ネットで各自HTML記述したりコピペしたりして一頁ずつ丹念にサイト構築してたのよね。嗚呼私にゃもうそんな根性ねえな。うん。自信を持っていえる。

 

 で。

 

 その、ご自作HPにて「今日一番爆笑した小説」として本作を紹介して下さった方が当時いて、ものすごく嬉しかったのだった。

 え、お礼すか。

 もちろん言いました。

 心の中で。

 

 

 ばか。

 

 

 だってコミュニケーション恐いんだもううううん! あううううん!! SNS浸透する前の時点から。

 いや、でもホント、ありがとうございました。

 お楽しみ戴けて大変嬉しいです。

 狩猟民族ヤギが一番かっこよかったと言って下さった事もおぼえています。

 彼のモデルはブッシュマンさんでした。昔映画になってた。

 

 まあそんなわけで、いつもながらの、葵むらさき式ブラックドタバタSFです。アンハッピーエンド。

 

 

 

 

銀河の名前が「惜しい!」と思った人

  • 2019.04.11 Thursday
  • 08:18

ブラックホールついに捉えた 100年越しの「発見」

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO43591530Q9A410C1EA1000/

 

「M87」ですよ。

 おとめ座の。

 惜しい! ですよね。

「あ〜『78』だったらなあ! M78星雲!」

ってついぞ思った人は少なくないのではこのNipponに於いて! と私は思った次第です。私を含めて。

 

 まあでもそうだったとしたら“彼”、地球に怪獣が現れるたんびに「ぬ゛ぐぉおおおおおーーーーうぅぅ!!」と、あの想像を絶する重力に逆らってそこから飛び出てこないといけなくなるのか……あ、別に彼の住んでる星自体がブラックホールなわけじゃあ、ないのか。おんなじ銀河だっつーだけで。ご近所だっつーだけで。挨拶程度の。

 

 と、今日も朝からどうでもいい方向の妄想夢想ばかり先走る次第でおざります。

 あ、ゴミ出ししてこよーと。

 

 

 

ストレイテナー - スパイラル

  • 2019.04.09 Tuesday
  • 22:37

 

 

 今日はストレイテナーを聴く。

 TVではガイアの夜明けでユニクロやってる。ユニクロってる。

 ユニクロつったら私ら世代はどしてもどーしても「500円(下手したら300円)の服」たる印象ばかりが幻想のごとくつきまとい続けるのでありますよ。

 私なんぞは「昔隣町にあった洋服屋」という……あれは昭和の時代でしたなフフ……

 

 今となっては。令和。嗚呼一発変換不可。

 

 

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 15

  • 2019.04.09 Tuesday
  • 21:14

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「なんにしても、ユエホワが誘拐されてしまったってことか」父は手に持つツィックルカードをもういちど見下ろして、テーブルの上に置かれていた料理用のキャビッチを持ち上げながら、うなるようにつぶやいた。「どうにかしないと」

「へえ」私は少し目を丸く見開いたが、それしか言わなかった。

 ユエホワが誘拐されるって……誰に? 何のために? とは思うけど、どうせ大したことにはならないと思う。

 ユエホワも一応、鬼魔だし。

 なんか邪悪な力を使って、立ち向かえるだろうし。

 自分で何とかすればいいじゃん。

「何もする必要なんてないわ」母は腕組みをしてぷいっと横を向いたが、それ以上、ツィックルカードを取り上げようとはしないでいた。

 私もそうだけどたぶん母も、何をいっても父はけっきょくユエホワを助けに行くかなにかするんだろうと予想していたのだと思う。

 けれど父は、そういうことはしなかった。

 私を見て「ポピー」と呼んだのだ。

「え」私も父を見た。

「今、ちょっと雨が小止みになっている」父はそう続けた。

「ほんと?」私は窓の方へ首を向け「ほんとだ」と答えた。

「今のうちに、おばあちゃんの所へ行こう」父はまた続けた。

「え」私はもういちど父を見た。

「おばあちゃんに知らせないと」父は、ものすごくまじめな顔で、そう言った。

「なんで?」私と母の二人が同時に訊き返した。

「おばあちゃんはユエホワをたいそう気に入っていたからね」父は私に、ツィックルカードを手渡しながら深く何度もうなずいた。「きっと、ありったけの智恵を使って彼を助ける方法を考え出してくれるに違いない」

