魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 84

  • 2020.08.04 Tuesday
  • 20:40

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 私はいっきに全身に汗をかいた。
 たぶんユエホワもそうだ。
 どうする!?
 ツィックル箒はかならずすばやくよけてくれるだろうけれど、でも万一、よけきれなかったら?
 なにしろ、まわり中アポピス類だらけだ。
 同時にあっちこっちから投げられたら――
 あれ?
 人間に化けたアポピス類の元子どもたちは、投げてこようとしなかった。
 全員、手に持つキャビッチをじっと見ている。
 左右の手を、かわりばんこに。
 なにをしているんだろう?
「なにをしている」私が思うのとおなじことを、マントのアポピス類がどなった。
「なげるって、なに?」元子どもの一人が言った。
「どうやればいいの」
「うーん」みんなで首をかしげる。
「ぜったい教えるなよ」ユエホワが低い声で私にいう。
「うん」もちろんそんなことするわけがない。
「おれたち、くちからぽーんってだしてたからさー」元子どもの一人が言う。「くちにいれたらいいんじゃないのー」
「おー」
「さすがー」
「あたまいいー」
 そして元子どもたち全員が、キャビッチを口に運びはじめた。
 けれど成長したキャビッチは、人間化した元子どもたちの口には大きすぎてはいらず、みんなかりかり、しゃくしゃく、と、キャビッチをかじりはじめるしかなかった。
「あれー」
「くちにはいらなーい」
「でもおいしいねー」
「うーん」
「おいしー」
 そして全員、へへへー、とうれしそうに笑った。
「よし、お前らそれ食ってろ」ユエホワがひょいっとアポピス類たちの頭上を飛び越していったので、私も箒でついていった。
「この、役立たずどもが」マントのアポピス類はかんかんに怒っている。
「だからー」ユエホワは言いながら、まだ空中にただよったまま残っている二メートルの巨大化キャビッチを両手で押し投げた。「鬼魔に頭使えってのが無理だっての」
 自分も鬼魔のくせに、と思ったけど今は言わずにおいて、私も箒の柄の先でキャビッチにツィッカマハドゥル(たぶん)をかけ投げた。
 けれどどちらも、ぎりぎりのところでよけられてしまったのだ。
 やっぱり、大きすぎるのはあまりよくないのかも知れない。
 使い勝手が悪いもんね。
 それよりは、手ごろな大きさで数多く分散させたほうがいいのかも。
 エアリイで、あまり小さくならないよう、できるだけ元の大きさのままキャビッチを分散させられれば。
 そう心の中で考えながら、私は「エアリイ、セプト、ザウル」とていねいに唱えた。
 ぼん、と音がして、こんどは元の大きさの三分の二ぐらいの大きさのものが十なん個かに分散した。
「うーん」私は思わず首をひねった。「やっぱり小さくなるなあ」
「じゅうぶんだろ」ユエホワがうなずきながら、私の心の中を読んだかのようなことを言う。「シルキワス行け」
 私はいちばん近くに浮かんでいる分散キャビッチをつかみ「シルキワス」と唱え投げた。
 キャビッチは、ふっと消えた。
 けれどその瞬間、私はなにか違和感をおぼえた。
 なんというのだろう――そう、自分が予測したのより、キャビッチの消えるタイミングが早かったような、気がした。
 その次の瞬間、私は背中のどまんなかに、ものすごい衝撃を感じた。
「うわあっ」思わず悲鳴をあげた。
 それは、私が投げたキャビッチだった。
「光使いか」ユエホワがさけぶ。
 シルキワスがなにか操作されて、相手のではなく私の背後から出現し、私を直撃したのだ。
 それにしても、痛い!
 息がすいこめない。
 私は顔中をぎゅうっとしかめて前かがみになった。
「ううう」のどの奥から、うめき声が勝手に出る。
 苦しい!
「だいじょうぶか」すぐ近くでユエホワの声がした。
 顔をしかめたまま見上げると、ムートゥー類は大きな金色の翼を広げて、私を囲んでいた。
 私は声も出せず、首をふるのが精いっぱいだった。
「キャビッチ食え」ユエホワは敵の方を振り向きながら言った。「しばらくこうしててやるから」
「うう」私は言われるままキャビッチをとりだし、葉っぱをちぎって大急ぎで口に運んだ。
 たちまち息が楽になり、私は大きく深呼吸した。
「俺らの気持ちが少しはわかっただろ」ユエホワは半べその私をちらりと見下ろして言った。「いっつもそれ、喰らってんだ」
「……」私は何も答えられず、もそもそとキャビッチの葉を食べつづけた。
 ユエホワの翼の中はあたたかく、キャビッチは甘い味で、なんだか今敵とたたかっている最中なのだというのがうそのようだった。
 私はふんわりと、ここちよい空間の中にいた。
「光使い……じゃないみたいだな」ユエホワがぶつぶつと言う。「盾か……あいつらの盾からなんか光が出てくるようだった……あれでシルキワスを阻害したのか」
「ユエホワ、きさまなぜ人間を守る?」アポピス類が叫ぶ。「人間の仲間になったのか」
「鬼魔を裏切るつもりか」別のアポピス類も叫ぶ。
「はあ?」ユエホワは私を囲んだまま振り向き、あきれたような声で答えた。「裏切る? 鬼魔を? お前ら、どのつら下げてそんなこと言ってんの?」
 そのとき、どん、とにぶい音がして、ユエホワの体が強く揺れた。
「あつうっ……くっ……」
 見上げると、かなり痛そうに歯をくいしばり顔をしかめている。
「だいじょうぶ?」私はキャビッチを食べながらきいた。
「いや死にそう」ユエホワはしぼりだすような声で即答した。
「キャビッチ食べる?」私はポケットの中からキャビッチを取り出しながらきいた。
「うん」ユエホワはうなずいてから「あーん」と口をあけた。
「は?」私は眉をひそめた。「自分で食べなよ」
「いや、あのね」ユエホワは目をほそめて言い返してきた。「今俺は、両手をつかってあなたを守ってるからね。なに、食べさせてもらうこともできないの」
「えー」私は眉をひそめたまま、取り出したキャビッチを持ち上げた。
「そんなでかいの口に入るかよ。そっちでいい」ユエホワは、それまで私がちぎっては食べていた方のキャビッチをあごで示した。
「えーっ、これあたしの食べかけじゃん」私はケンオカンをこめて拒否した。
「じかにかじってたわけじゃないから大丈夫だよ。ほら早く」緑髪は催促してもういちど口をあけた。
 私が眉をしかめたまま、残りのキャビッチをその口もとにもっていったとき、ユエホワは「リューイとかかけんなよ」と口早に注意した。
 私はだまってユエホワにキャビッチを食べさせ、そのあと「リューイ」わざと誦呪してやった。
「やめろよ」ユエホワは横を向いてもごもごと食べながら文句をたれた。
私は新しく出した方のキャビッチの葉をちぎりかけたが、手を止めた。それは、ヨンベが渡してくれたキャビッチだったのだ。
「うーっ、やっぱすげえなキャビッチ!」ユエホワは目をぎゅっとつむって感動の声をあげた。「すーっと痛みが消えた」
「うん」私はうなずいた。「あたしももう大丈夫」
「よし」ユエホワは翼をおさめて、すばやく私の持つヨンベのキャビッチに薬をかけ、くるりと敵たちの方に振り向いた。「これでもう一回やってみろ」
「わかった」うなずきながら、私はなんだかわくわくしていた。
 ヨンベのキャビッチに、ヨンベのおじさんの薬をかけて投げる。
 どんなふうになるんだろう?
 ただひとつ惜しいのは、これを二人の目の前で投げてあげられないということだ。
 こんなに離れた場所――なにしろ鬼魔界だ――で、二人のまったく知らないところでこれを投げるのは、すこしだけ申しわけない気がする。
 でも。
 ヨンベから渡されたキャビッチを、てのひらのまんなかに乗せる。
「シルキワス」私は呪文を唱えた――心を込めて、キャビッチに呼びかけた。「トールディク、ヒューラゥ、ヴェルモス」キャビッチが、それを持つ手が、そして体がどんどんあつくなる。
 キャビッチからの答えを受けた私の体が、聖なる光を放ちはじめているのがわかる。そしてキャビッチも、朝一番に輝くお日様のように、黄金色に輝きだした。
「ヴィツ、クァンデロムス」叫ぶ。

 

 私の手の上のキャビッチがその瞬間、音もなく消えた。

 

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葵マガジン 2020年08月01日号

  • 2020.08.01 Saturday
  • 16:07

JUGEMテーマ:小説/詩

 

◇◆◇◆多重人格の急須2 〜肉じゃがは時空を越えて〜◆◇◆◇
 

第11話 舞子、忍び込む 後編(全40話)

 

