葵マガジン 2020年02月29日号

  • 2020.03.10 Tuesday
  • 21:08

JUGEMテーマ:小説/詩

 

◇◆◇◆聡明鬼◆◇◆◇


第89話 陰と陽(全100話)

 

「兄さん、三叉には慣れたか」ジライが牙を見せて笑いながら問う。
「言うな」コントクは鬼の眉を情けなく下げ、笑うしかなかった。
 鬼の中においては穏やかな性質の方であるコントクに、三叉という地獄の武器は幾分重く、なかなか手強い相手だった。
 自在に、かつ効率よく振り回せるように、牛頭馬頭について訓練をするが、気持ちがいささか焦ってもおり、床にぶつけたり手から弾き飛ばしてしまったりと、失敗が続くのだった。
 だが、弱音を吐いてなどいられない。
 なにしろ、いつテンニが再びあの打鬼棒を持ち陰鎮鷲椶妨修譴襪里もわからない。
 その時には閻羅王より授かりし三叉をもって、ここ陰鎮鷲椶忙澆泙蕕鎖祐屬燭舛寮海猴枩い癲△修靴洞鳴襪反誓腓寮海狆綸靴鬚癲護らねばならないのだ。
 そう、コントクは人間としての弟ジライを失ったあの日――コントクを追い聡明鬼と二足、陰陽界を走り、また走り、そしてついに天心地胆を飛び出した後あの光景を見た時に、感じたのだ。
 そこは上天にいちばん近い所にある天心地胆なのだということは、後で知った。
 だがそれを知るよりも先にコントクはテンニが、地獄だけではなく上天までも、支配下に置くことを目論んでいるのではないか、と――
「さあ、今日もやるぞ、兄さん」ジライが三叉を振り回しながら告げ、コントクの想いを断ち切った。
「ああ」兄鬼は頷き、腰の位置に三叉を構え、二足の得物は互いの刃先を探り合い、隙を突いてはそれを弾き返し、打ち合う音を響かせた。
 しばらく稽古を続け、息も大分上がって来、いつものようにコントクの方が休憩を申し出た。
 鬼の兄弟は床に座り、小鬼の運んで来た飲み物を喉に流し込んで息を整えた。
「今日は、牛頭と馬頭の来るのが遅いな」ジライがふう、と息をついて言う。
「ああ、そうだな」コントクも同じことを思っていた。
「何事か、変化の兆しでもあったのだろうか」ジライがまた言う。
「――」コントクは何とも返答できずにいた。
 そんな事はないだろう、とは決して言えぬ状況だ。
 しかし、きっとそうだろうと逸るわけにもいかない。
「どうする、兄さん」ジライが訊く。
「待とう」コントクは弟に頷きかけた。「テンニが最終的にやって来るは、この森羅殿のはずだ。ここを離れてはいけない」
「ああ」弟も頷く。「警戒して、見張りを続けよう」
「居ましたか」陰陽師の声が遠くから二人を呼ぶ。
「おお」
「陰陽師殿」鬼の兄弟は揃って振り向く。
「ご鍛錬のところ、邪魔をします」リンケイは二人に近づきながら告げる。「どうやらあのテンニ、戻って来そうな気配ですな」
「おお」
「なんと」鬼の兄弟は手に持つ三叉をひと際強く握り締めた。「ではいよいよ」
「ええ」リンケイは鋭く眸を光らせ頷く。「時が参りました」
「聡明鬼たちは、まだ」コントクが訊ねる。
「あいつはまだ、来ていません」リンケイが答える。「先にここに辿り着くのは、テンニの方と見てよいかと」
「あの禍々しき悪鬼を」ジライが唸るように言う。「必ずや、十八層地獄へ」
「もしくは」コントクも眉根を寄せる。「彼奴をこそ血と変えてやらん」
 三足は、同時に頷いた。

 

          ◇◆◇

 

「我々は、どうするべきなのでしょうか」群集のうちの一人がマトウに向かって訊いた。「何をするべきなのでしょうか」
「我々はどうあるべきなのでしょうか」他の一人が続く。
「お教え下さい」
「マトウ様」
「主様」
「私たちはこれから何処へ行って何をすればいいのですか」
 マトウはしばらくの間、目を閉じて人々の声に耳を傾けていた。
「マトウ様」
「主様」
「マトウ様」
 人々は、あたかも水を求めるかのように答えを乞うた。
「わからないのであれば」やがてマトウは、静かなる声で言った。「ここに居て、邸の事をしていなさい。庭の手入れや室の掃除、料理ができる者は厨に行き、裁縫ができる者は針室へ、天井や壁の補修などにも人手が必要だ」
「――」人々は口をあんぐりと開けて言葉を失った。
「そんな」一人が、望みを失ったかのように呟く。「そんな事をしている場合では」
「そうです」別の一人が追従する。「鬼が、攻めて来るのですよ」
「邸の事だの、料理だの、そんな呑気な事をしている場合じゃないでしょう」
「我々にはもっと他にやるべき事があるのではないですか」
「ではそれをするが良い」マトウはまた静かに言い、にこりと微笑んだ。「もっと何か、大事な事があるのであれば」
「だから」
「だからそれを、我々に教えて下さいと言っているのです」
「マトウ様がお決め下さい」
「我々にご指示を」
「何をすべきなのか、ご命令を」
「何をすべきか」マトウは笑みを消した。「それは、お前たちそれぞれの中にこそ在る」
「――」人々はまた言葉を失った。
「私の言葉の中に在るものではない」
「そんな」
「我々には、わからない」
「あなた様は何をお考えなのですか」
「あなた様は、我々がお嫌いなのか」
 人々は、戸惑いを口々に言い立てた。
「なんだか、不穏な様子になってるみたいだチイ」
 空の上から見下ろしながら、スルグーンが言った。
「そうでやす……ね」ケイキョも心配そうに、リョーマの背の上から下を覗き込む。「何の話でやしょう」
「私がお前たちを、嫌い?」マトウはひょいと眉を上げ、驚いたような顔をして訊き返した。「まさか」
「しかし」
「けれど」
「ではなぜ」
「何故私たちをお見捨てになるのか」
「見捨てる?」マトウはまた訊き返した。「見捨てる気ならば、ここに居て邸のことをしろなどとは言わぬ」
「しかし」
「けれど」
「ではなぜ」
 人々の問いは続く。
「まずここに居れば、私と共に居れば、玉帝の加護の下にあることができる」マトウは指を立てた。
 人々は、しんと静かになった。
「そしてここに皆が集まれば、個々人でよりも尚いっそう強い気持ちと意志をもって鬼と対峙できる」
 人々は、あ、という形に口を開いた。
「だが皆が集まるのであれば、その人数に合わせて邸の様相や造りに手を加える必要が出て来る。寝泊りする室の用意、食事の用意は無論のこと、邸そのものの防護も強固にせねばならぬ。それは、集まる皆の手すべてを合わせ、心を合わせて行わなければならぬ」
 人々は、言葉もなきまま息を大きく吸い込んだ。
「しかして皆は真に一体となり、まさに鬼をも恐れぬ個々の力を凌駕した大いなる力と成れるのだ」
「おお」
「まさしく」
「仰る通りだ」
「マトウ様」
「マトウ様!」
 群集は今や腹の底から歓喜して主たる陰陽師の名を叫び、気持ちを一にし両手を振り上げた。
「さすがでやすね」ケイキョがぼそりと呟く。「見事にまとめた」
「うんキイ」スルグーンも同意した。「あの女、聡明鬼に頼まれたことをちゃんと守ってるチイ」

 

          ◇◆◇

 