「母さんが?」母は思いっきり眉をしかめた。「あの性悪鬼魔を気に入ってるですって? 嘘よ」

「――それは本当」私は、母と違うことをいわなければならなかった。

「そう、だから今すぐ、おばあちゃんのところへ行って、事情を説明するんだ」父は真剣なまなざしでもういちど私にそう言った。

「――」私は、母を見た。

「行ってはいけません」と、母が言うはずだと思っていたからだ。

 けれど母は、両手で頬をおさえて、なんだかぼう然としていた。「嘘よ……母さんが? どうして……あんなに、あいつのしたことを話したのに」ぶつぶつとつぶやいている。

「ポピー」もういちど、父が私を呼んだ。「おばあちゃんのところへ、行こう」

「えー、と」私は母を見て、父を見て、天井を見た。

 なんというか、とりあえずここから立ち去ったほうがいいかな、とそのときは思ったのだ。

 それと、当然父もいっしょに、祖母の家に行ってくれるものだと思っていたからだ。

 けれど父はそうしなかった。

 私が箒を呼んで、くもり空の上に飛び上がって、森へ向かって飛んで、祖母の家に着くまで、父はまったく、ついてきてくれなかった。

「なんで?」私はひとりつぶやきながら、箒から地面へ降り立った。

 箒を、テラスの上がり口の横に立てかける。

「あらポピー」祖母は家の中からすぐに気づいてくれた。「いらっしゃい」

「おばあちゃん」私はとりあえず、父に言われた通り祖母に伝えることにした。「あのね、ユエホワが誘拐されたの」

「なんですって」祖母は、私がびっくりするぐらい大声で訊き返した。「ユエホワが?」

「うん、あの」私は父から手渡されたツィックルカードを祖母に手渡した。「さっき、これが来て」

 祖母はひったくるように私からそれを奪い取り、それを読んで「ああ、なんてこと」と、おでこを手で押さえて声を震わせた。「ユエホワが」

「ママは、何もしなくてもいいっていってたんだけどね」私は肩をすくめた。「パパが」

「助けに行きますよ、ポピー」祖母は私の言葉をさえぎり、大真面目な顔で言った。

「え?」私は目を丸く見開いて祖母を見上げた。「なんで?」

「なんでって、もうとにかく、今すぐ行きますよ。ツィックル!」祖母はぴしっとした声で箒を呼んだ。

 その声でやって来たのは祖母の箒だけでなく、私の箒も一緒に、テラスの上がり口の横から飛び上がり、やって来た――えっ、なんで私の箒が、私命令もしてないのに飛んで来るの?

 一瞬不審に思ったけど――まあ祖母の魔法の力をもってすれば、そういうこともカノウなんだろうな……と、あまり深く追求しないでおいた。

「さ、早く乗って」祖母も私にあまり深く考えさせる暇を与えなかった。「行くわよ! ユエホワ、今すぐに助けますからね!」

 祖母と、祖母の後に続いて私とは、ぎゅんっと急上昇し、大空を箒で駆け抜けはじめた。

 でも、どこに行くんだろう?

 ていうか、なんで行くんだろう?