「病気?」舞子は驚いた。「何の?」
「わかんないんだけど」少年は肩をすくめた。「そのせいで外へは行けないって、おじいさんが云ってた」
「そうなんだ……」舞子は胸にちくりと痛みを覚えた。どうしたらいいんだろう。とっさにそんな想いが湧き起こった。
不思議だ。
 初めて会ったばかりのこの少年に、どうして自分が『どうにかする』必要がある──?
 というよりも、自分に一体『どうする』ことができる──?
「なるほど」背後の声に、舞子ははっとして振り向いた。大石だった。「しかし、これはまたどういうことだろう──」彼は珍しく不思議そうに首を傾げ、陽を見つめた。
「大石くんでもわかんないことがあるのね」舞子はにやりと笑った。
「わかんないのではなく、現在解析している最中なのです」大石はきっと舞子を睨んだ。「わかんないことなんて、ないです」
「あそ」舞子はぷいっと陽の方へ向き直った。
「そっちの人はだれ?」陽は大石を見て云った。
「大石といいます」魔法使いは名乗った。
「大石さん?」陽はにっこりと笑った。舞子はまた胸に、甘い痛みを感じた。「大石さんは、ラーメン好き?」
「は?」大石は声を裏返らせた。
「うふふ」少年は無邪気に笑う。「おじいさんや瀬良さんと同じ服着てるから、そうなのかなって思って」
「──よくわかりませんが」大石は眼鏡を指で押し上げた。
「あるんじゃん、わかんないこと」舞子は呟き、大石の横目線に突き刺された。

 

     ◇◆◇

 

「ああ、春日くん」ダイニングルームに戻ると築山博士が声をかけてきた。「わしはこれからちょっと出てくるから晩飯はいらんよ」なぜか彼は舞子と目を合わせもせず、さっさといなくなった。
「今、何時?」舞子は時計を探しつつしもべに訊ねる。
「午後五時半です」大石が答える。
「えっ、もうそんな時間? 夕飯作らないといけないってこと?」
「あなたの作業スピードをかんがみれば、そろそろ取りかかった方がよろしいかと思われますね」大石はうなずいた。
「むっかつく」舞子が手を伸ばすと同時に大石が消えると同時に瀬良がダイニングルームへ入って来た。
「ああ、春日くん」瀬良は声をかけた。「私はこれからちょっと出かけてくるから、食事は結構だよ」そうして彼も、そそくさといなくなった。
 ぼん、と音がして、また大石が現れた。「お二人とも、見事な回避行動と云えますね」
「カイヒ行動?」
「ということは今宵はここであなた一人で食事をしなければならないということですね」
「えー淋しいなあ……あれ」舞子はふと廊下の方を見やった。「あの子はどうなるの? 陽くん」
「彼には、食事は必要ないでしょう」
「えっなんで」舞子はびっくりして大石を見た。
「彼はあの容器から外に出られないのだと云っていました」大石は考えを述べた。「食事のしようがないではないですか」
「でも──じゃあの子って、いっつも何も食べてないってこと? まさかそんな」
「──」大石は答えず、顎をつまんで何事か考え始めた。
 舞子はスチール製のストッカーを開けた。
 なんとなくその中にインスタントラーメンの一つや二つぐらいは転がっていそうな気がしたのだ。「──」そして彼女は取っ手を持ったまま固まった。
 塩味、味噌味、醤油味、とんこつ味、カップ、袋──そこには各社各種のインスタントラーメンが、まるでコンビニの商品棚のごとく、何十個も並んでいた。
「むう」舞子の肩越しにそれを見た大石が唸った。「見事なコレクションだ」
「コレクション?」舞子は振り向いた。「じゃこれ、食べちゃいけないってこと?」
「あの博士、相当のラーメン好きと見えますね……ふむ……ある意味、極めているといえる」大石は腕組みをし、何度もうなずいた。築山のことを少し尊敬し始めてでもいるかのようだった。
「あれっ、これ」舞子は突然そのラーメンコレクションの中の一つを取り出し、しげしげと眺めた。「うわ、このカレーラーメンってまだあったんだ。懐かしーい」振り向いて大石に見せる。「ねえ見てこれ! あたしが幼稚園の年長の時に売られてたんだけど、一年後に確か違法な添加物が入ってたとかで店からなくなっちゃったのよ。俳優の沖村俊哉が子役時代にCMやっててすごい美味しかったんだけど──わあーもうてっきり製造中止だと思ってたら復活してたんだあ。すごいレアものだよこれ」
「度し難いラーメンオタクですね」大石はコメントした。
「──なんか待遇にえらい差がない?」舞子はラーメンを手にしたまましもべを睨んだが「でも、いいや。これ食べさせてもらおうっと」すぐに笑顔になり調理に取りかかった。即ちお湯を沸かし始めた。
 しかしそれを待つ間にも、やはり気になるのは陽のことだった。
 舞子は調理を中止し――即ちコンロの火を止め、もういちど書斎へと向かった。
 ドアには鍵が掛かっている。
「壁抜けして」舞子は振り向いてしもべに頼んだ。
 大石に代わって木多丘が飛び出し「んじゃ、さっきのレアものラーメン半分くれるか?」とにこにこしながら云った。
「えー、ダメ」舞子は眉をひそめた。「ラーメンなら他にあるじゃん。あれはダメ」
「ちぇ、けち! そんならやらねえ」木多丘は膨れて急須に引っ込んだ。
「はあ?」舞子は口をあんぐりと開けた。「もしもし? 命令拒否? それでもしもべ?」沸々と怒りがわいてきて、彼女は床上の急須にまくしたてた。
 ぼん、と白煙が上がり大石が出てきた。「これからは魔法使いも主人を選ぶ時代となっていくことでしょう。あなたも重々お気をつけ下さい」注意を促す。
「あんたら」舞子はこめかみにどくどくと脈を感じた。「しまいにゃ割るわよ」
 大石はすっとしゃがんで膝を突き、ドアノブに手を添えてじっと鍵穴を見つめた。
「──何してんの?」舞子は訊いた。
「ふむ」大石はやがて、鍵穴を見つめたまま両手を空中にかざした。するとその空間にぼん、と小さな白煙が上がり、パソコンのディスプレイとキーボードが現れた。
 舞子が呆然と見つめる中、大石は鍵穴と空中パソコンを交互に見ながらキーボードを叩いた。
 画面には訳のわからない文字や記号がどんどん現れる。
 するとまたぼん、と白煙が上がってパソコンが消え、今度は銀色に光る一個の鍵が姿を現した。
「これでドアは開きます」大石は空中に浮かぶ鍵を掴み取り舞子に渡した。
「まじ?」舞子が声音を失いつつも鍵穴にそれを差し込むと、果たして錠はかちゃりと外れた。「なんでそんなんでこんな鍵とか作れるわけ?」
「慣れです」大石はそっけなく答えた。
 ドアを開けると、部屋はやはり白い光に照らされていたが、巨大佃煮瓶の中に少年はいなかった。
「あれっ」舞子は驚いて瓶に近づき、よく観察した。しかしその中には一様にただ白い光が満ちているばかりだった。「陽くん?」ガラスをこつこつとノックしてみる。
 すると突然、瓶内を満たしていた白い光がゆらり、と動いた。
 舞子ははっとして体を遠ざけた。
 光はゆらゆらと揺れながら収縮していき、最後にヒトの形にまとまった。
「あ、舞子さん」ヒト形はにっこりと微笑んだ。「ちょっと昼寝してたんだ」陽だった。
「──ああ、そうなんだ」舞子は目を丸く見開いたまま口だけ微笑み返した。
「ふむ、なるほどね」大石が顎を撫でて満足そうにうなずいた。
「あの、陽くんは食事とか、しないの?」舞子はおずおずと訊ねた。「あたしこれから、ラーメン作って食べようかと思うんだけど、そんなものでよければ陽くんも一緒に」
「ラーメン?」陽の表情が比喩的にぱっと明るくなった。「わあー、いいなあ! ぼくも食べてみたいなあ!」叫ぶように云う。
「そ、そう? そんなんでよければ」舞子はこの少年を本当に可愛いと思った。
「でも、ぼく食べられないんだ」陽はしかしすぐにしょんぼりとしおれた。
「え──なんで?」舞子は思わずガラスに手を当てた。「ここから出られないから?」
「うん」
「そっか……でも、お腹すくでしょう?」舞子は心の底から心配した。
「ううん、大丈夫」少年は微笑を取り戻して云った。「ありがとう、舞子さん」
「──そう」舞子は了解せざるを得なかった。「じゃあ、また来るね」
「うん」陽はうなずき「明日が、間違いなく来るといいね」そう云った。
「えー?」舞子はドアに向かう足を止めて少し吹いた。「そりゃ来るよお。なんで?」
 しかし陽は何も答えず、ただ微笑んでいるだけだった。

 

◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇
 

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魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 83

  • 2020.07.29 Wednesday
  • 21:14

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「キャビッチ」ユエホワが私の方に手をのばしてさけぶ。
 私は大急ぎで渡す。
 それを受けとると同時に薬をかけつつ「ピトゥイ」とユエホワがさけび、
「エアリイ」私もさけんで投げる。
 私のキャビッチは子どものにぎりこぶしぐらいの大きさで何十個かに分散し、また姿をあらわしたアポピス類たちに、つぎつぎにぶつかっていった。
 けれどアポピス類の盾に当たって消えるものが大半で、ダメージにはつながらなかった。
 そうかと思うとまたアポピス類はついたり消えたりしはじめ、さらにきらきらした金色のアポピス類の子どもたちが小さなキャビッチを口から飛ばして私たちにちくちくと攻撃してくる。
「おい、光使い」ユエホワが大きな声で呼びかけた。「もういいかげん、そいつらの命令にしたがうのはやめろ」
「そうだよ」私もあとにつづく。「どうしてそんなやつらのいいなりになるの。やめようよ」
「お前らの仲間のほとんどはもう、菜園界に帰ってきてるぞ」ユエホワもさらにつづける。
 ちかちかとついたり消えたりしていたアポピス類たちの姿がふいに、半分見えて半分消えている状態でとまった。
 顔が半分消えているものもいれば、腕と足が一本ずつ消えているものもいれば、首から上と腰から下だけが見えてお腹のところが消えているものもいる。
「おい」
「なにをしている」
「はやく消せ」アポピス類たちはあせったようにどなった。