「お疲れ様でございました」リシが労い、マトウの手の器に酒を注いだ。
「我々が嫌いなのか、と問われたのは、初めてのことだ」マトウは面白そうににやりと笑い、酒を口に含んだ。「この私がそう言われるとはな」
「まことに」リシは愁眉を寄せ嘆息した。「やはり皆、この状況に少し精神を狂わせているものかと」
「人間は好きだ」マトウは室の天井を見上げた。「だが人間から特別の感情を向けられるのは嫌いだ」
「え――」リシは驚いて主の横顔を見た。
「と、昔私に向かって言った者がいた」マトウはリシに眼を向け、くくく、と喉を鳴らして笑った。
 ――リンケイ様だ。
 それを聞いた時、仔犬の姿で室の片隅に寝そべっていたリョーマはすぐに察した。
 人間を観察するのは好きだが、こちらに向かって特別な感情を振りかざして来られるのは好きじゃない。
 前の主は、その通りの人だった。
 リョーマは、そんな人に仕えて、ずっと傍に居たのだ。
「誰、ですか」リシは戸惑いながら訊ねた。「そんな事をマトウ様に言うなど」
「ふん」マトウは不敵の笑みを浮べ、もう一度酒を口に運んだ。「今は、地獄にいるらしいぞ。この私を出し抜いて」
「えっ」リシは驚いた。「鬼、でございますか」
「違う。人間だ」マトウは首を振る。「人間として、生きたまま地獄へ行った」
 ――やっぱり。
 リョーマはまたしても思った。
 やっぱり、リンケイのことだ。
「だが私はやって見せる」マトウは眼を閉じた。「どんな感情を向けられようとも、私は奴のごとく逃げたりなどせぬ」
「逃げたんじゃない」
「逃げたわけじゃありやせん」
「逃げてないチイ」
 仔犬と鼬と雷獣が、同時に反論した。
 マトウとリシには龍馬の声も聞こえるので、吃驚して振り向く。
「なるほどな」だがマトウはすぐに、また笑った。「だがあいつは確かに逃げたよ、この私からな」
「どうして、あんたから逃げなきゃいけないんだよ」リョーマはむきになって言い募った。
「感情を、散々向けてやったからだ」マトウはむっつりと答えた。「あいつの嫌いな、感情というものをな」
「――」リョーマは少しの間、考えた。
 リョーマにも、この女は見覚えのある存在だったのだ。
 かつて、主と共に陰陽道の修行をしていたと憶えている。
 そして確かにこの女は、やたらリンケイに対し口うるさく小言を言っていたのだ。
 マトウの方は、どうやらリョーマのことを憶えてはいないようだった。
 龍馬を見慣れ過ぎているせいか、人間ほどには龍馬になど興味がないせいかは知らないが、リョーマは面白くもなさげにぷいとそっぽを向いた。
「なんだお前チイ」スルグーンがずけずけと言い立てた。「あの陰陽師と友達だったのかキイ?」
「違う」今度はマトウが反論した。「友達などではない」
「じゃあなんだチイ」
「――共に」マトウは言い、それから手の器を見下ろして中の酒を飲み干した。「ずっと共に、陰陽道を極めたいと思っていた」
「共に?」仔犬と鼬と雷獣はまた同時に訊いた。
「そうだ。私があいつの足らぬ部分を補い、あいつの支えとなり、そうして世の悪霊を共に打ち払い、ずっと」
「夫婦になりたかったのかキイ?」スルグーンが訊いた。
「――」マトウは吃驚したように眼を見開いた。「まさか」声を枯らす。「でも、もしあいつが望むのであれば、私はそうなっても」
「でも望まなかったんだろ、ご主人さまは」リョーマは低い声で言った。
「――」マトウが、仔犬を恐る恐るのように見る。
「望まないだろうなチイ、あいつなら」スルグーンは頷く。
「そうでやすね」ケイキョも頷く。「何しろ人間が嫌い――じゃなくて、人間から特別な感情を向けられるのが嫌いな、お方でやしたからねえ」
「――」マトウは瞬きも忘れて床を見た。
「マトウ、様」リシは戸惑い、ただ主を呼ぶだけだった。
 マトウは無言で器を差し出し、リシは再びそれに酒を注いだ。

 

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評価:
(2019-04-29)
コメント:心は生れた時に目覚め力は成長とともに増幅し技は修業によって磨かれる──このディメンションに生れた者は、ただ闘いを覚える為育って行く。そこで出会った少女シャナと少年サイ。二人に待ち受ける運命とは──

葵マガジン 2020年02月22日号

  • 2020.03.10 Tuesday
  • 10:17

JUGEMテーマ:小説/詩

 

◇◆◇◆聡明鬼◆◇◆◇
第88話 共に在るもの(全100話)

 しかし、どうなのだろう――
 閻羅王は今、手許の生死簿を見下ろしていた。
 いつもの所作ではある。
 だが今日それを眺めつつ想うことは、不可思議の念の下にあった。
 手許に開くのは、リンケイについて書かれてある所だ。
 そこには、マトウという女――リンケイと師を同じくするという陰陽師の名が、恰もまとわりつくかのように散りばめられている。
 だがリンケイ本人は、それほどにもマトウという女を重く見ているようではなかった――それどころか名は思い出してもすぐに顔までは思い出せずにいたほどだ。
 見たところそれは決して、リンケイがわざと知らぬ振りをしているというのでもなさそうだった。
 けれど今見ている生死簿には――
「見方によっては」閻羅王は独り呟いた。「龍駿――聡明鬼よりもずっと重大な存在として記されておるな」
 ふう、と息をつく。
 このことは、さきほどまで一緒に居たリンケイに告げることはなかった。
 不可思議ではあるが、まだリンケイ本人が知るべきことではない。
 まだ、リンケイ本人が知ってよいことでは、ない。
「その時が来れば」また、独り呟く。「本人にも、儂にも判ることだ」

 

          ◇◆◇

 

「逃げるのではない」マトウは力の籠もった声で皆に語った。「道を探すのだ。あるべき、正しき理の下の道を」
「では」群衆の中の一人が問う。「鬼が襲って来ても、闘ってはならぬというのですか」
「身を隠し護りながら、言葉をかける術を探るのだ」マトウは答える。
「そんなこと」
「できっこありません」
「鬼に言葉など通じるわけがない」
 人々は口々に訴える。
「闘えば我等尊き人間が、鬼と同じ類の者となってしまう」マトウはひるまない。「我等人間は闘いではなく理と智をこそ、鬼たちに示し向けねばならぬ」
「――」
「でも」
「どう、やって」
 人々は戸惑う。
 今日のマトウの話の内容は、群集たちをまさに戸惑わせるものであった。
 人々が期待していたのは、もっと卑近な、実行し易い心の持ち方、行いの在り方についての教えだったのだ。
 しかし今日のマトウは、突然のように現実的な、そして出来る事ならば誰しもが見えぬ振りをして通り越してしまいたい“もの“を、直視させようと働きかけてくるのだった。
 群集の後ろの方に並ぶ者の中には、そっと足音を忍ばせて場を立ち去る者さえ幾足かいた。
 周囲に立つリシら従者は、そういった者たちを引き止めるべからずとの指示をあらかじめマトウより受けていた。
 なのでその場に佇んだまま微動だにしなかった。
「今、鬼に対峙できる降妖師たちとの連携を図っているところだ」マトウは声を張り上げる。「今、地獄の鬼どもは、一人の鬼の持つ打鬼棒という武器を恐れ、陽世に逃げ込んで来ている。そいつらが土地爺をそそのかし、脅かして、人間たちを足元にひれ伏させようと目論んでいるのだ。人間に打鬼棒は効かぬ。逆にそれを持つ降妖師が味方についてくれれば、我等とて鬼を恐れることなど少しもないのだ」
「打鬼棒」
「降妖師」
「おお」
「それがあれば」
「その人が居れば」
「鬼に勝てる!」
「我ら人間が、鬼に勝てる!」
「違う」マトウは首を振る。「勝つ負けるなどは考えるな。ただそれがあれば身を護れるというだけのことだ」
「しかし鬼どもに話など通じませんよ」
「叩き殺すしかありません」
「そうだ」
「そうだ」
「話を聞け」マトウは叫ぶが、人間たちはもはや従おうともしない。
「マトウ様」リシが流石に見かね、声をかけた。「収めましょうか」
「――」マトウは唇を噛む。
「お前たち」リシは振り向き、わあわあと騒ぐ聴衆に呼びかけた。
「玉帝さまがついていて下さる」だが続けて叫んだのは、マトウだった。
 群集は、しんと静かになった。
「私には、玉帝さまのご加護があるのだ」マトウは自分の胸に手を当てた。「鬼など、恐れてはいない。だが玉帝さまは血で血を争う地獄の様相など、この陽世の上に求めておられるだろうか。断じてそれはない」
「玉帝、さま」人々の口に、今初めてその名を聞いたかのように恐る恐るその名が上った。
「そうだ。玉帝さまだ」マトウは大きく頷く。「お前たちが私に従い、私と共にあるならば、無論お前たちも玉帝さまの加護の下に入れるのだ」
「玉帝さまが、我々をお守り下さるのですか」
「おお」
「素晴らしい」
「マトウ様と共に」
「我等もマトウ様と共に!」
 新たな叫びが次々と群集たちの中に巻き起こる。
「人間として、智恵と理性を取り戻すのだ」マトウはまとめにかかった。「鬼どもの足下になど、決してひれ伏さぬ。我等には玉帝さまの加護の光が常にあるのだ」言いながらマトウは、己の懐から胸に下げる碧の玉を取り出し、鎖を首から外して高く持ち上げた。
 壁の玉は陽の光を受け、きらきらと眩く輝いた。
 リシもまた、その碧の玉を眩しそうに眼を細めて仰いだ。
 ――聡明鬼……
 胸に想うのは、蓬髪と逞しく大きな背、そして自分の頬にそっと触れた、無骨な手。

 

「マトウの傍に居ろ」

 

 囁くように自分に告げた、声。
「皆の者」リシは碧玉を仰いだまま、声を高めた。「マトウ様と共にあらん」
「おお」
「うおお」
 人々は一斉に腕を高く掲げ、声を揃えた。
 マトウがリシを見、にこりと微笑む。
 リシもそれに応え、深く頷いた。
 共に心に在るのはきっと、碧の色を持つ眸だ。

 

          ◇◆◇

 