「おばあちゃん」私は祖母の後ろから飛びながらきいた。「行き先、わかるの?」

「ポピー」祖母は飛びながら振り向いた。「あなたのパパは、優秀なキャビッチ使いだわ」

「え?」私は飛びながらきょとんとした。「なんで?」

「これよ」祖母は言って、飛びながら手を前にさし出し、何かをつまんで私に見せた。

 それは、私が手渡したツィックルカードだった。

「あなたのパパはこのカードに、マハドゥをかけてくれたわ」

「えっ」私は飛びながら、目を大きく見開いた。「カードに?」

「そう」祖母はまた手を前にさし出して、指をひらいた。

 ツィックルカードはそこからするりと飛び出し、祖母の箒のさらに前を、まるで私たちを案内するように先頭に立って、飛び始めた。

「え、カードが連れて行ってくれるの? マハドゥで?」私は飛びながら訊いた。

「そうよ。マーシュはこのカードに、送り主のもとへ帰るように命令をしたのよ」

「すっごい!」私は叫んだ。「パパ、そんなことができるんだ!」

「まあ、彼の魔力では弱すぎて目的地まで飛ばすことができないので私のところへ持って来させたのでしょうけれどね」祖母は前を向いたまま、ジャッカン小さな声でつけ足した。

「――ああ」私も小さな声で、返事した。

「ともかく、もう少しスピードを上げさせるわ。ついて来てね」祖母はもういちどうしろを振り向いてそう言ったかと思うと、ぎゅんっ、とかなり前へいっきに進んでいった。

「うわっ」私もあわてて、箒に「急げ!」と命じ、ついて行った。

 

 そして私たちは、ツィックルカードに導かれ、そのカードが元来た場所、カードの送り主のすみかに、たどり着いた。

 それは、私がまだいちども来たことのない、大きな森だった。

 たくさんの背の高い樹木が、空の上から見るとちょっと近づくのがためらわれるぐらい、しずかにどこまでもどこまでも立ち並んでいる、永遠につづくかと思わせるような森だ。

 ツィックルカードは立ち止まりもせず、まっすぐにその森の木々の中へ飛び込んでいった。

 祖母も、そして私も、遅れずにつづいて飛び込んだ。

 森の中は、暗くて風も音もなく、まるで巨大な生き物が私たちを、ごっくんと飲みこんでしまった感じだった。

 私たちはその生き物の体のなかを、そそり立つ木々にぶつからないよう右によけ左によけしながら、さらに飛びつづけた。

「ユエホワ!」とつぜん、祖母が飛びながら叫んだ。

「えっ」私は飛びながら首をかしげ、祖母の前の方をのぞきこんだ。

 そのときにはもう、目が森の暗さになれてきていたので、前方になにがあるかはよくわかった。

 

 ユエホワが、大きな木の幹に、細い木の蔓でぐるぐる巻きにされていた。

 

 

 

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ヒトリエ 『ポラリス』 / HITORIE – Polaris

  • 2019.04.08 Monday
  • 15:53

 

 

 今日は一日、ヒトリエ聴きます。

 メンバーの方たちの、リーダーに送る言葉が、胸にぐっと来る。

 

https://www.sonymusic.co.jp/artist/hitorie/info/505751 …

でんわ Amazon Kindle版

  • 2019.04.04 Thursday
  • 18:56
評価:
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(2019-04-02)
コメント:幼稚園ママは忙しい。家事に用事、子供の世話、PTAの役員会議、そして鳴りやむことを知らない電話……1998年作品。

 パブー閉店に伴いまして、葵むらさき過去作品をAmazon Kindleに随時移行して参ります。

 第一弾はやはり私葵むらさきのネットデビュー作『でんわ』。

 これ、作品ジャンルとかカテゴリとかタブとかの選択に、ちょーーーとばかし、苦労致しました。

 SFでもなしファンタジーでもなし、純文学でもなしミステリーでもなし、敢えてこじつけりゃーサイコホラーかなあ、でも恐い話でもないしなあ……と。

 で、規定タブの中にあった『ブラックユーモア』というのを若干くっつけてみたり、致しました。つけ逃げ。あいや。

 ともあれ、今後ともどうぞよろしく、オン願い奉りさうらふ限りでおざります!

 さくっと短編、是非々々酒のお供にどうぞ!