 

「ここの世界、光が弱いからやりにくいよ」

 

 小さな声が聞こえた。
 私とユエホワははっとしたけれど、声の主の姿は見えなかった――それはつまり、小さな妖精の声だということだ。
 光使いの。
「そうだよ、やりにくいよ」
「めんどくさいよ」
「もうつかれたよ」
「帰りたい」
「うん、帰りたい」
「もうやめようよ」つぎつぎに、小さな声が聞こえてきた。
「きさまら、さからうとどうなるかわかってるのか」
「痛い目にあいたいのか」アポピス類たちが怒ってさけぶ。
「させない」私はさけんで、キャビッチを投げた。
 どなることに気をとられていたアポピス類の一人の顔の見えている部分に命中し、そいつは悲鳴をあげることもできないままふっとんでいった――ふっとんでいきながら、そいつの見えていない部分がつぎつぎに姿をあらわしはじめたので、光使いが彼の体から離れたのだろうことがわかった。
「ああ、そうだ」ユエホワが大きくうなずく。「もう地母神界にも立派で邪悪な裁きの陣ってもんがつくられてる。そいつらがなにをしようとも、もう妖精たちを苦しめたりなんかできっこないんだ。だからもう、そいつらにしたがう必要はない」
「ほんと?」だれかが小さな声でいう。
「本当に?」
「わあい」
「じゃあやめよう」妖精たちはつぎつぎにアポピス類から離れ、ついにやつらの姿は完全な状態でまる見えになった。
「よし」ユエホワがそういったとき、私はすでにキャビッチを巨大化させていた。ユエホワがそれにすかさず薬をふりかける。
「エアリイ」さけぶ。
 ごごん、と大きな音がひびき、直径二メートルほどの巨大化キャビッチが五個あらわれた。
「うわあ」
「すごーい」
「でっかーい」妖精たちの小さな歓声が聞こえてくる。
「でかいのはいいけど」ユエホワが文句をいいながら巨大化キャビッチのひとつをおもいきりけとばす。「投げられんのかって話だよっ」
 そのキャビッチはアポピス類に向かって飛んでいったがすばやくよけられ、しかもユエホワの方もけった足をかかえこんで痛そうな顔をしていた。
「うー」私はなにも言い返せないまま、大急ぎでかんがえ、祖母がやった方法のまねをすることにした。「ツィックル!」さけびながら箒の柄のさきをキャビッチに向け、猛突進する。
「あっ、ばか」ユエホワがびっくりしてさけぶ。
 私も、猛突進しはじめた後で、そんなことしたら、がいんっとはじきとばされてこっちがダメージを受けるのではないか、ということに気づいた。
 けど、そうはならなかった。
 ツィックル箒はキャビッチに直接当たらず、なにかふわっとした見えないクッションがそこにあるかのようにやわらかく止まった。
 そのかわり、目の前の巨大化キャビッチがごうっ、と、猛烈ないきおいで飛んでいったのだ。
 それはわずかにスピンしながらアポピス類をねらい、そいつがあわててかざした盾にはげしくぶつかり、盾もろともそいつをふっ飛ばした。
「ツィッカマハドゥルか」ユエホワが声をかすらせて言う。「さすが」言ってから手に持つ瓶を見おろす。「シルクイザシ、すげえな」
「くそっ」あと三人となったアポピス類は、くやしそうにさけんだ。「まだか」
「ん?」私とユエホワはふと止まった。「まだか?」
「はやく成長しろ」またアポピス類がどなる。
「だれにいってんの?」私はユエホワにきき、
「さあ……あ」ユエホワは首をかしげたあと目をまるくした。「子どもか」
「えっ」私がアポピス類たちに目をもどすと、やつらはきらきらしたかたまりをまさにこちらへ向けて投げつけてくるところだった。
 そのかたまりの中にいるのは、小さな赤ちゃんのヘビではなかった。
 大人の胴体ぐらいの太さのヘビが、何匹かからまりあってかたまりになっていたのだ。
「うわっ」私がさけぶのと、箒がぎゅんっとよけてくれるのとが同時だった。
 ほっと息をつくひまもなく、箒がふたたびぎゅんっと移動する。
 と同時に、左のひじにごつんっとなにかがぶつかった。
「あいたっ」私は悲鳴をあげた。
 ひじを見ると、家の壁にぶつけてしまったときのように赤くすりむけていて、ひりひりと痛んだ。
 さらにキャビッチがぎゅんっと移動する。
 今度は右の耳のすぐ近くを、ぶんっと音を立ててなにかが猛スピードで飛び去っていった。耳がじん、とあつくなる。「うわ」思わず声をあげる。
 その後もツィックルは何度かよけつづけてくれて、そのたび私の体のすぐ近くをなにかが――いや、それはキャビッチだ――飛び過ぎていった。
「成長してる」ユエホワも必死で飛んでくるキャビッチをよけながら言う。「さっきの小さいヘビたちが」
「えっ」私はあらためて金色のかたまりを見た。「成長したの?」
「てめーらやっつけてやるー」かたまりの中から成長したヘビたちがさけぶ。その声はもうかん高くはなく、ユエホワや魔法大生たちと同じくらいの男の人の声に聞こえた。
「でも言うことは同じなんだな」ユエホワがつぶやく。
 そのとき、成長したアポピス類がかぱっと大きく口をひらき、その中から直径十センチほどのキャビッチがぽんっと飛び出してきた。
「うわ」私がおどろくのと同時に箒がよけてくれた。「キャビッチも成長してるの?」
「みたいだなってーっ」ユエホワが答えると同時に背中にキャビッチをくらってのけぞった。「くっそーシルキワスかよっ」
 もちろんアポピス類がシルキワスを使うはずもなく、ただ成長したヘビたちがあちこちからつぎつぎに、キャビッチを飛ばしてくるだけだ。
「もっとだ」マント姿のアポピス類がさけぶ。「もっと成長しろ」
「えーっ」私は眉をしかめた。「まだ大きくなるの?」
 けれどそうではないようだった。
 ヘビの子どもたち――もと子どもたち、か――は、大きくなるのではなく、なんと一匹また一匹と、人間の姿に変わっていったのだ。
 金色のまま。
 といっても、やっぱりちょっと黒みがかった金色だけど。
「よし」マント姿がさけぶ。「キャビッチを投げろ」
「えっ」おどろいて見ると、なんと人間化したもと子どもたちは全員、その両手に何個ものキャビッチを持っていたのだ。
「くっそ」ユエホワが深刻な顔であたりを見まわす。「八方塞がりかよ」
 私たちは、たくさんのキャビッチに囲まれていた。
 それも、自分が投げる側としてではなく、キャビッチをくらう“標的”として。
「まじで?」それは当然ながら、私にとってははじめてのことだった。

 

葵 むらさきの著書

 

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葵マガジン 2020年07月25日号

  • 2020.07.25 Saturday
  • 21:51

JUGEMテーマ:小説/詩

 

◇◆◇◆多重人格の急須2 〜肉じゃがは時空を越えて〜◆◇◆◇
 

第10話 舞子、忍び込む 中編(全40話)

 

「何かしらね」優美もすぐに気づいたらしくじっとそれを見つめた。「行ってみましょう」
「いいのかな」舞子は少しためらった。
「もしかしたら、タイムワープ計画に何か関係のあるものかも知れないわ」
「えっ、あの光が?」舞子は驚いた。
「もちろん証拠はないけど──でも何につけても一応調べとかないとね。行きましょう」優美はそう云って椅子から立ち上がった。

 

     ◇◆◇

 

 廊下には誰もおらず、この広い家屋内は本当にひっそりとしていた。
「あの二人以外、誰も住んでないのかな」舞子はなんとなく声をひそめた。
「ふむ」優美は不意に立ち止まった。「あの一番奥のドアね」
「あそこ?」舞子は指差し確認をしながらその方へ歩いていこうとした。
「待ちなさい」優美は彼女の主人の襟首を捕まえ停止命令を下した。「築山氏が中にいるようだわ」
「え、やばいの?」舞子は襟首を持たれたまま、振り返って訊いた。

 

 しゅッ。
 ぼん。

 