「鬼たちの様子はどのようになっているか」リンケイはことある毎に鬼差たちに訊いて回った。
 鬼差たちの答えは、初めは「特に変わりはない」「不穏な様子ではない」というものだった。
 だが次第に、少しずつ「なんだかそわそわして落ち着かぬ風だ」「我等が近づくだけでも体をびくつかせたり縮こまったりする鬼が出てきた」というものが交ざって来たのだ。
 リンケイは腕を組み、考えた。
 恐らくは、テンニが戻ってきたのだろう。
 体は――もしかすると、回復してしまったのかも知れぬ。
 どのようにしてか、それは今考えても埒の開かぬ事だ。
 自分への呪いの儀式の後、リューシュンはすぐに陰鎮鷲椶悗詫茲覆った。
 それが恐らくは、このテンニの復帰、ないし回復に関わりのある事には違いないだろう。
 そして実際にテンニが復帰、回復したのであれば、リューシュンは――或いはリューシュンとキオウ、ケイキョ、スルグーンらは、その手立てに失敗したのだ。
 事態は、猶予ならぬものとなって来たというわけだ。
 リンケイはくるりと向きを変え、コントクとジライの元を目指し走った。
 彼らは今、牛頭と馬頭の元にて三叉の手ほどきを受けていた。
 まずは、伝えよう。
 テンニが間もなく、森羅殿へとやって来るだろう事を。
 そして自分も剣を抜き、いつでも対峙できるよう態勢を整えておくのだ。
 リューシュンは――
 今、聡明鬼がどのような状態でどこを歩きまたは走っているのか、それも与り知らぬことではある。
 だが確実に、間違いなく、リューシュンもまた森羅殿を目指しているはずだ。
 どちらが、早く辿り着くのか。
 リンケイは走りながら、腰の鞘から斬妖剣を抜いた。
 ――共に、闘おうぞ。
 心に、黒き蓬髪と碧の色の眸を持つ鬼の顔を思い描き、にこりと笑いかける。
 聡明鬼が、深く頷く様子が眼に浮んだ。

 

          ◇◆◇

 

「山へ、行こうチイ」
 スルグーンは、そう提案した。
 提案したのは、ケイキョ、リョーマ、そして従者として得たフラにである。
「山?」皆は当然のように訊き返した。
「山って……山賊たちのいる、あの山ですかい?」ケイキョが問う。
「うん。そうだキイ」スルグーンは頷く。
「でも、何をしに?」リョーマも問う。
「おれたちが去った後、どうなったかを確かめに行くんだチイ」スルグーンは応える。
「つまり……山賊が勝ったのか、鬼どもが勝ったのか、を?」フラも問う。
「そうだキイ」もう一度頷く。
「それを確かめて、それからどうするんでやすか?」またケイキョが問う。
「山賊が勝っていたなら、それはそれでひとまず置いといていいチイ」スルグーンは皆を見回す。「けど、もしも鬼どもが勝っていたなら――」
「――」三足は、言葉をなくした。
 それぞれが、肌にうすら寒いものを感じたような顔をする。
「人間が、危ないってことだチイ」スルグーンは低く言った。「今、マトウとリシが、人間たちにいろいろ説いている所だキイ」
「――ああ」ケイキョが呑み込めた顔で頷く。「鬼どもがそれを知ったら」
「そうだチイ」スルグーンはばさり、と翼をはたいて空中に浮んだ。「マトウとリシが、危ないことになるキイ。行くぞチイ」
 そうして二頭の龍馬と、それぞれの背に乗った精霊そして奇獣は、山へと向かった。
 そこで見たものは、草木のすっかり焼け落ちた、乾いてからからの砂ばかりとなった山肌、瓦礫と化した山賊たちの元の住処、投げ飛ばされあちこちに転がる大小の岩、動物の、鳥の、そして人間の、骸の数々――
「鬼どもが、いない」リョーマが慄然と呟く。
「逃げたのか」フラも、辺りを見回しながら言う。
「死んでるのは人間たちだけでやす、ね」ケイキョは声を絞り出すように見た様を口にする。
「鬼どもは、殺されたとしても陰鎮鷲椶北瓩辰燭」スルグーンが考えを述べる。「鬼同士で喰らい合ったかチイ」
「うぐ」ケイキョが鼬の顔を歪める。
「どっちにしても、人間が勝ったようには見えないキイ」スルグーンは猫の眼を左右に揺らして言った。「鬼どもは山を降りて行ったんだチイ」
「じゃあ」リョーマがしゅるり、と馬の尾を巻く。「マトウたちの所へ」
「うん」スルグーンも頷く。「急ごうキイ」
 四足は、壮絶な戦の跡と成り果てた山を離れ、再び飛んだ。

 

          ◇◆◇

 

 天心地胆を抜けようとして、リューシュンははっと立ち止まった。
 自分が抜け出るのを押し戻すかのように、邪悪なものの気がその黒い淵の向こうから近づいて来るのを察したからだ。
 案の定、リューシュンよりも先にわらわらと、幾足もの鬼どもが姿を現して来たのだった。
「お前ら、何処に行くんだ」リューシュンは声を張り上げた。
「なんだ」
「お前は」
「聡明鬼か」
「お前こそ何処に行く」
「打鬼棒で血にされに行くのか」
「馬鹿な奴だ」
 鬼どもは肩を揺すってリューシュンを馬鹿にし笑い、さっさと立ち去ろうとした。
「待て」リューシュンは怒鳴った。「テンニがまた来たんだな。陰鎮鷲椶法
「ああ」
「来た」
「自分で見て来ればいい」
「そうしてさっさと血にされてしまえ」
 遠ざかりながら鬼どもは答える。
「それでお前らは、何処へ行くんだ。まさかまた、陽世に行くつもりじゃないだろうな」
 リューシュンの、怒声の問いかけに鬼どもは答えず、さっさと行こうとした。
「行かせるか」リューシュンは走り、近くの鬼から肩を掴んで引き戻した。
「貴様」
「離せ」
「人間の手下になりやがって」
「違う」リューシュンは怒りながらも鬼どもに手を伸ばす。「違うが、お前らの手下でもない。人間たちを傷つけに行くことは許さん」

 

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評価:
(2019-05-01)
コメント:「私」はその朝巨大なカエルに遭遇し、路上は命を賭した「だるまさんがころんだ」の戦場と化した──表題作ほか「さくらマーケット」「センチメンタル付属物」収録。女性主人公の、少しだけ不思議な日常世界を描いた短編集。
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葵マガジン 2020年02月15日号

  • 2020.03.10 Tuesday
  • 10:07

JUGEMテーマ:小説/詩

 

◇◆◇◆聡明鬼◆◇◆◇


第87話 訣別(全100話)

 

 大きな、背中だったな――
 そんなことを想う。
 聡明鬼のことだ。
 リシは、キオウという鬼が妻とともに一瞬で消えてしまった時、自身では一体何が起こったのかまったくわからないまま、激しく混乱し叫び呻き声を挙げてうずくまる聡明鬼――やがて力尽き果てたかのように地に突っ伏したまま震えるだけで呼びかけにもまったく応えぬ様となった聡明鬼を、龍馬トハキの背の上に乗せようとした。
 だが聡明鬼の逞しい体はびくとも動かせず、リシは為すすべもなかったのだった。
 トハキが尻尾を伸ばして来、聡明鬼の体に巻きつけ、持ち上げて自分の馬の背に乗せてくれた。
 つまり聡明鬼をトハキに乗せたのはリシではなく、トハキ自身だったというわけだ。
 にも関わらず、聡明鬼に訊かれた時リシは、自分がトハキの背に聡明鬼を乗せたとした。
 無論そのことでトハキが自分に怒ったりするなどということはない。
 しかし、リシは咄嗟にそのような“嘘”をついたのだ。
 何故だろう――
 自分でもよくわからないのだが、それはある意味では聡明鬼に対する虚栄心――負けたくないという、根拠のない想いの所為でもあったろうし、またある意味では聡明鬼に、自分への感謝の念を持たせたいという想いでもあったろう。
 どちらにせよ、決して清い心の在り方とはいえない。
 リシは眉をひそめ、ふう、と嘆息した。
 自分は、なんという未熟な行動をしてしまったのだろう――それにしても。
 大きな、背中だったな――
 邸まで戻る間、トハキの馬の背の上で支え続けた聡明鬼の背中を、また想う。
 支え続けた、といえども、それについてもやはり、大部分はトハキが飛びながら馬の尻尾を聡明鬼に巻きつけ落っこちないように支えてくれていたというのが実情だ。
 リシ自身はただ、後ろから聡明鬼の背に手を添えていたにすぎない。
 その背中のことを、想っているのだ。
 聡明鬼自身は一晩経つと大分気力を取り戻したようで、顔つきも以前のごとく意志に満ちたものになっていた。
 そのことには、リシも大いに安堵しているのだ。
 だがその先のことを、何故かリシは心の中で封じてしまい、見ないように――想わないようにしていた。
 それは、リシ自身でも気づかぬうち、無意識にそうしていたのだった。
 それはつまり、元気を取り戻した聡明鬼が、これからどうするのか、ということだった。
 けれど、どんなに見ないように、気づかないようにしたところで、それが立ち消えてしまうことは決してなかった。

 

