魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 48

  • 2019.11.27 Wednesday
  • 07:32

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「ではそなたたちの名を申せ」私たちの話を聞いたあと、祭司さまはひとこと目にそういった。

 緊張した面持ちで祭司さまの前に立っていた三人のアポピス類のだれも、すぐに答えなかった。

 その理由は、私にもすぐに察しがついた。

 たぶん名前をいったら、つぎに祭司さまがおっしゃるのはこうだろう。「ではそなたたちに、名前を呼ばれると快楽をおぼえる“諾(だく)の呪”をかけるとしよう」

「こちらから、ケイマン、サイリュウ、ルーロよ」なんと祖母が、だまりこんでいる三人のかわりにその名前をばらしてしまった。たぶん祖母は、三人が緊張のあまりしゃべれなくなっているのだと思い込んだのだろう。「ルーロは魔法大学で、呪いの勉強をしているそうよ。すごいでしょう」まるで自分の孫のように自慢げにいう。

「ほう」そして祭司さまもその話に興味を持ったようだった。「呪いの行使を望んでおるのかね」ききながらルーロに向かって軽く杖を振る。

「いやたぶん行使は無理だと思うけどそのしくみとか儀式の形態や歴史についてとかそっちの方の……」ルーロはものすごく早口にぶつぶつぶつと答えた。

「ほほう」祭司さまはすごく興味をもったように何度もうなずき、それから「ルーロ」と呼んだ。

「はいっ!」ルーロが背すじをぴしっ、とのばし、まるで舞台俳優のように大きな声で返事をした。

「えっ」

「おお」

「うわっ」

「ええっ」ケイマンとサイリュウとユエホワと私が、目をまん丸くして驚いた。

「まあ、すばらしいお返事ね」祖母は両手を合わせて感動していた。

「うむ」ルドルフ祭司さまも満足そうにうなずいた。「“活”の呪じゃ」それからサイリュウを見る。「お前は何を学んでおるのかね」

「う」サイリュウは半歩うしろにさがった。「私は、あの、ええ」

「彼はスロワーよ」またしても祖母が、口ごもるはずかしがりやのアホピス類の代わりに親切行為として答えた。「背も高いし、きっと強力な技を使いこなせるわ」

「ふむ」祭司さまはうなずくと同時に杖もいっしょにサイリュウに向けておじぎさせた。「サイリュウ」

「ほっ!」サイリュウはひとことさけんだかと思うと、右腕を頭の真上にぴんっと伸ばし、左腕は反対の真下へぴしっと伸ばして、同時に右ひざを曲げて胸元ちかくまでぐいっと持ち上げた。

「あら」これには祖母だけが目をまるくした。

 他の、ケイマンとユエホワと私は言葉もなく、眉をひそめてその変なポーズに見入るだけだったのだ。

「ほほほ」祭司さまが笑う。「なつかしいだろう、ガーベラよ」

「ええ、本当に」祖母は大きくうなずいた。「マルテスキ先生のスローポーズだわ」

「マルテスキ先生って、だれ?」私は眉をひそめたまま祖母にきいた。

「私が学生時代にキャビッチスローを教わっていた先生よ」祖母はなつかしそうに目を細める。「先生はこのポーズから、キャビッチを投げていたの。とても早かったわ」

「へえ」私はちいさくうなずいたけれど、内心ではよくこんな変なポーズから投げられるな……とふしぎに思っていた。

「ルドルフ、これは何の呪なの? “マルテスキの呪”?」祖母が祭司さまにそうきいたけれど、そもそも先生のポーズや名前を呪いにしてしまっていいのだろうか……と私は小さく肩をそびやかしたのだった。

「そうさな」祭司さまは少し考えて――なんといまこの場で決めるつもりだ――「“スモーレハーブスープの呪”でどうだろうか」

「まあ。おほほほほ」祖母が天井を向いて大笑いする。「いいわね。長くてすてきな名前だわ」

 私たち全員――変なポーズからやっと解放されたサイリュウも――は、いっせいに首をかしげた。

「うふふふ、マルテスキ先生はね、スモーレハーブの入ったスープが大好きで、いつもそれを飲んでいたの。まるでお酒のように、飲んでは赤くなって幸せそうにうたっていたわ」