 いつものことだがいつの間にかくっついて来ていた急須が舞子の足元で白煙を上げ、優美の立っていた位置に巨大な体が現れた。
「ひろみちゃん?」舞子は顔を一段階上に向けた。「何をしようっていうわけ?」急に何か不安な思いが彼女の中に生まれた。まさか天井をばりばり突き破って梁の上からそっと下をうかがおうというのではないのか──
「壁の中に入る」木多丘はそう云うと、ひょいと舞子を抱き上げた。
 舞子が音を立てて息を吸い込むのと、周りの景色が瞬時に粒子状となり猛スピードで遠くに拡散していくのとが同時に起こった。
「わああ──っ」舞子は思い切り悲鳴を挙げた。
「ああもう」木多丘は顔を背けた。「うるせえって何べんいやあわかるんだ」
「だって、だって」舞子はきょろきょろと辺りを見回した。
 周囲は、砂漠が縦になったような景色に変わっていた。
 いや、単純に「縦」というのではない。
 上を見ても下を見ても、もちろん右を見ても左を見ても、文字通り辺り一面が砂漠の砂だった。
 舞子は木多丘の首にしがみついた。「なな、何これどうなってんの」
「だから、壁の中に入ったのよ」木多丘はそんな中を、舞子を抱っこしてすたすたと歩き出した。砂は特に彼を避けたり退いたりする様子でもなかったが、そうかといって彼の行く手をさえぎるものでもないようだった。
「か、壁の中って」
「ほら、ここならよく見えるだろ」木多丘が右手で目の前をすっと拭くと、砂の一部が窓状にさらりと取り払われ、いきなり部屋の中の風景が現れた。
 そこはフローリングの落ち着いた書斎で、築山博士のものらしい後姿が立っていた。
「うわっ」舞子は声を挙げてから、自分の口を押さえた。
「大丈夫、聞えやしねえよ」木多丘はそう云って舞子を下に下ろした。
「ほ、ほんとに壁の中なの、ここ?」舞子は今一度上下左右を見た。「すごい……どこでも入り込めちゃうんだ」
「まあね」木多丘は腰に手を当てふんぞり返った。「ただ人間の脳の中にだけは行けないけどな」
「なんで?」
「人間の脳ってのは、ものすげえ特異なつくりの迷路だから、俺らでも危険なんだ」
「えっ、そうなんだ」
「先生坊主の説明でも聞くか?」
「大石くんの?」舞子はぴくりと眉をひそめた。「いや、いい──それより、さっきの光は」部屋の中の様子を見やる。
 築山博士の向こうに、その“光源”は存在しているようだった。
 そこから放射状に、真っ白な光の出ているのが見える。
 しかしそれは、巨大なガラス製の容器の中に──例えてみれば巨大な佃煮の瓶の中に閉じ込められているようだった。
 築山博士はその光の方向に向かって、手を挙げたり肩を揺すったり、うなずいたりしていた。
 何と云っているのかその声までは聞えなかったが、それは明らかに、誰かと会話をしているように見えた。
「瀬良さんがいるのかな」舞子は呟いた。
「ふむ」再び戻った優美の声が背後で答えた。「彼ではないようだわ──なんだか、匂うわね」振り向くと彼女は腕組みをし、目を細めていた。
「匂うって?」舞子は訊いた。
「まあ、待って」
 優美がそう云ってしばらくすると、築山博士がその場を離れた。
「──あっ」舞子は叫んだ。
 博士の向こうにあったもの、博士が親しげに話しかけていた相手が、そこに見えたのだ。
「よし──出ましょう」優美がそう云うと爆発音がして白煙が上がり、舞子はもろにその煙を吸い込み咳き込んだ。
「もう、この狭いところで煙上げないでよ! 副流煙よこれ!」舞子はクレームをつけながら再び木多丘に抱きかかえられ、砂の粒子がたちまち去っていき、代りに赤・青・緑の粒子が集まってきて書斎の景色を周囲に形づくった。
 舞子は今、博士の会話の相手を間近に見ていた。
 そして彼女の視線はそこから動けなくなってしまった。

 

 ひかりのいずみ。

 

 溢れるほどの放射線。
 真っ白い輝き。
 舞子は我知らず、そのガラスに手を触れていた。
 眩しいのに、瞬きをする時間さえ惜しいような──ただぽかんと口を開けていつまでも見ていたいような、美しき神秘の灯が、その中にたゆたっていた。
 そしてその光の源は、一人の人間──舞子より少し小さな体の、少年だったのだ。
 彼もまたガラスの向こうからじっと舞子を見つめ、涼しげな一重瞼の目を丸くしていた。
 髪も、肌も、瞳も唇も──白い。
 けれどそれは、異常だとか気味が悪いだとか思わせるものでは決してなく、敢えてそれを形容するならば、ただ

 

 ひかりのいずみ

 

 その語句でしか表し得なかった。
「君は──だれ?」真っ白い少年は訊ねた。
「あ」舞子はやっと瞬きを再開させた。「あたしは、か、春日──舞子」声がかすれる。
「舞子、さん?」白い少年は訊き返し、それからにっこりと顔全部で笑った。「ぼくは陽」
「ひなた?」舞子は云って、自分もまた微笑んでいることに気がついた。不思議だ。別に微笑もうと思ったわけでもないのに──「お日様みたいに光ってるから?」
「うふふ」陽はまた笑った。
「ははは」舞子も笑った。不思議だ──
「あっ、もしかして君は」陽は突然目を丸く開いて、ガラスの向こうから舞子を指差した。「タライマワシにされている子?」
「は?」舞子は微笑みから怪訝な顔にスライドした。
「おじいさんが瀬良さんに云ってたんだけど、君の事じゃないのかな?」陽は無邪気に小首をかしげた。「かわいそうな子だから、ここに置いといてあげたいって、おじいさん云ってた」
「おじいさんって……築山博士?」
「うん、そう」陽はまたにこりとしてうなずいた。
「かわいそう……?」舞子は床を見下ろして呟いた。なんだかよくわからないが、とにかく築山は瀬良に、自分をここに住まわせることを了承させたらしい。ひとまず喜ぶべきなのだろう。「ところで陽くんは……なんでそんなガラスの中に入ってるの?」
「うん」陽はガラスに手を触れ、上を見たり左右を見たりした。「ぼく、外へは出られないんだって」
「どうして?」
「ぼく、ビョウキらしいんだ」

◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇

 

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米津玄師 MV「感電」

  • 2020.07.25 Saturday
  • 19:48

JUGEMテーマ:邦楽の新曲

 仕事終わって帰宅して、ビールぷし、してグイグイグイーーーッて飲んで、少し経って気分が良くなってきて

「うん、音楽聴こ!」

という気分になった時、今の時点で、最初に聴きたい曲!

米津氏が「ワンワンワ〜ン♪」と唄うところでは「ワン!」ってぜったい言っちゃうですぜ。合いの手ですぜ。

 ワン!

 

 

 

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魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 82