「聡明鬼様ご一行が、明日お発ちになるとのことでございます」

 

 それを聞いたのは、マトウの室で壁際に控えていた時だった。
 従者がマトウに報せに来たのだ。
「まあ」マトウはしばらく言葉を失っていた。
 マトウにとっても、聡明鬼たちが去ってしまうことは寂寥に値することなのだ。
 そしてリシにとっては。
 リシは、それを聞きはしたが特に顔を振り上げるでも眼を見開くでもなく、ただ壁際に貼り付くように控え、前を見ていた。

 

          ◇◆◇

 

 ムイの、挽いたものを見る。
 それは、小さな茶色の甕の中に収められてあった。
 その天紙を破り、木蓋を引き抜き、テンニは中を覗き込んでいた。
 鬼の鼻に、懐かしき草の香りが届く。
 思わず、どこまでも吸い取らんとばかり大きく息を吸う。
 眼を閉じる。
 そのまま、テンニは息を止めていた。
 やがてゆっくりと、息を吹き出す。
 甕を持つ鬼の手が、小さく震え出す。
 ――儂は。
 隻眼を、ゆっくりと開く。
 ――これを……やっと手に、入れた。
 隻眼で、もう一度甕の中を覗き見る。
 ムイは黒味がかった濃い緑色をしており、砂のように乾いている。
 テンニは鬼の爪の先にほんの少しだけその粉をすくい取り、傍に用意した器の水の中に落とした。
 緑色の粉が、水面に浮かぶ。
 甕に木蓋を嵌め込み、そっと下に置いて、テンニは震える手で水の器を取り上げた。
 片方だけになった手で、持つ。
 黒く焦げたままの、鬼の手だ。
 そしてテンニは、その水を飲んだ。
 眼を閉じ、仰のいて、自分の体の中に水が――ムイが落ちてゆくのをじっと感じ取る。
 ――ああ。
 テンニは今、確かに思った。
 ――儂は……生き返る。
 その意識は、妙なものであった。
 鬼となった今、投胎もしていないのに「生き返る」ことはあり得ないのだ。
 にも関わらずテンニは今、間違いなく自分がこれから生き返るのだと信じて疑わなかった。
 一度死に、鬼となってまた死にかけたが、今度は鬼として生き返るのだ。
 ムイがあれば、自分は閻羅王に変わり人間と鬼との生死を、いつまででも掌握し管理し続けられる。
 陽世と陰界すべてを、支配し続けられる。
 ムイがあれば。

 

          ◇◆◇

 

 日が変わった。
 だが、今はまだ夜だ。
 真夜中で、半月は姿を隠している。
 それに代り小さな星々が、ここぞとばかり全天を覆い、ささやかながら輝きを競い合っている。
 庭の芝を、鬼の足が踏みしめる。
 星空を仰ぎ、しばらく眺めて、また一歩を踏み出す――そして止まる。
 行く手に佇む者がいたのだ。
 闇の中に立つ黒衣の者だが、鬼はそれが誰であるのかすぐにわかった。
「どうした」訊く。「こんな時間に」
「――それはこちらの科白だ」黒衣が答える。「私は今宵、見張りの番だ」
「そうなのか」鬼は言い、また歩を進める。
「何処へ行く」黒衣が訊く。「こんな時間に」
「――」鬼は少し置いて「地獄へ」と答えた。
 それから二足は闇の中、少しずつ慣れてきた眼で無言のまま互いを見た。
「世話になったな」鬼が言う。
「――」黒衣はいまだ言葉もなく、ただ鬼を見ていた。
 鬼はまた足を踏み出し、黒衣の傍を通り過ぎて行こうとした。 
 黒衣は振り向くが、言うべき言葉がわからない。
 首を振る。
「行くのか」
 リシは、大きな背中に投げつけるように、訊いた。
 リューシュンは肩越しに振り向き「ああ。行く」と答えた。
「もう、行くのか」リシはまた訊いた。
「ああ」リューシュンは頷いた。
「――」リシはじっと聡明鬼を見た。
「いろいろあったが、ありがとうな」リューシュンはにこりと笑った。「じゃあ」
「戻って来るのか」リシは急いでまた訊いた。
「――」今度はリューシュンが陰陽師見習いをじっと見た。「どうだろうな」首を傾げる。
「戻って来い」リシは続けて言ったが、その声は上ずり震えていた。
「なんでだよ」リューシュンは口を尖らせた。
「なんでもだ」
「どうしてだよ」
「どうしてもだ」
「――」リューシュンは少し黙ったが「ははは」と突然笑い出した。
「何が可笑しい」リシが肩をいからせる。
「最後まで、同じだな」リューシュンは肩を揺すって笑いながら言った。
「何が、同じなのだ」
「お前と俺の会話がだよ。最後まで、おんなじことを言い合ってる」
「――」リシは目線を足元に落とした。「最後……?」
「ああ」リューシュンは頭を掻いた。「すまん。最後じゃないかもな」
「また」リシは強く眼を閉じた。
「うん」リューシュンは頷いた。
「いつか」リシは眼を閉じたまま、また言った。
「うん」リューシュンも、また頷いた。
「――」リシは眼を開けもう一度聡明鬼を見た。
 聡明鬼も頷きながら陰陽師見習いを見た。
「きっと」リシはリューシュンを見ながら続けて言ったが、その声はかすれて声にならなかった。

 

 リューシュン

 

「――」リューシュンは、リンケイが陰鎮鷲椶帽圓前最後に自分の名を呼んだ時の声――それも声にならない、風のような声だった――を思い出した。
「――会いたい」
 リシは必死の様相で声を絞り出したが、それと同時に彼女の眼からは涙が溢れて頬にすべり落ちた。
 リューシュンが何かを答えようとする前に、その手は自然とリシの頬に伸びて涙を指で拭ってやっていた。
「ああ」それから、リューシュンは答え、そして笑った。「会おう」
 リシは自分の涙を拭う鬼の手をそのままに任せ、初めてにこりと微笑んだ。
 少し悲しげにも見える、微笑みだった。
 リューシュンは最後にもう一度、リシの頬に手を触れた。
 初めて触れる女の頬は柔らかく、その感触は手に心地よかった。
「マトウの傍にいろ」リューシュンは手を頬に触れたまま言った。
 リシは小さく頷いた。
「玉帝が護ってくれる」そう言いながらリューシュンは頬から手を離した。
 リシはまた小さく頷いた。
「またな。行ってくる」
 そう言って、聡明鬼は天心地胆に沈み込むように消えた。
 リシは真夜中の庭に、独り立っていた。
 今宵は見張りの番だ――彼女は聡明鬼に、そう言った。
 それも、本当のことではなかった。
 本当の見張りの番の者と、交代した――してもらったのだ。
 なんとはなしに、聡明鬼が夜の内に発つのではないかと、思い立ったからだ。
 ――最後まで……か。
 聡明鬼の消えた地点から、頭上の星空に眼を移す。
 ――最後まで、私も正直な行動を取らずじまいだった……否。
 ぎゅっと眼を瞑る。
 ――最後では、ない。
 自らに言い聞かせるかのように、リシは心で強くそう思った。
 それまでに自分の為すべきことも、ちゃんと解っているのだ。
 それはつまり、聡明鬼が自分に頼んだこと、人間と鬼との諍いを止めさせ間を取り持つということだ。
 眼を開ける。
 もう一度、涙が伝い落ちた。
 拭ってくれる鬼の指は、もうない。
 リシは、自分でそれを拭いた。
「また、会おう」
 鬼の消えた闇に向かって、呟く。
「ありがとう」

 

         ◇◆◇

 

 ――柔らかかったな。
 陰陽界を歩きながら、自分の手を見る。

 

 ざああああ

 

 周囲では今日も風ではない風の音が渦巻く。
 ――リンケイに、話してやろう。
 手を見る内、ふとそんなことを思う。
 ――あいつ、女を抱いたから自分の勝ちだとか何とか言っていやがったからな……まあ、俺も抱いたわけじゃあないが。
 手を下ろし、歩を早めて歩く。
 ――そうだ、女に『あれをしてやった』と言ってやろう。
 歩きながら、にやりと笑う。
 ――あいつ、あの切れ長の目を見開いて『本当か』と驚くだろうな。
 くくく、と歩きながら肩を揺する。
 そんなことを独り思う内、潜るべき天心地胆が見えて来た。
 リューシュンは顔を引き締めて、そこへ飛び込んだ。

 

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評価:
(2019-05-14)
コメント:神との邂逅を繰り返すことで、石は透明度を増してゆく──トレシアは自分の持つべき石を見つけたばかりだった。神に訊ねることはいつも一つ。愛する人にいつめぐり合えるのか──そんな無邪気な少女の前に現れた少年、ラミイ。二人は楽しく過ごし、二人だけの秘密を分かち合った。けれど平和な日々はつづかなかった──長編恋愛ファンタジー。

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 60

  • 2020.02.19 Wednesday
  • 17:13

JUGEMテーマ:小説/詩

 

「地母神界、というのだそうよ」祖母は、肩越しに私たちをふり向いて話した。「アポピス類たちがつくろうとしているのは、国ではなく、菜園界や泡粒界、それに鬼魔界とならぶ、世界そのものだと」