「中毒じゃねえの」ルーロが、さっきの返事とは別人のように小さくとげとげしくつぶやいた。

「ていうか」ユエホワが、祖母にきこえないようにひそかに口にした。「こんなかんたんに、かけられるもんなのかよ呪いって……あの祈りの陣とかいうのは何のためなんだ」

 それはおそらく、ルドルフ祭司さまだから、だろう。祖母が、直接キャビッチを手に持たなくても魔法を行使できるのといっしょだ。決して誰にでもできることではない。

「さて」ルドルフ祭司さまがそういうのとほとんど同時に、ケイマンが飛び上がった。

「い、いや俺は、ぼくは、あの、いいです」

「よくねえよ」

「ずるいだろ」

「公平にいたしますことを願います」鬼魔たちがそろって反論した。

「ケイマン」祭司さまが呼んだ。

「うっ」ケイマンはとつぜん、聖堂の床の上にひざをだいてしゃがみこんだ。かと思うとつぎに「ひゃあーっ!」と叫びながら両手を大きくひろげて頭上にのばしながら、ぴょーんと上にとびはねた。

「“爆の呪”じゃ」祭司さまがおっしゃった。

「いつのまに?」

「いま杖ふったか?」

「なんとおそるべき呪いの技術でありましょうか」鬼魔たちはまっさおになっておそれおののいた。

「うわあ」私も、呪いをかける手品でも見ているようなふしぎな気持ちに全身つつまれていた。「すごい!」その言葉しか出てこなかった。

 すごい――けど正直なところ、全員妙な呪いをかけられたものだと思った。

「さあ、ではみんな」祖母が目をきらきらかがやかせながら言った。「さっそく、いまかけられた呪いをお互いに解きあってみましょう、ピトゥイで」

「あ」

「そうか」

「そうでございました」

 アポピス類たちは顔を見合わせてそのことを思い出し、それから三人そろって大きくほっと肩をおとした。「よかった」声をそろえていう。

「ちぇ」私の横でユエホワが不服そうに口をとがらせた。「ずるいなこいつらだけ」

「でも」私は答えた。「解けるかどうかわかんないじゃん、まだ」

「あそうか」ユエホワも思い出したようだった。「解けなきゃいいのに」声をひそめる。

 その後みんなで聖堂の庭に出ていき、三人のアポピス類たちは話し合って、ケイマンがサイリュウに、サイリュウがルーロに、ルーロがケイマンに、ピトゥイをかけることにした。

「じゃあ、せーのでいくぞ」ケイマンがキャビッチを右手に持ち、頭上高くさしあげて言う。

「はい」

「ああ」サイリュウとルーロもおなじくキャビッチを高くさしあげる。

「せーの」

「ピトゥイ!」三人が同時に叫ぶ。

 しゅるん、とそれぞれの手の上のキャビッチが消えた。

「まあ」祖母が感心する。「よくここまでがんばったわね」

「よし」ケイマンが、すごく真剣な目つきで他の二人を見る。「じゃあ、呼ぶぞ」

「はい」

「ああ」

「せーの」

「サイリュウ」

「ルーロ」

「ケイマン」

 三人はそれぞれ自分がピトゥイをかけた者の名前を呼び、そしてそれぞれ、「はいっ!」と返事をしたり「ほっ!」と両腕を上下に伸ばして片足を持ち上げるポーズをしたり「うっ」としゃがんだあと「ひゃあーっ!」と上空に飛び上がったりした。

 そしてそのあと三人は、地面の上にがっくりとひざを突いてうなだれ絶望した。

「ポピー」ふいにユエホワが私を呼んだ。

「ん?」

「俺を呼んでくれ。あのながい名前で」

「え?」

「いいからはやく」

「……ユエホワソイティ」

 ふわ、とユエホワの顔に、幸せゼッチョウのような微笑みが浮かんだ。

「よし、みんな、これからいっしょにがんばろうぜ」その微笑みのまま、緑髪鬼魔はアポピス類たちに言葉をかけた。

 けれど三人ともうなだれたまま、顔をあげもしなければ返事もしなかった。

「さあ、ポピー」こんどは祖母が私を呼んだ。「あと三日で、みんなの呪いを解いてあげてね」

「――」私は言葉をうしないかたまった。

「ルドルフの呪いは、強いわよ」祖母があごをひきながらそう言い、にやっと笑う。

 私は、まるでこの世でいちばんおそろしい呪いをかけられたような気分に包まれた。

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-05-07)
コメント:ポピーは魔法学校に通う少女。その世界では、キャビッチという野菜を使って魔術を行う。ある日ポピーと親友ヨンベは、ちょっとした悪戯を思いついたが、そのせいでヨンベが恐るべき鬼魔(キーマ)にさらわれてしまった! 悲しんでいる暇はない、自分が助けに行かなくちゃ! かっこいい神様たち、そしてずる賢い鬼魔ユエホワと共に、ポピーの冒険が始まった――

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