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 14

  • 2019.04.03 Wednesday
  • 11:19

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 その後父とユエホワとは別れ、私は一人森の中を町のほうへ戻った。

 まだ森をぬけきらないところでふいに、小さなカードがくるくると回りながら私の頭のななめ上から降りてきた。

 ツィックル便だ。

 手にとってみると、ヨンベからのものだった。

『ポピー、今日時間ある?』

と書かれてある。

「うん、あるよ」私はカードに向かってそう言いふくめ、上に向かって投げ上げた。

 ツィックル便はたちまち姿を消す。

 ふたたび町へむけて歩いていると、やがてまたヨンベからのツィックル便が届いた。

『うちに来ない? 見せたいものがあるの』

「うん、行く! いまキューナン通りの近くにいるから十分ぐらいで行くね」私は返事を送ってからうきうきと走り出した。

 あと五十メートルぐらいで森から町へぬける地点で、私は手に持つ箒を前方へ差し出した。

「ツィックル」

 箒が一瞬にして、目覚める。

 ――としか言いようがないんだけど、箒が、ぴしっ、とする。

「フィックル、ウィッウィグ、ピクィー」

 言い終わるか終らないかぐらいに箒はものすごい速さで私の手から飛び出し、何メートルか先に飛んでいった。

 私は地面を蹴って、空中にジャンプしながら森を脱出し、そのまま箒に飛び乗った。

 たちまち箒はぎゅんっと上昇する。

「ヨンベ」私は命じた。

 箒は『かしこまりました』というように、きゅっと向きをさだめ、まっすぐに飛びはじめた。

 ――ああ、パパに、キャビッチ育成、技術、史……? の本も、選んでもらっとけばよかったな。

 飛びながら、そんなことを思った。

 まあ、押し付けがましくなるのもいけないし、ヨンベが読んでみたいっていえば、聞くことにしよう。

 

「ポピ――」

 ヨンベは家の庭、ヨンベ用のキャビッチスペースのそばに立って、私に向かい両手を高く伸ばして振ってくれた。

「やっほ――う」

 私も大きく返事をしながら、彼女のそばに降り立つ。

「ごめんね、急に呼び出して」ヨンベは目をぎゅっと閉じて謝る。

「ううん、ぜんぜん」私は笑う。

「あのね、出はじめたの」ヨンベは今度は目を大きく見開いて教えてくれた。

「キャビッチ!」

「ほんと?」私も目を大きく見開いた。

「うん! ほら」大きくうなずいたあとヨンベはしゃがみ、キャビッチ畑の土の中からちいさくのぞいている、淡い黄緑色の小さな芽を指差した。「よく見ないとわかんないんだけど、今朝はじめて見つけたの」

「うわあ」私もしゃがみこんで、そのちいさな芽をながめた。「すごい! かわいいー」

「うふふ」

「でもヨンベのおじさん前に、早くても来年だろうって、言ってたよね。すごい早いじゃん」私は驚きの声で言った。

「うん。あたしもびっくりした」ヨンベも驚きの顔で答える。「もしかして、こないだ使ったパパの肥料が効いたのかなあ」

「あの、ティンクミントみたいな香りがするっていってたやつ?」

「うん」

「すごーい」私は何度も「すごい」ばっかりくり返していた。

「ね、ポピー」ヨンベは真剣な顔になって言った。「お願いがあるの」

「えっ、なに?」私はどきっとした。やっぱり何か、参考になるような本をうちのパパに頼むことになるのかな、と一瞬思った。

 けど、それはちがった。

「このキャビッチがもっと大きくなって、魔法行使に使えるようになったら、最初にポピーに投げて欲しいの」ヨンベは胸の前に両手を握りこんで、ますます真剣に言った。「投げて、くれるかな?」

「うん」私は迷うことなく、大きくうなずいた。「もちろん! あたしに投げさせて」

「うん」ヨンベは顔中で笑った。「ありがとう」

「あたしこそ」私たちは約束のしるしに両手を握り合った。「ありがとう」

 それまでに、もっといっぱい練習しなきゃ。

 私はそう思った。

 

          ◇◆◇

 