「ええっ」

「世界?」

「なんといいますことでございましょう」

「すげえな」私たちはびっくりして叫んだ。

「そう、そしてその世界に、ユエホワを連れて行きたいと、そういっていたわ」

「俺を――」ユエホワが眉をひそめてつぶやいた。

「ええ」祖母はうなずいた。「同じ赤き目を持つ者として、と」

 全員が、黙った。

 私はそっと、アポピス類の魔法大生の三人の方を見た。

 三人とも、足元を見おろしてこおりついたようにたちすくんでいた。

 

 翌朝、私と鬼魔たちは祖母に別れをつげて丸太の家を出た。

 今日、学校は休みだ。天気もいい。

 アポピス類の三人は、いっしょにすんでいるこの町での彼らの家に帰るといい、ユエホワはどうするか、歩きながら考えるといった。

 私は祖母から、よくよくユエホワを守るように、と言いつけられて、家に帰ることにしたのだった。

 キャビッチ畑の近くを通り過ぎるとき、皆は言葉もなく顔を横にむけて畑のようすを見ながら歩いた。

 畑はとくに変わりなく、朝の太陽の光をあびて、キャビッチもほかの野菜もおだやかにそこに存在していた。

「ふしぎな感じだな」最初に言葉を口にしたのは、ケイマンだった。「信じられないような……夢を見てたような感じだ」

「さいでございますね、本当に」サイリュウも歩きながらうなずく。「月夜の光が見せた、幻の世界でございましたかのような」

「キャビッチを投げるスピードが尋常じゃねえ」ユエホワが歩きながらうつむき首をふる。「あんなの、太刀打ちできるはずがない」

「ああ。あんなスロー今まで見たこともないし話に聞いたこともない」ルーロも早口で呟いた。

 私はだまって歩いていたけれど、頭の中ではゆうべの、夢でも幻でもない現実の祖母のキャビッチスローを思い出していた――とはいっても。

 あれは、キャビッチスロー、だったのだろうか?

 だって祖母は、キャビッチそのものには指一本触れることもなかったのだ。

 最初の一撃めだけは、直接持っていたものを投げたようだけど、私はそれを見ていなかった。

 それを見ていたのはユエホワだけだ。

 でも、そのユエホワも「見えなかった」と言っていた。

 そのスローは、私に教えるときとはまったく違うやり方のものなんだ。

 まあそれはそうだろう。

 見えなかったら、投げ方を教えてることにならないもんね。

 今まで私が見ていた祖母のキャビッチスローは、いったい祖母の本当の力の何分の一――いや、何十分の一、もしかしたら何百分の一、なんだろうか。

「それもだけど……『地母神界』てのがさ」ケイマンは歩きながら腕組みをした。「なんなんだよ」

「アポピス類だけが棲む世界、ってことなのか」ルーロが眉をひそめる。「いったいどうやってつくったんだ、そんな世界」

「さいでございますね」サイリュウもうなずく。「国、ではなく世界、でございますですからね」

「俺思うんだけど」ユエホワが、考えながら歩き、その考えを口にした。「一から世界をつくるなんて無理だよ絶対。だから、もしかしたら他の、今すでに存在してる世界のどこかに、やつら一族ですみついてるとかじゃないのかな」

「シンリャクってやつ?」私は歩きながらユエホワにきいた。

「その可能性もあるし、もしかしたらだれもすんでない、無人の世界を見つけたのかも知れないしな」ユエホワは引きつづき考えながら歩き、その考えを答えた。

「無人の世界なんてあるの?」私は歩きながら目をまるくした。

「どこかにはあるらしいって話は、きいたことあるぞ」ユエホワはあいかわらず考えながら歩き、答えた。

「さいでございますね」サイリュウが歩きながらうなずく。「たしかにきいたことはこざいますです」

「なるほど、だれもすんでない世界なら、地母神界とか好きな名前つけたってかまわないだろうからな」ケイマンも歩きながらうなずく。

「子供がおもちゃ見つけたようなもんだよな」ルーロがせせら笑いながら毒づく。

「妖精たちも、いっしょに行ってるのかな、その世界に」私はつぶやいた。

 他の皆は少しの間だまってしまったが、やがてユエホワが「そうだろうな」と答えた。「地母神界で、やつらに“飼われて”るんだろう」

「助けに、いくの?」私はきいた。

 だれも、答えなかった。

 私も、答えられなかった。

 助けにいくって、誰が?

 ユエホワが?

 魔法大生が?

 祖母が?

 ハピアンフェルが?

 それとも――いや。……。……。……。

「お前が?」ユエホワがきき返した。

 私は、答えなかった。

「おお」

「さすがでございますです」

「勇敢なヒーローだ」アポピス類たちがはやしたてた。

 私は、いっさい何もいわなかった。

 さっさと帰ろう。

 きっと母も父も、祖母からのツィックル便を受け取って私の帰りを待っているだろう。

 こんなところでもたもたしている場合じゃない。

 私は歩く足をはやめた。

「けどそうなると、こっちも軍勢をととのえて攻め込む必要があるよな」性悪鬼魔の声がななめうしろから聞こえてきたけど、私はふりむかなかった。

「そうだよな」

「でございますけれども、どなたにお願いをいたせばよろしいのでしょうか」

「あの呪いの祭司にでも頼むか」

「呪いの祭司? って、ルドルフ祭司さまのこと?」私は思わず足を止めてふりむいた。

 四人の鬼魔たちは、横一列にならんでいっせいにうなずき、にやりと笑った。

 

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評価:
(2019-05-07)
コメント:ある日ポピーと彼女のライバル(?)である鬼魔(キーマ)のユエホワの前に、とつぜん白い光とともに一人のお姫さまが現れた。その人の名は、サルシャ姫──泡粒界という世界の王女だったのだ。サルシャ姫のいた世界は今、侵略者に乗っ取られ、大地も海も人々も瀕死の状態にあった。もしこのまま泡粒界がなくなったら、とんでもないことになる──ポピーは、泡粒界を救うべく立ち上がる決意をした。

葵マガジン 2020年02月15日号

  • 2020.02.19 Wednesday
  • 16:42

JUGEMテーマ:小説/詩

 

◇◆◇◆聡明鬼◆◇◆◇


第87話 訣別(全100話)

 

 大きな、背中だったな――
 そんなことを想う。
 聡明鬼のことだ。
 リシは、キオウという鬼が妻とともに一瞬で消えてしまった時、自身では一体何が起こったのかまったくわからないまま、激しく混乱し叫び呻き声を挙げてうずくまる聡明鬼――やがて力尽き果てたかのように地に突っ伏したまま震えるだけで呼びかけにもまったく応えぬ様となった聡明鬼を、龍馬トハキの背の上に乗せようとした。
 だが聡明鬼の逞しい体はびくとも動かせず、リシは為すすべもなかったのだった。
 トハキが尻尾を伸ばして来、聡明鬼の体に巻きつけ、持ち上げて自分の馬の背に乗せてくれた。
 つまり聡明鬼をトハキに乗せたのはリシではなく、トハキ自身だったというわけだ。
 にも関わらず、聡明鬼に訊かれた時リシは、自分がトハキの背に聡明鬼を乗せたとした。
 無論そのことでトハキが自分に怒ったりするなどということはない。
 しかし、リシは咄嗟にそのような“嘘”をついたのだ。
 何故だろう――
 自分でもよくわからないのだが、それはある意味では聡明鬼に対する虚栄心――負けたくないという、根拠のない想いの所為でもあったろうし、またある意味では聡明鬼に、自分への感謝の念を持たせたいという想いでもあったろう。
 どちらにせよ、決して清い心の在り方とはいえない。
 リシは眉をひそめ、ふう、と嘆息した。
 自分は、なんという未熟な行動をしてしまったのだろう――それにしても。
 大きな、背中だったな――
 邸まで戻る間、トハキの馬の背の上で支え続けた聡明鬼の背中を、また想う。
 支え続けた、といえども、それについてもやはり、大部分はトハキが飛びながら馬の尻尾を聡明鬼に巻きつけ落っこちないように支えてくれていたというのが実情だ。
 リシ自身はただ、後ろから聡明鬼の背に手を添えていたにすぎない。
 その背中のことを、想っているのだ。
 聡明鬼自身は一晩経つと大分気力を取り戻したようで、顔つきも以前のごとく意志に満ちたものになっていた。
 そのことには、リシも大いに安堵しているのだ。
 だがその先のことを、何故かリシは心の中で封じてしまい、見ないように――想わないようにしていた。
 それは、リシ自身でも気づかぬうち、無意識にそうしていたのだった。
 それはつまり、元気を取り戻した聡明鬼が、これからどうするのか、ということだった。
けれど、どんなに見ないように、気づかないようにしたところで、それが立ち消えてしまうことは決してなかった。

 

「聡明鬼様ご一行が、明日お発ちになるとのことでございます」

 