  • 2020.07.23 Thursday
  • 07:52

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「やっぱり二人がけだ」ユエホワがうなずく。「俺にもマハドゥがきいてる」
「いや、なんで?」私は思わずユエホワを見てさけんだ。「なんでユエホワがピトゥイを使えるの?」
「俺が性格のいい鬼魔だからだ」ユエホワはにこりともせず答えた。「あとついでにシルクイザシの効能と。くるぞ!」さけぶ。
はっと前を見ると同時に箒がぎゅんっと高く飛び上がり、私がいた位置になにかきらきら光る粒のかたまりのようなものが飛びこんできた。
「なにあれ」私は箒の上からそのきらきらしたところをのぞきこみ、その正体をみきわめようとした。
「ヘビの子どもだ」ユエホワが教えてくれた。「またくるぞ」さけぶ。
「えっ」私が前方にふり向くのと同時にまた箒がすばやくよけてくれ、私にヘビの子どもの団体がぶつかることはなかった。
「ユエホワ」姿をあらわしたアポピス類のひとりがさけぶ。「我々とともに来い。地母神界でお前の力を存分に発揮しろ」
 ユエホワを見ると、口をとざしてじっとアポピス類を見ていたが、やがて「ひとつきくが、なんで俺に命令するんだ?」ときいた。
 こんどはアポピス類がだまりこんだ。
「協力してくれ、って依頼してくるのが筋だろ。なんで俺をさらったり、上から頭ごなしに言いつけてくるんだよ。うまくやりたいならやり方を考えろよ」ユエホワはしずかな声で話していたが、赤い目はきびしくにらみつけていた。
「わかった」アポピス類がすなおにそう言ったので、私は少しおどろいた。「ではお前に――ユエホワ、君に依頼する。我々とともに地母神界へ来て欲しい。そしてともに地母神界を大きく強い世界に、鬼魔王と対等の位置に立てるまでに育て上げて欲しい。どうか頼む」
「そうそう、それだよ」ユエホワは二、三度小さくうなずき「で、俺の答えはこうだ。断る」
 しん、としずかになった。
 でも私は、うなずいていた。
 まあ、そうだろう。
 相手が命令しようとイライしようと、このムートゥー類はすなおに「わかった」とはぜったいに言わない。そういうやつだから。
「きさま」アポピス類がさけび、金色のヘビの子どものかたまりを投げつけた。
「君って呼べ」ユエホワは上に飛び上がってかわしたけどその直後に「うわっ」と悲鳴をあげて体をまるくした。
 なんの攻撃を受けたのかはわからなかったけど、私はその術をかけたのだろう鬼魔に向かってキャビッチを「シルキワス」とさけびつつ投げた。
 短縮形の誦呪だけど、充分消えてくれるはずだ。
 けれど。
 キャビッチはそのまま飛んでいき、アポピス類が片手に持つ盾にがいんっと当たって消えてしまった。
「えっ」私はびっくりしてかたまった。
「光使いか」となりでまるめた体をひらきつつユエホワが言う。「シルキワスが、光使いたちによって効かなくさせられたんだ」
「ええっ」私がさらにびっくりしてさけんだとき、背中と腰のあたりにとつぜん、ちくちくちくっとなにか小さな針がたくさんつき刺さるような痛みがはしった。「いたっ!」思わず悲鳴をあげる。
 箒が大急ぎでぎゅんっとその場から離れてくれたのでちくちく痛みはすぐになくなったけれど、顔をしかめて背中や腰をさすっても、とくになにもつきささってはいなかった。なんだ?
「うわっ」またユエホワがさけんで体をまるめた。「いててて」
「ユエホワ!」私は反射的にキャビッチをかまえたけど、何に向けて投げればいいのか? ユエホワに?
 一瞬そう思って迷ったが、よく見るとユエホワのまわりにさっきアポピス類から投げつけられたきらきらの粒のかたまりがただよっているのがわかった。
 ヘビの子どもたちだ。
「エアリイ」私はまた短縮形でさけび、なるべくユエホワに直撃しないあたりをねらって投げこんだ。
「あたたたた」それでもやっぱり、分裂したキャビッチのいくつかはユエホワにあたってしまったけど、きらきらのヘビの子どもたちはちりぢりに飛んでいった。
 まてよ。
 さっきの私の背中のちくちく痛みももしかして、このヘビの子どもたちのしわざだったのか?
 まさかヘビの子どもたちがこぞって私の背中にかみついたとか?
「いーっ」私はぞっと身ぶるいした。
「こいつだ」ユエホワがにぎりこんだ手を私の方にのばしてみせる。
「なに?」私は箒を近づけて、ユエホワの手ににぎられているものを見た。
 それは、ユエホワの手から頭の先っぽと尻尾の先っぽの一センチずつしかのぞいていなかったが、たしかに小さいヘビの形をしていて、しかも色が頭もしっぽも金色だった。
「金色のヘビだ」私はびっくりした。
 でもどこかで見たことがある、と思った。
「はなせー」ユエホワの手の中でその小さなヘビはわめいた。「てめーらやっつけてやるー」子どもなのでそれは小さくてかん高い声だった。
「うるせえつぶすぞ」ユエホワがすごむとヘビの子どもはだまりこんだ。「お前らなんでキャビッチなんか持ってるんだ」
「えっ、キャビッチ?」私は目をまるくした。
「てめーらかってにはたけつくったー」ヘビの子どもはかん高い声でさけんだ。
「地母神界のやつか」ユエホワが私を見ていう。「あの畑、めちゃくちゃにあらされてたよな」
「あっ」私は急に思い出した。
 フュロワ神がキャビッチを植える前、畑の土をつくっていたときに、地下にあったアポピス類の巣をまきこんでしまったといっていたのだ。
 そしてそのあと、土の下から、卵からかえったヘビの――つまりアポピス類の子どもたちが飛び出してきて、てんでに逃げて行ってしまったんだっけ。
「じゃあそのヘビ、あのときにげてったアポピス類の子どもなのかな」私はユエホワの手を指さした。「でもなんでキャビッチ持ってるの?」
「やっつけてやるー」ヘビの子どもはそういったかと思うと、いきなり口から小さなキャビッチをぽん、とはき出した。
ほんの1センチあるかないかぐらいの大きさのものだ。
 それはまっすぐ私に向かって飛んできたが、箒がひょいっとかわすと、私がいたあたりでふっと消えた。
「え、さっきのあのちくちく痛かったのって、これがぶつかってきてたの?」私はまたきいた。
「たぶんな」ユエホワがかわりに答える。
「うえー」私は思いきり顔をしかめた。「きたなーい」
「てめーらやっつけてやるー」
「お前そればっかりだな」ユエホワが手を見て言う。「誰にそんな言葉おそわったんだ?」
 アポピス類の子どもはなにもこたえなかった。それ以外のことばをしらないのかもしれない。
「って、あれ」ふいにユエホワが顔を前に向けた。「あいつら、どこ行った?」
「え」私も前を見た。
 ほんとだ、アポピス類の五人の姿が消えてしまった。
 と思ったら、なにもないところからまた突然きらきら光るかたまりが投げつけられてきたのだ。
「うわっ」私とユエホワはすんでのところでそれをかわした。
 が、ちくちくちくっとまた、こんどは右腕に痛みがはしった。「いたたた」私もユエホワも身をよじる。
「あいつら、また消えたのか」ユエホワが顔をしかめながらいう。「ポピー、キャビッチと薬と両方くれ」
「うん」私はユエホワにそれを急いでわたした。
「ピトゥイ」ユエホワも大急ぎで唱える。
 たちまち五人のアポピス類が現れ出る。
「くそっ」
「隠せ!」アポピス類たちがどなる。
 ちかちかちか、と彼らの姿が点滅するように、ところどころ消えたり見えたりしはじめる。
「早くしろ」アポピス類がまたどなる。

 

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葵マガジン 2020年07月18日号

  • 2020.07.18 Saturday
  • 20:39

JUGEMテーマ:小説/詩

 

◇◆◇◆多重人格の急須2 〜肉じゃがは時空を越えて〜◆◇◆◇


第9話 舞子、忍び込む 前編(全40話)

 

「おじいさん、疲れているみたいだね」陽(ひなた)はほんの少し眉をしかめて、ガラス瓶の内壁に手を当てた。
「ははは、いや……」築山は孫に心配させまいと、無理に笑ってみせる。
「──」少年はしばらく祖父を見つめていたが、やがて微笑を取り戻した。「ねえ、オヒルは何を食べたの?」
「え」博士は一瞬、陽の顔に視線をへばりつかせた。「ああ、ええと今日はな、んん、何といったかな……」
「サカナ?」陽は首を傾けた。彼は、博士がその日食べたもののことを聞くのが好きだった。なぜなら、それは彼にとって“憧れのこと”だったからだ。「それとも──ニクジャガ?」
「いや、今日はなんだか、洋風のものだったよ」
「ヨウフウ?」陽は目を見開いた。
「ああ、ええーと、何とかいう料理だったが何だったかな」博士は必死で脳内に散らばる記憶の断片たちをサーチした。
「ヨウフウって“おいしい”?」陽はにっこりして訊いた。
「うーん」博士は腕組みして唸った。「ラーメンほどじゃなかったな」
「そうなんだ」陽は面白がった。「ラーメンって、よっぽどおいしいものなんだね。おじいさん、いちばん好きだもんね」
「ははは」博士は薄く笑った。
「ふふふ」少年も笑った。
 なんだっていい。
 築山にとって、陽のその笑顔がありさえしてくれれば、自分の食べるのがラーメンだろうがニクジャガだろうが、わけのわからない洋風料理だろうが構わなかった。
「あの娘には当然このことは教えてませんよね?」突然背後からかけられた声に、築山は飛び上がった。
 瀬良が、いつの間にかそこに立っていた。
 およそ慈悲のかけらもない、冷たく澄んだ表情だった。
「も」博士は深く頷いた。「もちろんだ」
「というか、何故私に一言の断りもなく彼女をここへ来させたのですか?」瀬良は不愉快げに眉を顰めた。「今がどういうときなのかおわかりにならないのですか?」
「そ、それはその」博士は脳をフル稼動した。「あの子は両親を亡くして親戚中をたらい回しにされている、かわいそうな子なんだ。今回はわしが面倒を見る番で、断るわけにはいかないんだ。親族一同の間の掟だから──それに断ると却って怪しまれ穿鑿を受けることにもなりかねん、表向きは飽くまで平常を保っていた方がいいだろうと思ってのことだ」いつもは素粒子専門にやっている彼の脳細胞たちが、ここまで物理学と無関係の情報を大量にしかも急激に伝達するという行為は、彼に多大なエネルギーを消耗させた。
 瀬良は冷たい表情を変えることなく、ふん、と鼻を鳴らした。「まあ──たとえ知られたところで“仕事”が無事済んでしまえばどうということはないですがね。その時には彼女の記憶も消えてなくなるだろうし」
「そ、そうだな」
「それどころか彼女自身の存在さえ、あるいは消えてしまうかも知れませんしね」瀬良は楽しそうに目を細めた。
 築山は言葉もなく助手を見た。
 くっくっ、と助手は肩を揺すって笑った。
「瀬良さんも“ヨウフウ”を食べたの?」陽が出し抜けに訊いた。
「──」瀬良はぴたっと笑うのをやめ、ガラスの中の少年を睨んだ。
「ねえ、瀬良さんもやっぱり、ラーメンの方が好き?」陽は無邪気に問いかける。
「私に話しかけるな」瀬良は下瞼をひくつかせながら低く呟いた。「この、異常物──」
「陽に辛く当たるな」築山が声を荒げた。「なんでお前はいつもそんな風に──」
「あなたは知っているはずだ」瀬良は冷徹に云い返した。
「──」築山が凍りつく。
「その科白──私こそが云うべきものだと」

 

     ◇◆◇

 