 それから何日経っただろう。

 特に大きなトラブルも事件もなく、平和に、平凡に普通の日々が続いていた。

 鬼魔もとくに出て来たりせず、大人たちがざわざわうわさ話とかするようなこともなく、私たち子どもは魔法学校でまじめに勉強をしていた。

 ただ一人、私の父だけはなんだかそわそわと落ち着きがなかった。

「何か、起こらないかなあ」

 ときどき父が、小声でそう言っているのを私だけが知っていた。

 確かに鬼魔の研究者としては、鬼魔が出て来て何か悪さをしてくれた方が、研究のしがいがあっていいんだろう。もしかしたら、その方が楽しい、と思っているのかも知れない。

 もし身近なところに悪い鬼魔が出て来ても、最後にはきっと母がキャビッチスローで退治するのだから、大して危険とは思っていないんだろう。

 そういえばユエホワも、どこかで大人しく本を読んでいるのか、もう何日も姿を見せることがなかった。

 そのため私は、主に森の樹木たちを使ってシルキワスの練習を重ねていた。

 

「あら、ツィックル便だわ」

 その日は休みだった。

 でもあいにくの雨で、私は家で母といっしょにプィプリプクッキーを作っていたところだった。

 その時キッチンの天井近く、私と母の頭上から、ひらひらとそのカードは回りながら落ちてきたのだ。

 母が手をのばしてつまみ取り、目の前に持ってきて読む。

「ユエホワはつれていきます」

 私はクッキー生地を少しずつちぎりとってはうすくたいらな円形にかたちづくっていってたんだけれど、母が言ったその声を聞いた瞬間、手が止まった。

 ユエホワ?

 母がその名を口にするのを聞いたのは、それがはじめてだった。

「はあ? なによこれ!」

……と思う間もなく、母はリューダダ類鬼魔のように唸って、手に持っていたツィックルカードをべしっとテーブルの上にたたきつけた。

「なんでうちにこんなのが届くの? あんなやつ、勝手にどこにでも連れていけばいいでしょうよ!」母は、思わずその名を口にしてしまったことがくやしいのか、ぷりぷり怒りまくった。

「どうしたんだい、フリージア?」

 父が驚いた顔をして、二階から下りてきた。

 その時には私もツィックルカードを手に取って見てみていた。

 確かに、そこにはその名が書かれてあった。

『ユエホワはつれていきます。 とってもすてきな、ながい』

 そこまでで、切れていた。

「とってもすてきな、ながい?」そのまま読む。

「もう捨てちゃいなさい、そんなもの!」母は私からカードを取り上げようとしたけれど、それよりも父が取り上げるほうが一瞬はやかった。

「どらどら、何が……えっ、ユエホワが?」父は目を丸くして叫んだ。「大変だ!」

「どこがよ」母は首を振った。「これで町が平和になるわ。はい、これでもうこの件はおしまい」

「フリージア」父は首を振った。「確かに彼のしたことは許しがたいことだった、だけど今の彼がまたそんな過ちをくり返すとは、ぼくには思えないんだ。彼のあの眼を、君もいちどよく見てみた方がいい」

「いいえ、見たくもないわ」母は両手を上から下へぶん、と振り下ろした。「あなたは鬼魔というものの存在そのものが好きだからそんなことが言えるんだわ。あたしは金輪際、あんなやつの姿を見たくもないし声を聞きたくもないし、気配を感じたくもないのよ」

「フリージア」父は哀しそうにまた首を振った。「今の彼はね、ポピーを苦しめるどころか、彼女のことをさりげなく見守って、あまつさえ守ろうとまでしてくれているんだよ」

「嘘だわ」母が否定し、

「嘘だよ」私も否定した。

「いや、嘘じゃあない」父も意地になっているようだった。「ぼくにはわかる。なにか伝わってくるものがあるんだ」

 

 

1から読むには↓こちら

UVERworld 『一滴の影響 -ダブル・ライフ-』

  • 2019.04.03 Wednesday
  • 10:52

 これ何回聴いても泣けちゃうなあ……

 

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