 それを聞いたのは、マトウの室で壁際に控えていた時だった。
 従者がマトウに報せに来たのだ。
「まあ」マトウはしばらく言葉を失っていた。
 マトウにとっても、聡明鬼たちが去ってしまうことは寂寥に値することなのだ。
 そしてリシにとっては。
 リシは、それを聞きはしたが特に顔を振り上げるでも眼を見開くでもなく、ただ壁際に貼り付くように控え、前を見ていた。

 

          ◇◆◇

 

 ムイの、挽いたものを見る。
 それは、小さな茶色の甕の中に収められてあった。
 その天紙を破り、木蓋を引き抜き、テンニは中を覗き込んでいた。
 鬼の鼻に、懐かしき草の香りが届く。
 思わず、どこまでも吸い取らんとばかり大きく息を吸う。
 眼を閉じる。
 そのまま、テンニは息を止めていた。
 やがてゆっくりと、息を吹き出す。
 甕を持つ鬼の手が、小さく震え出す。
 ――儂は。
 隻眼を、ゆっくりと開く。
 ――これを……やっと手に、入れた。
 隻眼で、もう一度甕の中を覗き見る。
 ムイは黒味がかった濃い緑色をしており、砂のように乾いている。
 テンニは鬼の爪の先にほんの少しだけその粉をすくい取り、傍に用意した器の水の中に落とした。
 緑色の粉が、水面に浮かぶ。
 甕に木蓋を嵌め込み、そっと下に置いて、テンニは震える手で水の器を取り上げた。
 片方だけになった手で、持つ。
 黒く焦げたままの、鬼の手だ。
 そしてテンニは、その水を飲んだ。
 眼を閉じ、仰のいて、自分の体の中に水が――ムイが落ちてゆくのをじっと感じ取る。
 ――ああ。
 テンニは今、確かに思った。
 ――儂は……生き返る。
 その意識は、妙なものであった。
 鬼となった今、投胎もしていないのに「生き返る」ことはあり得ないのだ。
 にも関わらずテンニは今、間違いなく自分がこれから生き返るのだと信じて疑わなかった。
 一度死に、鬼となってまた死にかけたが、今度は鬼として生き返るのだ。
 ムイがあれば、自分は閻羅王に変わり人間と鬼との生死を、いつまででも掌握し管理し続けられる。
 陽世と陰界すべてを、支配し続けられる。
 ムイがあれば。

 

          ◇◆◇

 

 日が変わった。
 だが、今はまだ夜だ。
 真夜中で、半月は姿を隠している。
 それに代り小さな星々が、ここぞとばかり全天を覆い、ささやかながら輝きを競い合っている。
 庭の芝を、鬼の足が踏みしめる。
 星空を仰ぎ、しばらく眺めて、また一歩を踏み出す――そして止まる。
 行く手に佇む者がいたのだ。
 闇の中に立つ黒衣の者だが、鬼はそれが誰であるのかすぐにわかった。
「どうした」訊く。「こんな時間に」
「――それはこちらの科白だ」黒衣が答える。「私は今宵、見張りの番だ」
「そうなのか」鬼は言い、また歩を進める。
「何処へ行く」黒衣が訊く。「こんな時間に」
「――」鬼は少し置いて「地獄へ」と答えた。
 それから二足は闇の中、少しずつ慣れてきた眼で無言のまま互いを見た。
「世話になったな」鬼が言う。
「――」黒衣はいまだ言葉もなく、ただ鬼を見ていた。
 鬼はまた足を踏み出し、黒衣の傍を通り過ぎて行こうとした。 
 黒衣は振り向くが、言うべき言葉がわからない。
 首を振る。
「行くのか」
 リシは、大きな背中に投げつけるように、訊いた。
 リューシュンは肩越しに振り向き「ああ。行く」と答えた。
「もう、行くのか」リシはまた訊いた。
「ああ」リューシュンは頷いた。
「――」リシはじっと聡明鬼を見た。
「いろいろあったが、ありがとうな」リューシュンはにこりと笑った。「じゃあ」
「戻って来るのか」リシは急いでまた訊いた。
「――」今度はリューシュンが陰陽師見習いをじっと見た。「どうだろうな」首を傾げる。
「戻って来い」リシは続けて言ったが、その声は上ずり震えていた。
「なんでだよ」リューシュンは口を尖らせた。
「なんでもだ」
「どうしてだよ」
「どうしてもだ」
「――」リューシュンは少し黙ったが「ははは」と突然笑い出した。
「何が可笑しい」リシが肩をいからせる。
「最後まで、同じだな」リューシュンは肩を揺すって笑いながら言った。
「何が、同じなのだ」
「お前と俺の会話がだよ。最後まで、おんなじことを言い合ってる」
「――」リシは目線を足元に落とした。「最後……?」
「ああ」リューシュンは頭を掻いた。「すまん。最後じゃないかもな」
「また」リシは強く眼を閉じた。
「うん」リューシュンは頷いた。
「いつか」リシは眼を閉じたまま、また言った。
「うん」リューシュンも、また頷いた。
「――」リシは眼を開けもう一度聡明鬼を見た。
 聡明鬼も頷きながら陰陽師見習いを見た。
「きっと」リシはリューシュンを見ながら続けて言ったが、その声はかすれて声にならなかった。

 

 リューシュン

 

「――」リューシュンは、リンケイが陰鎮鷲椶帽圓前最後に自分の名を呼んだ時の声――それも声にならない、風のような声だった――を思い出した。
「――会いたい」
 リシは必死の様相で声を絞り出したが、それと同時に彼女の眼からは涙が溢れて頬にすべり落ちた。
 リューシュンが何かを答えようとする前に、その手は自然とリシの頬に伸びて涙を指で拭ってやっていた。
「ああ」それから、リューシュンは答え、そして笑った。「会おう」
 リシは自分の涙を拭う鬼の手をそのままに任せ、初めてにこりと微笑んだ。
 少し悲しげにも見える、微笑みだった。
 リューシュンは最後にもう一度、リシの頬に手を触れた。
 初めて触れる女の頬は柔らかく、その感触は手に心地よかった。
「マトウの傍にいろ」リューシュンは手を頬に触れたまま言った。
 リシは小さく頷いた。
「玉帝が護ってくれる」そう言いながらリューシュンは頬から手を離した。
 リシはまた小さく頷いた。
「またな。行ってくる」
 そう言って、聡明鬼は天心地胆に沈み込むように消えた。
 リシは真夜中の庭に、独り立っていた。
 今宵は見張りの番だ――彼女は聡明鬼に、そう言った。
 それも、本当のことではなかった。
 本当の見張りの番の者と、交代した――してもらったのだ。
 なんとはなしに、聡明鬼が夜の内に発つのではないかと、思い立ったからだ。
 ――最後まで……か。
 聡明鬼の消えた地点から、頭上の星空に眼を移す。
 ――最後まで、私も正直な行動を取らずじまいだった……否。
 ぎゅっと眼を瞑る。
 ――最後では、ない。
 自らに言い聞かせるかのように、リシは心で強くそう思った。
 それまでに自分の為すべきことも、ちゃんと解っているのだ。
 それはつまり、聡明鬼が自分に頼んだこと、人間と鬼との諍いを止めさせ間を取り持つということだ。
 眼を開ける。
 もう一度、涙が伝い落ちた。
 拭ってくれる鬼の指は、もうない。
 リシは、自分でそれを拭いた。
「また、会おう」
 鬼の消えた闇に向かって、呟く。
「ありがとう」

 

         ◇◆◇

 

 ――柔らかかったな。
 陰陽界を歩きながら、自分の手を見る。

 

 ざああああ

 

 周囲では今日も風ではない風の音が渦巻く。
 ――リンケイに、話してやろう。
 手を見る内、ふとそんなことを思う。
 ――あいつ、女を抱いたから自分の勝ちだとか何とか言っていやがったからな……まあ、俺も抱いたわけじゃあないが。
 手を下ろし、歩を早めて歩く。
 ――そうだ、女に『あれをしてやった』と言ってやろう。
 歩きながら、にやりと笑う。
 ――あいつ、あの切れ長の目を見開いて『本当か』と驚くだろうな。
 くくく、と歩きながら肩を揺する。
 そんなことを独り思う内、潜るべき天心地胆が見えて来た。
 リューシュンは顔を引き締めて、そこへ飛び込んだ。

 

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(2019-04-02)
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  • 2020.02.13 Thursday
  • 23:07
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(2019-05-11)
コメント:ある日ポピーと彼女のライバル(?)である鬼魔(キーマ)のユエホワの前に、とつぜん白い光とともに一人のお姫さまが現れた。その人の名は、サルシャ姫──泡粒界という世界の王女だったのだ。サルシャ姫のいた世界は今、侵略者に乗っ取られ、大地も海も人々も瀕死の状態にあった。もしこのまま泡粒界がなくなったら、とんでもないことになる──ポピーは、泡粒界を救うべく立ち上がる決意をした。

JUGEMテーマ:小説/詩

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 59

  • 2020.02.11 Tuesday
  • 06:17

JUGEMテーマ:小説/詩

 