 舞子は食器を片付けていた。
「ねえ、これって食器洗浄機かな? これにお皿入れればきれいになるのかな」台所に設えられてある、コインランドリーの大型洗濯機をさらに巨大化させたような機械を指差して、舞子はしもべに訊ねた。
「あら、それは加速器よ。それに皿なんか入れたら皿からニュートリノが出てくるわよ」答えたのは優美だった。
 舞子は仕方なく腕まくりをして、山岳地帯の冷たい水に手をさらし食器を洗い始めた。
「ねえ」洗いながらまた背後のしもべに訊く。「あのポトフ、博士に改心してもらう効果あったかなあ」
「うーん」答える声は正吾になっていた。「彼はあのポトフのことを、ラーメンほどじゃなかった、って思ってるみたいだね」
「く」舞子は苛ついた能面のような顔になった。「もう、やめようかな」
「まあまあ、そういわずに」声はまた優美に戻った。「グレート・スピリッツからのたっての願いなんだからさ」
「はあ」舞子はため息をついた。グレートだかブラボーだか知らないが、よくも気楽にこんな面倒な仕事を押し付けてくれたものだ。
 水は使ううちにますます冷たくなってゆき、舞子は親指のつけ根の辺りに痛みさえ感じ始めた。
 ヒビ、アカギレという恐ろしい単語が脳裡に浮かぶ。
 後片付けが済むと、舞子はダイニングルームの椅子に腰かけてひと休みした。
「ねえ、あの……瀬良っていう人、あの人もタイムワープのことは、知ってるわけ?」彼女はまたしもべに訊ねた。
「そうね──同じ屋根の下に住んでいて助手をやってるぐらいだから、それは当然知っているでしょう」優美は向かい側に座って頬杖をつきながら答え「結構、いい男だったわよね」と云って、舞子を吸い込まんばかりに目を剥きばしっとウインクした。
「あの、融合体が?」舞子は声を落し答えた。「でもちょっと冷たそう」
「そういうのがまた、そそるのよう」優美は中年のおばさんのように手首のスナップを利かせて宙を叩いた。
「ははは」舞子は声は笑えど笑えなかった。
 それにしても──静かだ。
 窓の外を見る。
 山が周囲に聳え立っている。
 緑ばかりが目に映る。
「にしても、ここって変だよね」舞子は目を細めて外の景色を眺めながら呟いた。変、とはつまり、この建物が余りにも周囲の景観にそぐわないという意味だ。「なんで築山博士って、こんな山奥で研究してんの? 大学とかじゃなくて」
「ふむ」優美はぐるりと、舞子が見ている窓の方へ体をねじ向け脚を組んだ。「まあ、隠匿のため、でしょうけどね」
「イントク?」
「つまりタイムワープ研究をやってるってことを、世間から隠しとくためによ」優美はキッチンの方へ目を向けた。「さっきの加速器もだけど──機器類なんかも、あっちこっち雑然と置きっぱなしで、いかにもマッドサイエンティストの独壇場って感じの“研究所”だわ」
「うん」舞子は頷いた。「あの、タイムマシンも」普通の人間ならば恐らく十人中十人があれをタイムマシンだと見極めることなどできないだろう──魔法を駆使するしもべでも所有していないかぎり。
「逆にいえば、彼はそれだけ本気だってことね」優美は舞子に目を戻した。
「本気?」
「そう……何がなんでも、タイムワープを実現させてみせるっていう意気込みの現れだわ──完全なるマッドサイエンティストね」
「だけどタイムワープって、本当にそんなにしちゃいけない事なの?」舞子は訊ねた。「誰だってさ、たとえば自分のご先祖がどんな人だったかとかさ、歴史の好きな人だったらあの時のあのできごとの真相はとか、見てみたいって思ったりするじゃない。ただ見てくるだけでも、罪になるのかな」
「グレート・スピリッツにとってはね」優美は答えていった。「いつだって“法律”なんてそんなものよ。本当にそれが正しいという“真実”を作り出すわけじゃない──ただ、一応おもてむきそういうことにしておかないと、時空にまとまりがなくなるのではないかってことで、適当にでっち上げられてるだけよ」
「でっち上げ?」舞子は苦笑した。
「そうよ。だから世の中が変わるたびにどんどん改正されていくわけよ。“新たなでっち上げ”が必要になるたびにね」
「じゃあもしかしたらタイムワープも、いつか合法的なものになるかも知れないってこと?」
「すでにどこかの時空では、そうなっているのかもね」優美は肩をすくめた。「ここの時空ではまだまだだし──いつかそうなるものかどうかも、わからないけど」
「ふうん」舞子は口を尖らせて軽くうなずきながら、窓の外にもう一度目をやった。
 きらり、と何か白いものが視界に現れた。
「ん?」舞子は注視した。
「どうしたの?」優美もその視線を追って振り向く。
 白い光はこの建物から続く翼の端の窓から見えていた。
 きらり、きらりと、それは断続的に灯ったり消えたりしている。
「あの光、何だろ?」

 

◇◆◇◆次号へ◆◇◆◇

 

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魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 81

  • 2020.07.15 Wednesday
  • 08:17

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「あのう」飛びながら私はユエホワにたずねた。「イボイノシシ界ってもしかして、地母神界のこと?」
「たぶんな」ユエホワはまっすぐ前を見て飛びながら答えた。「あいつらがさらに新しい世界とか国とかをつくってるんでなければな」
 私はそれ以上なにもいわなかった。
「それにしても、あいつら陛下の目を盗んで好き勝手やってくれてるってことだな」ユエホワはにがにがしげに言った。「まさかとは思うが、あいつらに寝返る鬼魔が出ないうちにつぶしといた方がいいな」
「つぶす?」私はぎくっとした。「闘うってこと?」
 ユエホワはなにも答えなかった。
「ちょっとちょっと」私はくいさがった。「まさかまたあたしにやれっていうんじゃないでしょうね」
「いつ性悪鬼魔が現れるかわからないからね」ユエホワが声をうら返して私のまねをする。「このキャビッチがあればだいじょうぶ!」背中のリュックをたたくまねまでする。
「いー」私は思い切り眉をしかめた。

 

 少し飛んだところで川に出た。
 川、というのか……やはりそれも黒味がかっていて、ぜったいにその中に入りたくもないし、たぶん魚なんかも一匹たりともすんでいないと思われた。
 その上を横切って飛んでいるとき、また
「あっ、ユエホワ」
と声がかかった。
 下を見ると、なんと川の黒味がかった水面から、ワニ型鬼魔のキュリアノ類が顔をのぞかせていた。
「どうした、ボーロ」ユエホワが空中で立ち止まる。
「さっき、アポピス類が来たぞ」ボーロと呼ばれた鬼魔は大きな口をぱくぱくと動かして話した。「血欲しいかいとかなんとかきかれた」
「えっ」私は眉をひそめた。
「そうか。五人ぐらいいたか」ユエホワはまたふつうに受け答えした。
「いや、一人だけだった。血はいらないけど食い物が欲しいって答えたら、またくるっていってた」
「そうか。もしまたそいつが来たら、ユエホワが探してたって伝えてくれ」ユエホワはそう言い残してまた飛び始めた。
 私はもう、なんのことかとはきかずにいた。
「一人だけってことは、あいつら手分けして鬼魔たちを勧誘して回ってるんだろうな」ユエホワは飛びながらひとりごとのようにそう言っていた。「やっかいだな」
 私は、早く帰りたいなあ、と思いながら、箒の柄にぶらさげたバスケットからプィプリプクッキーを取り出してほおばった。

 

 しばらく行くと今度は林の中に入った。
「あっ、ユエホワ」また地上から声がかかる。
 見るとまた人型に化けているものだったが、何の鬼魔なのかはわからなかった。
「アポピス類が来たぞ」やっぱりその鬼魔もそう言った。「目ぼしい貝があるっていってた。貝は食べにくいから他のものがいいっていったら、ため息をついてまた来るっていってた」
 ユエホワは前とおなじようなことを言って、私たちは飛び去った。

 

 つぎは山の中に入った。
「あっ、ユエホワ」こんどはワシ型鬼魔ディーダ類で、高く黒味がかった針葉樹の枝の上から呼んできた。「アポピス類が来て、貧乏神会に来いっていわれたけど、貧乏な神さまのパーティなのかってきいたらなにも言わずに帰っていった」

 

「アポピス類のやつらも、だんだんわかってきたようだな」山から飛び去りながら、ユエホワがつぶやく。
「なにが?」私はきき返した。
「鬼魔にむずかしい話をしようなんて、どだい無理だってことがさ」
「ああ……」私はうなずいた。
「まあとにかく、さっさとつかまえてあのいまわしい裁きの陣とやらへたたきこんじまおう」
「でも、どこにいるのかな」私はまわりを見回した。「もうあきらめて帰っちゃったんじゃない?」
「――また来るっていってたっていうから、最初のトスティのところにもどって待ってみるか」
「えー」私はうんざりの顔をした。「もう帰ろうよ」
「もうちょっと我慢しろ」ユエホワはえらそうに言った。「ここではっきりさせとかないと、今後めんどうなことになる」
「めんどうって?」
「また俺をさらおうとするだろ」
「おばあちゃんのとこにいればいいじゃん」私はテイゲンした。
 ユエホワはものすごく長いため息をついたあと「いやだ」と答えた。
「なんで」私は口をとがらせた。
「お前、さっきの鬼魔城にずっと住めって言われたらできるか?」ユエホワがきき返してきた。
「いやだ」私はソクトウした。
「だろー」ユエホワはうんざりしたような声で言った。
「えーっ」私は目を見ひらいた。「おばあちゃんちが鬼魔のお城と同じだっていうの? 言ってやろーおばあちゃんに!」
「ばかお前」ユエホワは一瞬あせったけれど「――まあ、別にいいか。もうあそこに行くこともないし」と言いなおした。
「えっ、なんで?」私はつい目をまるくしてきき返した。
「必要ないしね」ユエホワは飛びながら肩をすくめる。「いちばん知りたかったクドゥールグ様との闘いの話も聞けたし、伝説の魔女のキャビッチスローもじかに見ることができたし、まあいろいろ参考にはなったよ」
「えー、もう来ないの?」
「なに」ユエホワは半眼で私を見た。「俺がいないとさびしいの」
「いや、全然」私はソクトウした。「でもおばあちゃんとパパがさびしがると思うよ」
「知るか」ユエホワはぷいっと前を向いた。「人間のおもちゃじゃねえぞ俺は」
「なにその言い方」私は怒った。「さんざん世話になっときながら。そういうの、恩知らずっていうんだよ」
「感謝はしてるよ。でも馴れ合いにはならねえ」ユエホワは指を立てて宣言した。「だからお前から、ありがとうございました、さようなら、って伝えとけ」
「なに命令してんの。自分で言いなよ」私はぷいっとそっぽを向いた。

 

「いたな、ユエホワ」

 

 呼ぶ声がまた聞こえた。
 私は反射的に下を見た。
 けれどそこは野原の上で、鬼魔はだれもいなかった。
「ん?」私は首をつき出してよく下を見た。「だれ?」
「止まれポピー」ユエホワが私を呼び止める。「やつらだ」
 それを聞くのと同時に私はリュックをたたいていた。
 キャビッチが手の上にころがり出た瞬間、私の口はかってに
「マハドゥーラファドゥークァスキルヌゥヤ」
とさけんでいた。
 なんでかってにそうさけんだのかはわからない。自分の中にそういう、決まりのような、動きのパターンのようなものができあがっていたのかも。ルーティンっていうんだっけ?
「ディガム」直後にアポピス類のさけぶ声がした。
 姿は見えない。
「あれ」ユエホワがぽかんとした声で言う。「俺、動けるけど」
「ほんと?」私はとなりの黒味がかり緑髪を見た。
「二人がけ?」ユエホワが赤い目をまるくして私を見る。
「ん?」私は首をつき出してきき返したけど、その直後に
「ゼアム」
とアポピス類のつづけてさけぶ声がしたので、はっと前を向いた。
 とくに何も起きない。
「わかりにくいな」ユエホワがつぶやいたので、なにがわかりにくいのかときこうとした時「ポピー、キャビッチにあの緑の薬かけて、俺にかしてくれ」と早口で私に言った。
「えっ」私はわけがわからないまま、とにかく言われたとおりにして小さなキャビッチをユエホワに渡した。
「ピトゥイ」ユエホワがさけぶなり、なんとキャビッチがしゅるんと消えた。
 私が息をのむのと、五人のアポピス類の姿が現れるのとが同時に起こった。

 

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葵マガジン 2020年07月11日号

  • 2020.07.12 Sunday
  • 09:31

JUGEMテーマ:小説/詩

 

◇◆◇◆多重人格の急須2 〜肉じゃがは時空を越えて〜◆◇◆◇

 

 第8話 築山、怒る 後編(全40話)

 

 案内されたのは、狭いが上等なシステムキッチンだった。
 とはいえ科学者の住まいであるから、本当に料理をするためのスペースなのかどうかはわからなかった。
 もしかしたら『普通の人間ならば食べない物』を、ここで切ったり煮込んだりしているのかも知れない。
 舞子がその空間で一人きりになったとたん、部屋の隅で白煙が上がり大石が出てきた。
「ねえ、さっきの物まね!」舞子は興奮して訊いた。「すごい似てたよあたしに! 気味が悪いぐらい似てた! あれやったの、優美さん?」
「あれは木多丘です」大石は冷静に答えた。
「えっ」舞子は口を押さえて目を剥いた。「ひろみちゃん!? うわ、そうなんだ、物まねって、物理力稼動になるんだ」
「いえ、くじで負けたんです」
「は?」舞子は眉を寄せた。「くじ?」
「さて、料理を開始いたしましょう」大石は腕組みをした。
「え、今回は大石くんが料理するの?」舞子は魔法使いを指さした。
「実際に手は下しませんが調理の方法をお教えいたします」
「ひろみちゃんは?」
「熱を出して寝込んでいます」
「熱──」
「しかし料理の前に、今回もあなたのクローンを自宅の方に置いておく必要がありますね」大石は左手首の腕時計を見て云った。
「髪の毛はやめてよ」舞子は自分の頭を押えて一歩後ろに下がった。
「別に髪の毛でなくても構いませんよ」大石は両手を広げて肩をすくめた。「歯でも指でも、目玉でも」
「──ほら」舞子は自分で頭髪を一本抜いて手渡した。大石はそれを舞子の自宅へと飛ばした。
「それでは料理を開始いたしましょう」
「うん。どうやるの?」
「食材を切断し加熱し調味するのです」
「──」
「では、どうぞ」
「あのさ」
「お急ぎになった方がよいのでは」大石はまた腕時計を見た。「あの瀬良という男、見かけは穏やかそうですがかなり厳しい性格のようですから、下手をするとつまんで追い出されますよ」
 舞子は唇を噛んで冷蔵庫から食材を取り出した。
 野菜とベーコンを使って、適当にポトフを作ろうと決めた。
 中学の時に家庭科で作ったことがある──彼女がきちんと出席して最後まで受け、しかも記憶に残っているという、貴重な授業だ。
「えーと……とりあえず野菜を、切る?」舞子は何者かに質問しながら首を傾げ、包丁を取り上げた。「えーと」多少逡巡したのちキャベツにざく、と刃先を入れる。
「洗浄なさらなくてよいのですか」大石が背後から眼鏡を白く光らせて云った。「その野菜には残留農薬の付着している可能性があります」
「あっ」舞子はキャベツを刺したまま固まった。慌てて刃物を引き抜き、切り傷のついたキャベツを両手で持ち上げて、おろおろと左右を見回し流し台へと運ぶ。「洗うのね?」また首を傾げて誰かに質問する。
「三十秒ほど流水にさらすことによって残留農薬は消され得るものと思われます」大石は妥協を許さぬ厳格な監督のように見守っていた。
 舞子は結局自力で肉と野菜を切り、鍋に入れて火にかけ塩こしょうで適当に味付けして煮込んだ。
「さてと、じゃあ味見するかな」しばらくたってスプーンで煮汁をすくい、少し飲んでみた。「──」そのまま彼女は止まった。
 まずい。
 それしか頭に浮かばなかった。
「ねえ、これって──」大石に助けを乞うべく振り向くと、正吾になっていた。「うわ」思わず目を剥く。
「貸してごらん」正吾は瞳に微笑をたたえて舞子からスプーンを受け取った。そして同様にスープをすくい、まず香りを嗅ぎ、それから照明の下に持っていって目の高さにそれを掲げ、くるくると横回転させて色を眺め、おもむろにずずず、と音を立ててそれをすすり、じっと目を閉じ、くふー、と鼻から息を洩らした。
 数秒の沈黙があった。
「……んん」正吾は低く唸った。
 舞子はいやな気がした。これで一言「まずいね」と云われた暁には、このやさ男の鼻面をグーで殴ろうと思った。
「だしが良く出ていないな」正吾は舞子に審査結果を伝え始めた。「家庭料理じゃあ、じっくりスープを取ってる時間がないから、固形ブイヨンを少し足した方がいいよ。それから塩をもうひとつまみと、砂糖をほんの少し、あとシャルドネの白ワインをスプーンに二杯ぐらい加えるといい」
「シャルドネ? でも」舞子はきょろきょろと辺りを見回した。「そんなおしゃれなお酒、なさそうっぽいけど」
「ああ、あそこにある、あれ」正吾は台所の隅を指差した。『雲泥』と書かれたラベルのついた一升瓶が床に直に置いてあった。「あれを代わりに使うといい」
「──いも焼酎じゃん」瓶を持ち上げて舞子は突っ込みを入れた。「シャルドネと、えらい違うっぽいけど」
「何も加えないよりはましさ」正吾は微笑んで肩をすくめた。
 舞子は指示通りのものを鍋に入れた。
「こんな感じ?」正吾に確認するべく振り向くと、大石になっていた。「もう」彼女は毎度のことながら疲れた顔をした。「ほんとに忙しいったらありゃしないわ」
「あなたの云うことではないでしょう」大石は冷たく答えた。「こき使う側のくせに」

 

     ◇◆◇

 

「陽(ひなた)」築山博士は特殊ガラスに手を触れた。
「おじいさん」少年は顔中に笑みを湛えて内側から博士と同じところに触れた。「病気でもしているんじゃないかって思った」
「ああ、すまん──急な来客があってな」
「お客さん?」陽と呼ばれた少年は小首を傾げた。「おじいさんの、お友達?」
「い、いや──」博士は苦笑しながら言葉を濁した。「それよりも、今日は調子はどうだ?」
「ふふふ」少年は笑った。「おじいさんは、いつもそう訊く──でもぼくの答えも、いつもと同じだよ。別にどこも痛くないし、苦しくもないし、辛くも悲しくもない」くすくす、と彼はなお笑いつづける。
「ふふふ」博士も笑った。「でも一応訊かないとな──お前は大事な、孫だから」
 少年は真っ白な光の中で静かにうなずいた。
 その光は彼自身の体が発するものだった。
 褐色ガラスの向こうで彼をいたわるおじいさんは、他の物体たちと同様、やっぱり薄暗い色をしていた。
 だけどそんなことはどうでもいいのだ。
 少年・陽にとって築山は、この世でたった一人の家族だった。

 

「あの、お料理できましたけど」舞子は廊下に向かって声をかけた。
 築山博士が部屋から出て来て、ダイニングルームのテーブルの傍に佇んだ。
「これは、何かね?」卓上の皿の中のものを見下ろす。メインディッシュの他にはロールパンとサラダが置かれてある。
「あ、あのポトフ……です」舞子は照れ隠しに、うふふ、と笑った。
「ふうん」博士はにこりともせず、ふいと台所の食品ストッカーの方を見た。「どうせインスタントラーメンぐらいしか作らんだろうとおもってたんだが……わし、ラーメンがよかった」
「――」舞子は微笑みの表情のままで絶句した。やがて腹筋が、そして肋間神経が、さらに上腕三等筋及び僧坊筋が震え出した。
「ああ、中々いい匂いがしてますね」瀬良がダイニングルームへ入って来た。「早速いただきましょうか」テーブルにつき、スプーンを手に取る。
 博士はその向かい側でやはりスプーンを手に持ったが、瀬良が料理に口をつけるのをそっと観察していた。
「うん、中々うまい」瀬良はそう云って続けざまに料理を口に運んだ。
 築山はほう、と微かに息をついて、やっと彼のスプーンに料理をすくい取った。
「どうしたんですか博士、毒が入っていないかどうか、私でお試しにでもなっているんですか?」瀬良がだし抜けに訊いた。
 かちかち、と博士の手のスプーンが皿を小刻みに叩いた。「ははは」彼はごく小さく笑った。
 舞子はくるりと振り向いてキッチンへと戻った。
 大石が佇んでいた。
 舞子はそれまで保持していた微笑を顔面上から全削除した。
「やっぱりあんたとあのおじさんはねえ“同士”よ。あんたが何と云おうと、絶対そう」低く囁く。「狡猾で、卑怯で、冷徹で、自分中心主義で、人を人とも思わないで」
 大石は珍しく口を閉ざしたままだった。黒目が一瞬、舞子を避けようとしたようだったがそれは失敗し、彼は俎上の魚と化して睨まれつづけた。