 私たちは、畑から十メートルぐらいはなれたところに立つミイノモイオレンジの木の陰から、そっとのぞいた。

 月明かりが畑を照らしている。

 祖母は畑のはしっこに、私たちに背を向ける位置で立ち、右手に一個キャビッチを持って、斜め上を見上げていた。

 見上げている先には、祖母の言っていたとおり五人の人が――いや、人の形をした鬼魔が、空中に浮かんでいた。

 全員、マントを身につけている。

 アポピス類だ。

 

「どういうことだ?」

 

 空中に浮かぶアポピス類の一人が、祖母を見おろしながらそうきいた。

「言ったとおりよ」祖母が答える。「あなたたちのつくろうとしている世界に、どうしてもユエホワを連れて行きたいというのならば、王様として迎えなさいといっているの」

「ふざけるな」質問したのとは別のアポピス類がどなる。「おとなしくユエホワをこっちへよこせ」

 私とケイマンとサイリュウとルーロはいっせいにユエホワを見た。

 ユエホワがはっと目を見ひらく。

 

 どかっ

 

 そのとき、はでな音が聞こえた。

 キャビッチがぶつかる音だ。

 私とケイマンとサイリュウとルーロはいっせいに畑を見た。

 浮かんでいるアポピス類の一人――というか一匹が、どさっと地面の上に落ちた。

「う、わ」ユエホワが声をつまらせる。

「なに」

「どうした」

「なにがございましたでしたか」

「キャビッチスローか」みんながいっせいにきく。

「見えなかった」ユエホワが声にもならずにささやき返す。「でも、投げたんだと……思う」

 見えなかった?

 暗くて?

 いや、そうじゃない。

 速すぎて――だ。

 たしかに、祖母の右手にはもうキャビッチがなくなっていた。

 私たちがユエホワを見たその瞬間に、祖母がそれを投げたのだ。

「これが答えよ」静かな声で、祖母が言った。「まだなにか?」

「く」アポピス類たちは、落っこちた仲間をくやしげに見おろしたあとまた祖母をにらみつけ「ディガム」「ゼアム」と口々にさけんだ。

 祖母が、氷の像のようにぴたりと動かなくなった。

「まずい」ユエホワがあせったような声で言う。

「これは」ケイマンがつづけて言う。

「魔法封じですね」サイリュウも言う。

「動きを封じるやつだ」ルーロも言う。

 私はなにも言わず、というかなにも考えず、キャビッチをストレートで投げていた。

 それは残った四匹の、私たちからみて右から二番めのアポピス類の鼻面に当たった。

 

 ぼこっ

 

「ぐっ」キャビッチを食らったやつは三メートルぐらい後ろへふき飛んだが、地面に落っこちるまではいかなかった。

「やった」ケイマンがこぶしを握って言う。

「すばらしいでございます」サイリュウが感動の声で言う。

「コントロールいいな」ルーロがつぶやくように言う。

 ユエホワはなにも言わない。

 私もなにも言わず、そして唇をきゅっとかみしめた。

 音が、ずいぶんとちがう。

 私が投げたのと、さっき祖母か投げたのと。

 音の重さ、つまりキャビッチの攻撃力が、何十倍――もしかしたら何百倍も、差がある感じだ。

 

「やっぱり来ちゃったのね」

 

 祖母が、私たちに背を向けたままで言った。

「え」私たちはその背中を見た。

「頼むわよ、ポピー」祖母はくるっとふりむき、月明かりの下でにこっと笑ったかと思うとつぎの瞬間にはもういちど前を向きながら右手を下からスプーン投げの形に振り上げた。

 

 どかっ

 

 またしてもさっきと同様の重い音が響いて、左から二番目のアポピス類がぽーんと投げ上げられるかのように上空へ飛んでゆき、そのあとどさっと地面に落っこちた。

「え」

「今のは」

「投げたのか」

「速い」私の後ろにいる鬼魔たちはまたかすれ声でささやき合う。

 私も、祖母が投げたキャビッチは見えなかった――いや、その前に、祖母はキャビッチを、手に持っていなかったんじゃなかったか?

「なぜ効かない」残ったマントのアポピス類が叫ぶ。「あの小娘の時とおなじだ」

 あの小娘――って、もしかして私のこと?

 そうか。

 もちろん祖母も、防御魔法のマハドゥをあらかじめ自分にかけておいたのだ。

「効いたわよ」けれど祖母は首を振った。「ただ解いただけ」

「なに」アポピス類がびっくりした。

 私たちもびっくりした。

 いや、確かにやつらが呪文をとなえたとき、一瞬祖母は氷の像のように固まったのを私も見たんだった。

「解いただと。いったいどうやって」アポピス類が叫んだその言葉は、そのまま私が心の中で思っていたものだった。

「あなた今、自分がどこにいるのかわかっているの?」祖母は両腕を広げてゆっくりと横に回し、まわりのキャビッチ畑をしめした。「ここは私の手の上もおなじよ」

「う」アポピス類たちはあらためて自分たちの足の下に広がる畑を見おろし、見回し、声をうしなった。

「まあ、あなたたちにも急いでユエホワを連れて行きたいという事情があったのだろうけれど、それにしても無謀な作戦だったわね。いきなり私の家を強襲しにくるだなんて」話しながら祖母がゆっくりとその両手を上にもち上げると、土の上にいたキャビッチたちがそれにつられるようにゆっくり、空中にうかび上がった。

「うわ」

「おお」

「ええっ」

「すげえ」私たちも目を見ひらいてその光景に目をうばわれた。

 いったい、何個――いや、何十個、うかび上がったんだろう。

 畑じゅうに、浮かぶキャビッチの姿がはるか遠くまで見えていた。

「せいぜい選択の間違いをくやむことね。もうおそいけど」祖母はそう言ってから、両手を下にふりおろした。

 空中に浮かぶキャビッチが、いっせいにマント姿のアポピス類たちに向かって飛び始めた。

 それらのスピードは圧倒されるほどに速く、残り三匹のアポピス類たちによけるすきをいっさい与えず、四方八方から容赦なくつぎつぎにぶつかった。

「うわあああ」

「ひいいい」

「わああああ」悲鳴をあげながら、アポピス類たちは下に落ちることも逃げることもできず、キャビッチの攻撃を受けつづけた。

「うわあ」

「痛そう」

「すげえ」

「こええ」私たちもその光景をまのあたりにして身をふるわせた。

 おまけにその攻撃は、祖母が空中に持ち上げたキャビッチすべてが使われているわけではなく――その、ほんの一部のものだけが、アポピス類に向かっていったのだ。

 つまりキャビッチはまだまだ、彼らの周りにたくさん、ありあまるほど存在しているのだ。

 やがてアポピス類たちは悲鳴すらあげなくなった。

 そしてキャビッチの攻撃も、終わった。

 アポピス類たちはそろって地面にどさっと落ちた。

「世界壁の外に、お迎えが来ているようね」祖母は、月が照らす夜空を見上げて言った。「ここで寝かせておくのも邪魔になるから、連れ帰ってもらいましょう」

 そうしてもういちど、両手を高くさし上げると、空中に浮かんでいた残りのキャビッチたちが、今度はすべて動き出し、畑の上にのびているアポピス類たちを手分けしてかこんだ。

 

 しゅるん

 

 いっせいに、鬼魔の体にとりついたキャビッチたちが消える音がした。

 すると五匹のアポピス類たちの体は、気をうしなったままふわりと持ち上げられ、そのまま夜空のかなたへ音もなくもち運ばれていった。

 見えない、キャビッチたちの力で。

「世界壁の、外」ユエホワが、ささやくような小声で言う。「そんなとこまで、魔法が続くのか」

 

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評価:
(2019-05-11)
コメント:ある日ポピーと彼女のライバル(?)である鬼魔(キーマ)のユエホワの前に、とつぜん白い光とともに一人のお姫さまが現れた。その人の名は、サルシャ姫──泡粒界という世界の王女だったのだ。サルシャ姫のいた世界は今、侵略者に乗っ取られ、大地も海も人々も瀕死の状態にあった。もしこのまま泡粒界がなくなったら、とんでもないことになる──ポピーは、泡粒界を救うべく立ち上がる決意をした。

いい音なんですが

  • 2020.02.07 Friday
  • 22:08

 

 シール剥がす辺りの執念がすごい。

 でもほんと、いい音。いいね。木。

 

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評価:
(2019-04-23)
コメント:サイボーグ・クルー達を乗せた船は、その惑星に辿り着いた。惑星の住民たちは彼らの到着を、その「匂い」によって知った。少年リムは新たな世界への旅立ちを信じ、愛する少女ネヴィと共に船を捜しに出かけた。やがてサイボーグ・クルー達にも「匂い」は届き、そして彼らは1人、また1人と、消息を絶って行った――
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melma! サービス終了に伴う葵マガジンの再登録のお願い

  • 2020.02.05 Wednesday
  • 20:06

葵マガジン

 

 いつも拙メルマガをご購読頂きまして、誠にありがとうございます。

 えーこの度、melma! がサービス終了となったもようでございまして、本日先ほど、現連載中の『聡明鬼』第86話を配信予約しようとしたらどーしてもなんかいやってもボタンがぷち。できなくなっていた! という。

 えっなんで? メンテ? システム不具合? と思ってmelma! サイト内を駆けずり回って情報を探したところ、なんと1月末をもちましてサービス終了。と。

 うっひーぎゃっふー初めて知ったぜ蚊帳の外!