 

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魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 80

  • 2020.07.09 Thursday
  • 19:34

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「え」私は一歩しりぞいた。「なにが?」
 となりで片ひざついているユエホワはなにも言わず、こうべをたれたままちらりと私を横目で見た。
「このたび貴様は我が鬼魔界精鋭のユエホワを危機から救い、あまつさえ鬼魔同士のいさかいを食い止めたとのこと」鬼魔の陛下はそう説明した。「人間にしてはよい行いであった。ほめてつかわす」
「――」私はなんと答えればいいのかわからず、陛下ととなりのユエホワをかわるがわる見た。
「はは、陛下」ユエホワがかわりに答える。「もったいなきお言葉、ポピーは感激のあまりことばにもならぬ様子にございます。あわせてこたび、アポピス類のおこがましくもつくりし地母神界にて、私ユエホワとこのポピーは力を合わせ、鬼魔界への反乱などいっさいおこさぬよう宣告し誓わせてまいりました。今後万が一にも鬼魔界をおびやかそうときゃつらたくらむような事ございましたらば、このキャビッチ使い名手ポピーが、命にかえても鬼魔界を守護するとのことでございますゆえ、陛下におかれましてはどうぞご安心召されるようお願い申し上げます」つづけてえらく早口でそう話す。
「――」私はとちゅうから話の内容がよくわからなくなり、頭がことばを受けつけなくなっていた。
「うむ。よきにはからえ」陛下はうなずいたけれど、たぶん私とおなじでわかってないんだろうと思う。
「ははっ」ユエホワはさいごにもういちどこうべをふかくたれた後立ち上がって「ではこれにて失礼致します」とおじぎをし、くるっとふり向いた。「行くぞ」小さい声で私に言う。
「あ」私はもういちどユエホワと陛下をかわるがわる見て「さ、さよなら」といちおうあいさつし、ユエホワの後ろを小走りについて行った。
「ポピーよ」けれどもう少しでその黒味がかった部屋から出るところで、なんと陛下が私を呼び止めたのだ。
「えっ」私は立ち止まってふり向いた。
「え」ユエホワもおどろいたように小さく声をあげ立ち止まった。「なんだ」
「かつて貴様がここ鬼魔界に作りおったキャビッチ畑はその後どのような様子じゃ」陛下はそうきいた。「野菜はよく育っておるのか」
「――」私は一瞬、陛下がなにを言っているのかまったくわからなかった。
「はは、陛下」かわりにまたユエホワが答えた。「おかげさまでキャビッチは順当に、豊かにみのりつづけております」
「えっ」私は緑髪を見た。「なんのこと?」
「しっ」ユエホワがすばやく私をだまらせる。
「うむ」陛下はうなずいた。「今後もよく世話をするがよい。いちどわしも味見をしてみたいものだて」ふほほほ、と陛下はおだやかな雷のように笑った。
「ありがたき幸せに存じます」ユエホワがおじぎをする。
 私もいちおう小さくおじぎをして、やっと外に出られた。

 

「ねえなんのこと? キャビッチ畑ってなに?」私は黒味がかった鬼魔王の城……というのか、王のすみかを出たとたん、くさい庭を歩きながらユエホワにたずねた。
「おぼえてねえのかよ」緑髪(これも鬼魔界で見るとやっぱり黒味がかった緑に見える)は歩きながらはあ、とため息をついた。「前にここに来たとき、ゼラズニアってやつと闘っただろ」
「ゼラズニア……ああ」それはたしか、クドゥールグの孫とかいっていたリューダダ類だ。思い出した。
「あのとき、闘いに勝ったら鬼魔界にキャビッチ畑を作らせてもらうって宣告したろ、お前」
「ええっ」私は眉をしかめた。そんなこと言ったっけ?
「つってもまあ、実際には俺がその場ででっちあげた話だったけどな」ユエホワは歩きながら苦笑した。「まさか陛下がおぼえてたとはな。油断ならねえな」
「え、じゃあ鬼魔界に、キャビッチ畑があるってこと?」私はきいた。
「あるわけねえだろそんなもん」ユエホワは目を細めた。「たとえあったとしても半日もたたずに荒れるかくさるかするよ」
「えーでも味見したいとか言ってたじゃん陛下」私は背後に遠ざかる鬼魔王のすみかをふり向いて言った。
「だいじょうぶ」ユエホワは自信たっぷりにうなずく。「三秒で忘れてるさ」
 思い出した。
 前にここに来たときも今みたいに、鬼魔王とかその一族とか……ゼラズニアもふくめて、なんだか気の毒だなあ、と思ったんだった。サンボウのこいつにこんな風にこばかにされて、軽くあつかわれて。
 なんか、そんなに悪いやつらじゃないのかも知れないな、と。
 まあでも、人間にたいしてすごく横暴で悪さするのは、いやだけども。
「もう、帰っていいんでしょ。菜園界に」私はユエホワに言った。
「いや」なんと黒味がかり緑髪はキョヒした。「いちおうざっとパトロールしていく」
「なんであたしがそんなことしなきゃいけないの」私は文句を言った。「ユエホワが一人ですればいいじゃん」
「お前、一人で帰れるか? 菜園界に」ユエホワは目を細めて私を横目で見た。
「う」私はつまった。
「道わかんねえだろ」ムートゥー類は勝ち誇る。「しかたねえから後で送ってやるよ。だからパトロールにつき合え」
「ひきょうもの」私は肩をいからせたが、ユエホワはなにくわぬ顔で暗くよどんだ空に飛び上がった。
 しかたないので私も箒でしぶしぶついて行った。
 まあパトロールってことだから、ただあっちこっち見物しながらだまって飛んでいくだけでいいんだろう。
 そう思い直すことにした。
 が、大まちがいだった。

 

「あっ、ユエホワ!」
 最初にその声が聞こえてきたのは、城からしばらく飛びはなれたところにある黒味がかった花畑にさしかかったときだった。
「ん」ユエホワは下におりてゆき、自分の名前を呼んだ鬼魔――人間の形に化けている――を見た。「トスティか。どうした」
 私がユエホワのとなりにおり立つと、その人型鬼魔は私を見て「あっ、ポピーさま!」とさけんだ。
「えっ」私はびっくりした。「だれ?」
「私ですよ、オルネット類のトスティです」ユエホワよりちょっと年上に見える人型鬼魔は自己紹介をしたけれど、私はまったく記憶になく、眉をひそめて首をかしげた。
「前、泡粒界でキャビッチ使って大勢召還した鬼魔の一人だよ」ユエホワが私に説明し、それから「お前ももう召還魔法解けてるんだから『さま』つけなくていいよ」とトスティという人に説明した。
「あっ、そうか」トスティは目をまるくした。
「えっ、そうなんだ」私も目をまるくした。
「で、なんかあったのか?」ユエホワはトスティにきいた。
「あっ、そうそう」トスティはあたりをきょろきょろ見回して「さっきここに、アポピス類のやつらが来たんだけど」と言った。
「えっ」
「まじか」私とユエホワは同時に声をあげた。「なんていってた?」
「イボイノシシ界に来いって」トスティは大まじめな顔で答えた。
 私とユエホワは一秒の間ものが言えなかった。
「イボイノシシ界?」私がきき返し、
「あーそう、何人いた?」ユエホワはふつうに受け答えた。
「えっ、イボイノシシ界ってなに?」私はユエホワにきいた。
「あとで教えるから」ユエホワは手のひらを私に向け、ひきつづき「あいつらの姿はちゃんと見えてたか? 声だけしか聞こえないとかはなかった?」とトスティにきいた。
「えーとたしか、五人ほどいたよ。姿はちゃんと見えてた」トスティは鬼魔界のどす黒い空を見上げながら答えた。「おれ、アルフにきいとくって答えたらまた来るっていってた」
 アルフという名前はおぼえている。ユエホワがさっきいった泡粒界で、最初に敵として闘ったハチ型鬼魔オルネット類の親分だ。その後、なぜか私の召還魔法で味方にすることができたんだけど。
「そうか」ユエホワは少し考え「もしそのアポピス類たちがまたここに来たら、ユエホワが探してたって伝えてくれ。イボイノシシ界に行くのはユエホワがだめだと言ってたって、きっぱり断るんだ。いいな」
「あ、うん」トスティはすなおにうなずいた。「でも、なんでだってきかれたら?」
「有能で役に立ちそうな鬼魔はユエホワが自分で選ぶからと言っといてくれ」サンボウ鬼魔はまじめに答えた。
「わかった」トスティもまじめにうなずき、その後私たちは飛び立った。

 

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