 

 でまあ、気を取り直しまして、以後『葵マガジン』をメールにてお読み頂くためには、大変お手数をおかけしますが以下より再度購読手続きの程を、何卒よろしく御願い奉りまする!

 

https://www.mag2.com/m/0001683577.html

 

 はい、今後とも、拙メルマガ『葵マガジン』を、どうぞ宜しくお願い致します!

 

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評価:
(2019-05-01)
コメント:【無料キャンペーン中!】「私」はその朝巨大なカエルに遭遇し、路上は命を賭した「だるまさんがころんだ」の戦場と化した──表題作ほか「さくらマーケット」「センチメンタル付属物」収録。女性主人公の、少しだけ不思議な日常世界を描いた短編集。

魔法野菜キャビッチ3・キャビッチと伝説の魔女 58

  • 2020.02.05 Wednesday
  • 11:01

「来たわ」ハピアンフェルが告げた。「アポピス類よ」

 私たちははっと窓の方を見た。

 なにかが光っているわけではない。

「四匹……いえ、五匹はいるわね」祖母が唇にひとさしゆびを当てて気配をさぐる。「畑の上空まで来た」

「姿は、消してるの?」私は祖母にきいた。

「わからないわ……でもおそらくはそうでしょうね。まずはピトゥイをかけておきましょう」祖母はそう言い、右手をひらいて肩の上にまで持ち上げ、それからきゅっとその手をにぎりしめた。「ポピー」私を呼ぶ。

「はい」

「マハドゥをかけておきなさい」祖母はうなずきながらいう。「防御魔法を」

「はい」私はリュックからキャビッチを取り出し、右手に乗せた。「マハドゥーラファドゥークァスキルヌウヤ」唱えると、キャビッチはしゅるん、と消えた。

 さっき、ユエホワにうながされておさらいしておいてよかった、と思った。あれをしていなかったらたぶん、今みたいにすらすらっと呪文は出てこなかっただろう。

 

「出て来い、穢れた人間のおんぼろ魔女」

 

 突然そう怒鳴る声が聞こえた。

 祖母のキャビッチ畑の方からだ。

 はあ、と祖母が大きくため息をついた。「なんて下品な呼び方をするのかしら。まったく」

「光使いたちは森の中へ逃げていったわ」ハピンフェルが報告した。「いまアポピス類たちは、姿をあらわしているはずよ」

「わかったわ」祖母がうなずく。「じゃあ、ひさしぶりに投げてくるわ」テラスのガラス戸を、いきおい良く開けはなつ。

「おばあちゃん」思わず呼びとめる。

「ポピー、ここで皆を守っていて」祖母は背を向けたまま私にいった。「万一あのおんぼろ鬼魔が攻めてきたら、遠慮せず投げつくしなさい」

「はい」私はうなずいた。

「気をつけて、ガーベランティ」ハピアンフェルも声をはり上げる。

「ユエホワ、俺たちどうすれば」ケイマンがあせったような声でいう。

「――」ムートゥー類は、出て行く祖母の背中をじっと見ていた。「まずは、様子を見よう」つぶやくようにいう。

 本当をいうと――いや、いうまでもなく、私も祖母といっしょに戦いたかった。祖母といっしょに、キャビッチでおんぼろアポピス類をやっつけたかった。

 きっと、あっという間にその戦いは終わるのだろうけれど――ピトゥイで姿が見えるようになっている今こそ、今度こそ、リューイとエアリイの同時がけを思いっきりあびせてやりたかった。

「ガーベラさんがやつらを引きつけてる間に、やつらの死角へ回りこんで攻撃するのもいいんじゃねえか」ルーロが早口で作戦を提示する。

「いや、その死角にたどりつく前にこっちがやられるリスクの方が高いだろ」ユエホワは首をふる。

「ていうか、ガーベラさん一人でだいじょうぶなのか」ケイマンが心配そうにいう。「アポピス類五匹を相手になんて」

 自分と同類の鬼魔を“匹”で数えるのも、私にはふしぎな感じがした。

 この人たち、本当にアポピス類なのかな?

 まさか、本当は人間なんてこと、ないよね?

 うん、人間だったらそもそもユエホワと小さいころから友だちだったなんてこと、ありえないもんね。

「――」ユエホワは少しだけ考えこんだ。「……見て、みたいよな」小さくつぶやく。

「ああ」ケイマンも。

「さいでございますね」サイリュウも。

「クドゥールグ様を倒した伝説のキャビッチスローをな」ルーロも。

「お前は見たことあるのか? ポピー」ユエホワが私にきく。

「なにを?」私はききかえす。

「だから、お前のばあちゃんが鬼魔と戦うところをだよ」ユエホワが口をとがらせる。

「うーん」私は自分の記憶をたどり「ううん、ない」と首をふった。

 そういえば、そうだ。

 母が戦うところは見たことあるんだけど。

 祖母のほうは、私にお手本としてキャビッチを投げて見せてくれるところしか、見たことがなかった。

「――」ユエホワはしばらく私をじっと見ていたが「行くか」とまた小さくつぶやいた。

「どこへ?」私はきいた。

「お前のばあちゃんの畑へだよ」ユエホワは眉をしかめる。「伝説の魔女の戦いを見に」

「えー、でも」私は反対をとなえた。「じゃまになるし、危ないよ」

「でも見たいだろ、お前も」

「うん、見たいはずだよ」

「さいでございますですよ」

「実の孫でも見たことがないんだな」鬼魔たちはすっかり見にいく気満々だ。

「えー、でも」私はさらに反対した。

 まあ、たしかに祖母が鬼魔をどう退治するのか、見てみたい気はする。

 私が投げるのよりずっと早いんだろうし、同時がけや成分魔法や、もしかしたらまだ私が一度も見たことのない知らない技とかも出してくれるのかもしれないし。

 けど私はそれよりも、もしこの鬼魔たちをつれてのこのこ畑へ出ていったら、ぜったいに私だけが祖母にしかられる、というカクシンがあったのだ。

 だから、行きたくなかった。

 私が怒られるもん!

「やめといた方がいいよ」なので、反対した。

「大丈夫だって」ユエホワが、なぜか自信たっぷりにいう。「なにしろポピーが守ってくれるもんな、俺たちのことは。ぜったい敵の攻撃なんかくらったりしねえよ」

「えー」私は顔をしかめた。「なにそれー」ぜったい何かたくらんでるな、こいつ。

「大丈夫大丈夫」鬼魔たちは私のいうことなどまるで聞く耳もたず、テラスのガラス戸へ向かった。

 そういえばそのガラス戸は、祖母が開け放ったままになっていたのだ。

「ちょっとちょっと」あわてて呼びとめるあいだにも、四人の鬼魔たちはぞろぞろとテラスへ出て行ってしまった。

 なので私も急いで彼らの後をおいかけ、外に出た。

 テラスからすぐには、畑は見えない。

 でもとくに何の物音――キャビッチがぶつかる音や鬼魔の叫び声なんかも、聞こえてこない。

 いったい、どうなってるんだろう?

 私たちは不審に思いながら、テラスから下り畑の方へ向かいはじめた。

「薬持ってきてるな?」向かいながらユエホワが確かめる。

「うん」私はポケットの上から小瓶のあるのを確認してうなずく。「そういえばさ、ユエホワ」

「ん」歩きながらユエホワが私を見る。

「さっきの、シルキワスの回避方法って、いつ知ったの?」私も歩きながらきく。

「いつ、って」ユエホワは歩きながら考える。「こないだ鬼魔界へ戻ったとき」

「じゃあ、うちのパパの書庫に忍びこんでたときにはもう知ってたってこと?」

「忍びこんでたって人聞き悪いな」口をとがらせる。「まあ……知ってたけど」

「そんなら、なんで回避しなかったの? あたしがユエホワにシルキワス投げたとき」

「へ」緑髪鬼魔は歩きながらとぼけたように私を見た。「あれ……なんでかな」歩きながら、考える。「まあ、お前が本気で投げてくるわけないしな、俺に」

「なんで」

「兄ちゃんだから」

「変なの」私は歩きながら肩をそびやかした。

「何がだよ」ユエホワはまた口をとがらせる。

 

「では地母神界の王として、私はユエホワを推薦するわ」

 

 そのとき、祖母が誰かにそう話す声がきこえ、私たちは全員、ぼう然と立ちすくんだ。

 

葵 むらさきの著書

 

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評価:
(2019-05-07)
コメント:ポピーは魔法学校に通う少女。その世界では、キャビッチという野菜を使って魔術を行う。ある日ポピーと親友ヨンベは、ちょっとした悪戯を思いついたが、そのせいでヨンベが恐るべき鬼魔(キーマ)にさらわれてしまった! 悲しんでいる暇はない、自分が助けに行かなくちゃ! かっこいい神様たち、そしてずる賢い鬼魔ユエホワと共に、ポピーの冒険が始まった――

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